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〝あの頃〟の記憶が蘇る「あの職員室」に1万人が熱狂! CHOCOLATE Inc.が企画する没入型展示が人々の心をつかむ理由

2026.02.11

没入型展示の成功は、空間の作り込みや物の配置、そして物語に残された余白に至るまで、来場者の感情や行動を見据えた明確な設計意図に支えられている。

数々のエンターテインメントコンテンツを生み出し、話題をさらうCHOCOLATE Inc.企画の体験作家・小板橋瑛斗さんが企画した『あの職員室』『あの夏休み自販機』は、〝物語〟を軸に特定の時代の空気感を再現しつつ、来場者自身の記憶や解釈が重なり合うことで完成する展示として、高い評価を得てきた。

今回は、小板橋さんの言葉を手がかりに、チョコレイトの没入型展示がヒットへと至る構造と、その背後にある設計の考え方を探る。

体験作家・小板橋瑛斗さん

『あの夏休み自販機』と『あの職員室』が生まれた背景

昨年末開催され、大きな反響を呼んだ『あの職員室』

     チョコレイトが手がける展示は、物語と来場者自身の〝記憶〟が重なり合い、体験後も長く余韻を残す。

一昨年に開催された『あの夏休み自販機』では、来場者は20年前の小学生の部屋へとタイムスリップし、昨年開催された『あの職員室』では、15年前に閉校した学校の職員室へと足を踏み入れる。いずれの展示も、たくさんの美術をもとに物語が展開され、多くの展示物を通して、来場者は自然と物語の世界へと引き込まれていく。

『あの夏休み自販機』は都内の自動販売機と一軒家を舞台に、『あの職員室』は飯田橋にある実際の学校跡地を会場として開催され、どちらも大きな反響を呼んだ。

こうしたノスタルジーを軸にした展示は、それぞれどのような企画意図から生まれたのだろうか。

懐かしい夏休みの記憶が蘇る『あの夏休み自販機』

「一昨年に開催された『あの夏休み自販機』は、サントリーさんと「夏休み自販機」という企画を立ち上げ、体験型イベントとして実施したものでした。その経験を通して、展示という形式でも映画のような物語体験がつくれるのではないかと考えるようになり、実験的に制作したのが『あの職員室』です」

誰しもの記憶の中にある〝夏休みのリアル〟が転じで再現された

『あの夏休み自販機』は、20年前の夏休みをテーマにした体験型イベントで、来場者が〝あの頃〟の記憶へと踏み込んでいく構成が特徴だ。都内の実際の自動販売機と一軒家を会場とし、日常の延長線上にある空間を用いることで、〝展示と現実〟の境界を曖昧にしている。

20年前の小学生の部屋を再現した空間を中心に、生活感のある展示物や手がかりをたどりながら、謎解きとともに物語が進行。来場者は展示を通して物語を追体験していく。

誰もがどこかに持つ〝夏休みの記憶〟と重なり合う点が共感を呼び、SNSを中心に話題化。キャンセル待ちが1万組を超える大きな反響を集めた。

この煩雑さこそが、記憶の中に眠る職員室そのもの

続く『あの職員室』では、実際に使われていた学校の跡地を舞台に物語が展開され、開催延期になるほど注目を集めた。いずれの展示も、来場者一人ひとりの〝平成〟の記憶と静かにリンクしていく点が印象的だ。

「どちらかというと、〝懐かしさ〟を前面に打ち出そうという意識よりも、物語の中に登場する人物の記憶や、体験してくださる方それぞれの個人的な記憶が重なり合うことで生まれる、新しい質感の体験をつくりたいという思いが出発点にあります。

そうした〝記憶が重なる体験〟を考えていくなかで、舞台設定として、体験される方の記憶が自然と集まりやすい時代を選ぶのがよいのではないかと感じるようになりました。その結果として、〝平成〟という年代設定に落ち着いています。

特定の時代や平成に強くこだわっていたというよりも、ノスタルジーに意図的に振り切ろうとしたわけでもありません。物語を組み立てていく過程で、自然に浮かび上がってきた結果、舞台として最も無理なくなじむ時代が〝平成〟だった、という捉え方をしています」

再現だけではない、物語を宿す空間設計とは?

令和に入り、平成にノスタルジーを抱く感覚は年々強まっている。しかし『あの夏休み自販機』や『あの職員室』は、特定の世代に限らず、どの世代の来場者にも、どこか自身の記憶と重なる瞬間が生まれる点に、この展示ならではの不思議さがある。

それは、単なる時代の再現ではなく、〝物語〟を体験の軸に据えていたからこそ可能になったと言えるだろう。

また、ターゲット層についても、あえて細かく設定していたわけではなかったという。

「物語として、20代後半くらいの世代が、時系列的にもいちばん懐かしさを感じやすく、共感しやすいゾーンではあったと思います。ただ、特定のターゲットに絞ろうという意識は、あまりありませんでした。

制作の中でも、ターゲットの話をするというよりは、体験型イベントによく来る人だけでなく、普段はあまり来ない人にも届くような、間口の広さをどうつくるか、という視点で考えていました。

結果として、いろいろな世代がそれぞれの楽しみ方で受け取れるものにしたい、という意図が強かったです」

そして特筆すべきは、展示の再現性の高さだ。『あの職員室』は、実際に使われていた職員室を舞台としていることもあり、乱雑に置かれた段ボールや、コーヒーメーカーから漂う香りに至るまで、その空間は驚くほど忠実に再現されている。視覚的な情報にとどまらず、嗅覚にまで訴えかける演出が、体験の没入感をいっそう高めている。

この机を使っているであろう先生が生きる〝物語〟を想像すると楽しい

「空間をつくる以上、そこには必ず何らかの〝物語〟があると思っています。たとえば、何かが置かれていれば、それは誰かがそこに置いたという行為の痕跡ですし、書き込みがあれば、誰かが書いた後の時間がそこに残っている。

ただ、空間について深く考えずにつくってしまうと、『ここに段ボールがあったほうがいいから置く』といったように、物語のない配置になってしまうこともあります。そうすると、その空間には人の気配が立ち上がりません。

だから制作の際には、すべての物に対して『この人が、こういう出来事のあとに置いたものなんだ』という背景を与えることを意識しています。

そうやって一つひとつに物語を詰め込んでいくことで、その裏側に人の存在や時間が自然と立ち上がってくると思っています。そこをくまなく考えることが、一番大事にしている工夫ですね」

何度も展示に訪れたくなる、心に残る動線づくり

両展示の魅力は、机の引き出しやロッカーなどを開け、置かれたメモやノートを読むといった来場者自身の〝探索行為〟によって、〝物語〟が立ち上がっていく点にある。

他人の私物に触れるという日常では許されない行為が、わずかな罪悪感とスリルを生み、非日常へと感覚を切り替え、〝現実とフィクション〟の境界は次第に曖昧になっていく。

また、来場者が自然と〝物語の内部〟に入り込めるよう、動線設計にも工夫が施されている。視線の先に手がかりを配置し、足を止めさせる〝間〟をつくることで、展示は〝見るもの〟から〝読み解くもの〟へと変化し、気づけば来場者は、鑑賞者ではなく、〝物語の一部〟としてその場に立っている。

「一番目指していたのは、探索しているうちに、いつの間にか〝物語の断片〟に出会っていて、気づいたら〝自然と物語を追っている〟という体験です。最初から物語を読ませるような形は避けて、来場者が能動的に動く中で、自然と物語に出会えるような設計を意識していました。

僕の中では〝右脳的〟と呼んでいるのですが、引き出しを開けるのが楽しいとか、本を漁って中を見るのが楽しいといった、手触りのある楽しさを入り口にすることを大事にしています。触ることや、開けること、眺めること自体が楽しい状態をまずつくる。その体験が〝物語〟に入っていく最初のきっかけになればいいなと思っています。

一方で、会場に入ってすぐに大量の読み物が並んでいると、どうしてもハードルが高くなってしまう。だからこそ、最初は自分で触れながら、周りと話したり、反応したりしつつ、手触りの楽しさの中で自然と〝物語〟に出会っていく。その導線を〝入り口〟として設計することが重要だと考えています」

『あの夏休み自販機』に続き、『あの職員室』も告知と同時に瞬く間に話題となった。SNSには「行ってみたい」という声が相次ぎ、会期が延期されるほどの反響を呼び、物語の考察も含めて、展示に魅了される人は後を絶たない。

『あの職員室』は何もないコンパクトな空間にイチから作られた没入型展示

「『あの職員室』に関しては、会場が職員室ほどのコンパクトなサイズだったこともあり、1回あたりに入場できるお客さんの数が限られていました。実際、当初の会期である2週間だけではあまり多くの方にお入りいただけていなかったと思います。そうした状況もあって、結果として会期をトータルで3週間に延ばす判断につながったのかなと感じています。

なかでもうれしかったのは、何度も足を運んでくださるリピーターの方がいらっしゃったことです。正直、そこまでの熱量で受け取っていただけるとは想像していませんでした。予想を大きく超える反応で、とても印象に残っています」

一昨年から昨年にかけて来場者を魅了してきたチョコレイトの展示は、今後どのような展開を描いていくのだろうか。

「イベントの形そのものをどう広げていくかというよりは、物語から考えていくことだったり、来場者の方が自然と物語に出会っていく動線をどうつくったりするか、という〝つくり方〟の部分をずっと大事にしてきました。

この考え方自体は、すごく普遍的なものだと思っています。だからこそ、こうした仕組みを使いながら、これからもいろいろな物語をつくっていけたらいいなと考えています。

展示を体験したあとも静かに余韻が残ってくれたらうれしいですし、そうした〝物語〟を大切にしながら今後も心に残るイベントをつくっていきたいと思っています」

近年、没入型展示は若者を中心に人気を高めているが、チョコレイトの成功を支えているのは、空間演出以上に〝物語〟そのものを重視している点にあるだろう。

体験の先に綿密な〝物語〟が用意されているからこそ、来場後も考察や共有が生まれる。今後、どのような物語が立ち上がっていくのか、次の展開にも注目したい。

取材・文/Tajimax

東京都出身。2018年からSNSを中心に90年代〜00年代の平成ガールズカルチャーをメインに紹介している。以降、『オリコンニュース』『現代ビジネス』『WWD.JAPAN』『クイック・ジャパン』『Fashion Tech News』『東洋経済オンライン』などで平成カルチャー関連のインタビューや執筆・寄稿に携わる。古雑誌をメインに平成ガールズカルチャー関連のアイテムを膨大に所有。

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