2026年1月、調査会社のFortune Business Insightsは「世界の製造業向け仮想現実市場規模は、2026年の86億6000万米ドルから2034年までに691億6000万米ドルに成長する」と発表した。今、VR(Virtual Reality:仮想現実)の実装が進んでいる。
VRとは人が専用ゴーグルを装着し、コンピュータで作り出された三次元のデジタル空間を、没入感とともに体験できる技術のことだ。
2026年はJR貨物がVRを使った安全教育を導入したり、新潟大学医歯学総合病院でカスタマーハラスメント研修にVRが使われるほか、技術者の育成、医療シミュレーション、不動産の内見ほか、多様なシーンでVRが活用されている。
参考:
Fortune Business Insights の発表
JR貨物
新潟医大
エンターテイメント業界のVRで今最も注目されているのが、東京タワーで開催されている『Art Masters:プラド美術館所蔵品VR展(特別協力:TKP)』だ。これは、プラド美術館と収蔵絵画に没入しているような絵画ができると話題のイベントだ。
中国の上海で約10万人、アルゼンチンのブレノスアイレスで約2万人という動員数を誇り、開催3国目となる日本でも盛況を見せている。このイベントは、社会課題の解決や、ビジネスのヒントも多い。コンテンツを制作したAquaVision代表取締役・付 斯瑶さんと、同社に出資したTKPの担当・マーケティング部の山根賢一さんに今後の展開を伺った。
『Art Masters:プラド美術館所蔵品VR展(特別協力:TKP)』(以下・『プラド美術館VR展』)は、来場者がVRゴーグルを装着し、スペイン国立プラド美術館の中を歩き回るというプログラムだ。装着する機器は映像の解像度が高く、軽量で知られる『PICO 4 Ultra Enterprise』(約0.7kg)で、体の負担は少ない。約30分のアトラクションをストレスなく楽しむことができる。
観客は、プラド美術館が所蔵する5つの世界的名画の世界に「入り込む」ことができる。この体験がVRならでは。また本展は見るだけでなく、ハンドトラッキング機能(ユーザーの手指の動きをリアルタイムに検知・認識する技術)も使用しており、自分の手でVR空間内において松明を持ったり、地球儀や人形などにも触れることができる。まるで自分自身が、プラド美術館の名画に呑み込まれていくような感覚に包まれるのだ。
プログラムに採用されている作品はヤン・ブリューゲル&ルーベンス『視覚の寓意』(1617年)、ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』(1656年)、パオロ・ヴェロネーゼ『ヴィーナスとアドニス』(推定1580年)、フランシスコ・デ・ゴヤ『魔女の安息日』(1820-1823年)、ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』(1490-1500年)だ。いずれもプラド美術館から外にほぼ出ることがない、世界的名画ばかりだ。
プラド美術館のみならず、絵画に世界にも没入できる約30分の“旅”は、没入感が高く満足感がある。このコンテンツを作成したAquaVision代表取締役・付 斯瑶さんに制作の背景を伺った。

参考:https://www.instagram.com/p/DP0YcYOEpFk/
「世界的名画は、国外の貸し出し機会が非常に少なく、鑑賞の機会が限られています。もし、貸し出しがされたとしても、大都市の美術館で公開されることがほとんどです。すると、高齢者、障がい者、地方居住者、経済的に制約がある人の鑑賞機会が少なくなってしまう。しかし、VRなら地域を問わず、多くの人が作品の世界観や文化を享受することができます。VRコンテンツの広がりは、社会問題になっている“体験格差”にもアプローチできると思うのです」(付 斯瑶さん)
体験格差とは、子どもの学力向上や人間関係構築に必要な文化的資本に差が出ることをいう。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの『子どもの「体験格差」実態調査 最終報告書』(2023年)では、三大都市(首都圏・中京圏・近畿圏)以外に居住する家庭は、三大都市圏の家庭と比較し、子どもの体験活動への年間支出額が約2万8千円低いという結果だった。
参考:https://cfc.or.jp/wp-content/uploads/2023/07/cfc_taiken_report2307.pdf
「スペインのプラド美術館をコンテンツに選んだのも、世界的美術館のルーブル(フランス)やメトロポリタン(アメリカ)に比べ、訪れるのにハードルが高い美術館だと感じたからです。多くの方が“行きたいけれど行きにくい”と思っていたからでしょう。『プラド美術館VR展』は上海で話題になり10万人を動員。その後、ブレノスアイレスで公開しました。アルゼンチンの宗主国が、かつてスペインだったこともあり、たくさんの反響をいただき、4万人が観に来てくださいました」(付 斯瑶さん)
全国で貸し会議室を手掛けているTKPは、2025年に付 斯瑶さんが代表を務める、VRコンテンツ制作会社AquaVisionと提携。このことが、『プラド美術館VR展』の日本開催に繋がった。担当の山根賢一さんは、VRコンテンツは、「スペースを有効に活用できるコンテンツとして、VRの可能性を確信しました」と言う。
「TKPにとってコンテンツ事業は全く新しい挑戦です。今後、全国の施設や空間を活用しながら、VRをはじめとする体験型コンテンツをさらに拡大し、空間が持つ価値をさらに高めていきます」(TKP山根さん)
『プラド美術館VR展』は、多くの人が場を共有するロケーションベースエンターテイメント(LBE)でもある。今、最も注目されるエンタメの形態・LBEには、テーマパークや没入型展覧会(イマーシブ・ミュージアム)、謎解きゲームなどがある。
「多くの人が、同時に体験する一体感があり、空間を共有しているから、感想を言い合う楽しみもあります。私たちは今後もVRコンテンツと空間のコラボレーションを発展させていきます」(TKP山根さん)
圧倒的な体験ができるVRコンテンツの注目度は高い。2024年12月にオープンした『IMMERSIVE JOURNEY』は、開業1年で来館者数は12万人を突破。好評を受け、2026年1月に名古屋でもオープンした。その他の商業施設にもVRコンテンツは増え続けている。「百聞は一見にしかず」ではないが、一度その世界に触れてほしい。きっと可能性の扉が開くはずだ。
●Art Masters:プラド美術館所蔵品 VR展(価格はすべて税込)
・会期:~2026年4月12日
・場所:東京タワー1階 タワーホールA
・【通常チケット】平日券:4000円、 休日券:4500円
・【特典付きチケット(デジタル記念写真プレゼント付き)】平日券:5000円、 休日券:5500円
・【U35 割(若者アート応援)】平日休日共通:2800円
・【U18 割(学生アート応援)】平日休日共通:1200円 ※大人1名の同伴必須
https://www.artmasters.jp/
取材・文/前川亜紀







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