日本の書店数は、バブル崩壊前の1988年をピークに一貫して減り続け、今では最盛期の半数を切る、約1万店にまで落ち込んでいる。
従来型の書店は減少する一方、新機軸の形態の書店が続々と登場している。そのひとつが「無人書店」だ。これは、読んで字のごとしで、店員がいない書店。来店者は、買いたい本をセルフレジで決済することで無人化を実現。出版流通業者や大手書店も参入するなど、ちょっとしたトレンドとなっている。
無人書店の流行の背景にあるのは、なんだろうか? 単純に考えれば、顧客は店員の目を気にせずじっくり本を選べ、運営側は人件費を削減できるメリットでWin-Winが実現……となるだろうが、それオンリーでもなさそうだ。
疑問を解き明かすべく、当の無人書店を取材した。
簡単な手続きで入店できる
最初に訪れたのは、「ほんたす しんこうべ」。新神戸駅の北改札口を出てすぐの地下構内にある。出版流通大手の日本出版販売(株)が、2025年6月にオープンした無人書店である。
行ってみると、窓の向こうに本が並ぶ書棚があり、一見してふつうの書店。

だが、防犯上の理由から、中に入るには所定の手続きが必要となる。初めての来店時に、窓に貼られてある二次元バーコードをスマホで読みとり、LINE友だちになる必要がある。そこから会員登録を行う。
一瞬、面倒に思ったが、実際は氏名、生年月日、性別を入力するだけだ。あとは、「利用規約・個人情報保護方針について」の確認などを選択すれば、二次元バーコードでデジタル会員証が発行される。それをドアに付いているリーダーにかざすことで、ドアは開く。

中は通常の書店と変わらない。売り場スペースは決して広くはないが、各ジャンルの本がぎっしりと陳列されている。文庫の小説やコミックの比率が多めなのは、新幹線で長旅する利用者を意識してのことだろうか。淡路島の旅行ガイドの下に、淡路島の土産品が置いてあるなど、売るための工夫が随所になされている。

店員はいないので、会計は出口そばのセルフレジで行う。現金は対応していないが、クレジットカード、電子マネー、二次元バーコード決済、交通系ICカードが使え、領収書も発行可能だ。
15分ほど店内にいたが、電車利用客がまばらな時間帯にもかかわらず、3人のお客さんが来店し、購入していった。
60代以上を含め幅広い世代が利用
実は、「ほんたす しんこうべ」は、日本出版販売が展開する完全無人書店の2店目。2023年に東京都内で「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」がオープン、1年足らずで会員は1万人を超え、順調な滑り出しを見せている。
同社広報によると、「ほんたす」という印象的なネーミングは、「完全無人書店だけでなく、店舗運営省力化ソリューションの総称」であるという。
1店目を立ち上げた理由について、次のように語る。
「現在、全国的に書店軒数が減少していることが社会課題の一つとなっています。とりわけ駅ナカ・駅前立地においては、人件費と賃料によって書店経営が圧迫され、その結果閉店となってしまう例が多数見受けられます。弊社は、人々の生活導線上から本とのリアルなタッチポイントがなくなってしまうことで、読書習慣が失われてしまうことを危惧しました。
そこで、書店経営のコスト削減と売上アップを実現し、持続可能な書店モデルの確立を目指して、『ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店』をオープンしました。
同店を利用されるのは主に20~50代のビジネスパーソンで、売上の約4割をビジネス書や自己啓発を含む実用書が占めています。一方、児童書や文庫などもギフトや気分転換に読むものとして需要があり、仕事帰りに立ち寄る“ちょっとした憩いの場”としても支持されています。
対して『しんこうべ』は、観光客のご利用も多いのが特徴です。40~50代の女性比率が高く、新幹線移動のお供として文庫などの読み物がよく売れていますね」
ところで、会員登録が必要というちょっとしたハードルによって、来店客層が限定されてしまう懸念については、予期したほどではなかったという。特に60代以上の会員が想定以上に多く、幅広い世代に利用されているそうだ。
また、来店動機を強化するため、小説原作の映画化企画などと連動したフェアや、地元企業とコラボした雑貨を展開するといった取り組みを行っているとも。
今後の展開としては、同社と取引のある書店への「ほんたす」ソリューションの導入・拡大を進め、ゆくゆくは「あらゆる小売店様の省力化ニーズに応えられるよう」積極的に働きかけを行うそうだ。
無人書店×シェア型書店のハイブリッドも
次に立ち寄ったのは、奈良市にある「ふうせんかずら」。2018年開業というから、無人書店としては草分け的な存在となる。
店は、近鉄奈良駅付近の「ならまち」と呼ばれる繁華街から少し離れたところにある。明治43年にできた大きな古民家を改装した、風格のある店構えだ。

ここもやはり防犯の観点から、入店には事前の会員登録が必要となる。公式サイトのメンバー登録フォームで、氏名や生年月日といった情報を入力・送信することでIDナンバーが発行される。この6桁の番号を控えておき、店のドアにあるテンキーに入力すると、解錠される仕組みだ。ちなみに、この手続きなしで訪れた場合でも、スマホから仮登録して入店することが可能。
「ほんたす しんこうべ」と大きく異なるのは、ここはシェア型書店である点だ。これは、個人が棚のスペースをレンタルし、そこに自身が所有する本を陳列販売するという方式。常時約60人の「棚主」が、様々なジャンルの本を扱っている。ZINE(同人誌)やブックスタンドといった雑貨も扱い、品揃えは豊かだ。

ここも店員は不在なので、会計はセルフレジ方式。スティック飲料、紙コップ、ウォーターサーバーが常備されているので、本を買ったら、店内カフェスペースで休憩できるという趣向。
無人時と在店時とで客層はがらりと変わる
実は、「ふうせんかずら」は常に無人というわけではない。おおむね週5日の7:30~10:00は、カフェスペースで「おはなさんのおむすび屋さん」が営業。スタッフの「おはなさん」が、おむすびをにぎってくれる。

くわえて、週1日の割合で13:00~16:00の時間帯が「カギ開放DAY」となる。この日は、スタッフと棚主が1名ずつ在店し、IDナンバーの入力なしで誰でも入れ、現金決済も可能になる。
主に無人、ときどき有人という方針について、運営側の竹本すみれさんは、次のように話してくれた。
「店員がいないほうが、リラックスできて来やすいという人は、結構います。店の感想を書けるメッセージカードを置いていますが、無人の時間帯に書いてくださる方が圧倒的に多いです。
ちょっとした人生相談を書いてくれる人もいますが、店員や他のお客さんがいなくて、本を読める環境は、自分と向き合い、人生を考えるきっかけを与えてくれるのだと思います。一度に何冊も買われるパターンも、無人の時間帯を選んで来店される方が多いですね。
逆に、週末のカギ開放DAYですと、お客さんの層はがらりと変わります。登録するという入店のハードルがなくなるので、たまたま通りがかってという人も含め絶対数は多いですし、その一部が常連さんになることも期待できます」
筆者が、取材に訪れた日は、ちょうどカギ開放DAYであった。家族連れや外国人旅行者と思しき人たちが次々と来店し、活況を呈していた。
「本が売れず、書店経営が難しい時代」と言われる。だが、「工夫を重ね、店の魅力を高めることで、まだまだやりようはあるのでは」と、2店だけであるが今回の取材で感じた。無人書店という形態は、書店活性化の1つのロールモデルとなるかもしれない。
・ほんたす公式サイト:https://hontasu.com
・ふうせんかずら公式サイト:https://narabook.space
取材・文/鈴木拓也
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