「絶品B級グルメ」とか「ソウルフード」と呼ばれるものは日本全国にある。で、みなさんはこう考えたことはないだろうか。「日本各地にあるんだったら世界各地にも当然B級だけど超絶うまいものがあるんじゃないか?」と。
というわけで世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」が、居住国や旅先で出会った「絶品ソウルフード」を大紹介するシリーズ。今回はチリから「ピスコサワー」をお届けする。
ストロング系よりストロング
アルコール度数が8~9パーセント以上とビールなどに比べて高く、その一方で炭酸が効いていてフルーティーな味わい。無糖のものもあるが、多くは甘く苦味もなくて飲みやすい。
この15年ほどの間「ストロング系チューハイ」は日本のアルコール市場の一つのトレンドだった。
ところが2024年には各社が販売を減らすと発表。理由はあまりに口あたりがよくグビグビ飲めることで、急性アルコール中毒やアルコール依存症などの健康被害が心配されるからだという。そう、つまりは「ヤバいくらいうますぎる」ということだ。
そんなストロング系チューハイのおいしさとアルコール度数をさらに高めたような飲み物が今回紹介する「ピスコサワー」。
チリとペルーの両国が「わが国こそがピスコサワー発祥の地」と元祖を主張しているが、今回筆者が何度も飲んだのはチリだ。

最高に飲みやすいシンプルなカクテル
作り方はかなりシンプル。用いるアルコールはチリまたはペルーを原産とするブドウを原料とした蒸留酒「ピスコ」。このピスコそのものも両国が「わが国こそ発祥の地」と本家本元論争を繰り広げている。
ただ南米でブドウの栽培が始まり、ピスコが最初につくられたのは16世紀といわれる。チリとペルー建国はそれぞれ1818年と1821年だからピスコのほうが両国の歴史よりも古い。
このピスコは無色透明または淡い琥珀色。ブドウ由来のフルーティーでさわやかな口あたり。そして芳純な味わい。つまりアルコール度数は35~45度あるが、ストレートでも飲みやすい酒だ。
このピスコをベースに、チリではピカレモン(小粒で香りの強いレモン)のしぼり汁、シロップを加える。一方ペルーではピカレモンの代わりにライムのしぼり汁を用い、「ビターズ」という蒸留酒と卵白を加えるという。他にも多少のアレンジはあると思われるが、基本となる原料はピスコとレモンかライムとシロップの3つ。3コードのロックンロールのようなストレートでわかりやすい組み合わせだ。これを1対1対1の割合で混ぜるべしという人もいれば、5対2対2こそが正当という人もいる。

ピスコの割合によって左右するがピスコサワーのアルコール度数は13~25パーセントくらい。味わいは「糖分の入ったストロング系レモンサワーまたはライムサワーから炭酸を抜き、柑橘系の香りと甘さをグッと増したもの」。甘みとさわやかさでおいしさは「マシマシ」状態だ。
しかもレモンやライムでアルコール臭は薄れ、まるで果汁入り飲料のような飲みやすさ。それに加えて炭酸で増量されていないのでおなかも膨れない。
グビグビ行けてしまうが、先ほども書いたようにピスコサワーのアルコール度数は最低でも13パーセントもある。グビグビ行ける13度。困ったカクテルである。
どんな料理にもあう!
しかもこのピスコサワー、さらに我々を困惑させるのがどんな状況にも、そしてどんな料理にもあう点だ。柑橘系のほのかな苦みと酸っぱさが食欲をそそるので食前酒にもぴったり。そして甘いお酒であるのだが柑橘系のさわやかさがあるので、意外と食事の邪魔もしない。
ちなみにチリの食事は「素材のおいしさを大切にする」ものが多い。たとえば代表料理である南米風のバーベキュー「アサード」は炭火焼きだが強火で炙るのではなく、大きなブロック肉(場合によっては子牛、子羊、子豚などを丸ごと)を熾火で1~2時間かけてじっくりとうまみを引き出す。

味付けは岩塩のみが基本。いかに素材のうまさを大切にしているかお分かりいただけるだろう。

また南部のパタゴニアの海ではサーモンもよく獲れる。こちらも塩を振ってローストまたは軽くスモーク(よくあるスモークサーモンのように薄切りにするのではなく、塩じゃけのような切り身で提供)するというシンプルな食べ方が多い。

ソースが素材のうまさを消してしまうような料理も多い中、チリの食事は肉も魚も日本人の好みによくあうと思う。

そして甘いけれども柑橘系のさわやかさとかすかな苦みがあるピスコサワーは、そんなシンプルな料理にあわせても最高だ。
さらに甘みもあるので食後酒にもピッタリだ。
そして食後酒でお開きにならないのがチリの夕食。食べ終わった後は音楽に合わせてのダンスパーティーが2時間、3時間……と延々と続く。もちろん踊ったり叫び声をあげたりしていれば当然、喉も乾く。ピスコサワーの出番も増える。
なんたって細かいところを無視すればピスコとレモンかライムとシロップの3素材。まるでチューハイやハイボール、梅酒のソーダ割りやラム&コーラをつくるくらい手軽さにできる。誰でもできる。「お~い、みんなの分、作っといたよ~」「ああ、気が利くね~」「ありがとう」「じゃあ、みんなでかんぱ~い!」。これが延々ループで続く環境が整いすぎているのだ。

筆者もチリで何度かこういう夕食を楽しんだ。そのうち一度は午後7時スタートで途中リタイアしたのが午後11時過ぎ。「おいおい、これからが夜本番だろう」という目をしたチリ人たちに見送られながらその日の宿へと退散した。それまで飲んだピスコサワーを少なくとも10杯。いや、15杯は行ったかな? 記憶が定かではない。
一杯はせいぜい150ミリリットル以下だが、それだけ飲めばさすがにかなりの量。これが本当の「チリも積もれば山となる」である。
とにかくチューハイのように飲みやすい。やめられない止まらない状態になる。しかもストロング系よりもずっとずっとストロング。みなさんも飲みすぎに注意して楽しんでいただきたい。
今ふと「ピスコサワー沼」という言葉が頭に浮かんだ。世界はうまいで満ちている。
取材協力
Amity Tours/https://www.amity-tours.com/
CHILE TRAVEL(チリ政府観光局)/https://www.chile.travel/en/
ATTA (ADVENTURE TRAVEL TRADE ASSOCIATION)/https://www.adventuretravel.biz
文/柳沢有紀夫
世界約115ヵ国350名の会員を擁する現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える』(朝日新書)などのお堅い本から、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)などのお笑いまで著書多数。オーストラリア在住







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