米国の医師ピーター・アティアは書籍「アウトライブ」で、医療の進化を3段階に分けて、話題となった。最初の医療1.0時代は経験と勘に頼っていた時代。次の医療2.0は科学と平均値によって、感染症を克服した時代。そしてコロナ禍を体験したこれからの医療は3.0時代に突入するという。
この医療3.0時代とは、個人がリアルタイムで取得するデータを基に、日常の中で小さな仮説検証を繰り返し、病気の予防と健康の最適化を実現させることを目指す医療である。医療テクノロジーが進化し、私たちが自分の健康を正しく管理できるようになった。
この考え方に賛同しているのが、消化器外科医でクリニックウェルロンジェ院長の石黒成治先生である。糖質リスク管理で日本人の寿命はもっと延びると主張し、食後高血糖管理が万病を防ぐと考えている石黒先生は、このほど「糖質リスク 自覚なき食後高血糖が万病を招く」(SBクリエイティブ発刊、定価1100円)を発刊した。先生が考える医療3.0時代の糖質管理について、教えてもらおう。
血糖値上昇が招く怖い慢性疾患
「自覚なき食後高血糖は万病を招く」と石黒先生は警告しているが、なぜ血糖値のコントロールが必要なのか。食事後の眠気は誰もが経験したことがあるはずだが、この食後にすぐ眠くなる原因の一つが血糖スパイクにある。
食後に眠くなるのは、年齢や体力の低下ではなく、食後に血糖が急上昇し、その後の急降下で脳のエネルギーが不安定になることで、眠気やだるさが出てしまうのである。こうした症状は、まさに食後高血糖のサインのひとつ。糖質の多い食事を摂取したとき、食後の血糖値の上昇をコントロールすることが難しく、実際に血糖値を測定してみると、ジェットコースターのように急上昇・急降下する血糖スパイクと呼ばれる変化を示す。
この食後血糖値異常は「隠れ高血糖」とも呼ばれ、具体的な対策を取られることなく、本物の糖尿病へと進行してしまう。いくら空腹時血糖値が正常でも、食後に血糖が急上昇している人は珍しくない。健康診断ではなかなか見つからない症状である。
実際に血糖値が上昇している時、細胞内ではどんなことが起きているのかを簡単に解説しよう。細胞に入ったブドウ糖はまず「解糖系」という代謝経路を得て、ミトコンドリアに送られる。ミトコンドリア内ではTCAサイクル、電子伝達系と呼ばれるエネルギー産生の通路を通って、ATP(アデノシン三リン酸)が作られる。それと同時にフリーラジカル(活性酸素)が生じる。糖の処理の許容上限を超えた時、大量のATPが作られ、フリーラジカルが大量に生じてしまうのだ。そして、このフリーラジカルが原因の組織障害が起こり始める。この組織障害の一つが細胞の老化の促進だった。
このフリーラジカルは私たちの細胞内の遺伝暗号であるDNAを破壊したり、有害な遺伝子を活性化させてしまうなど、がんの発生につながる可能性がある突然異変を引き起こす。さらには細胞の膜を破壊し、正常に機能している細胞を機能不全の細胞に変えてしまう。
こうしたスパイクが繰り返し発生する度に、フリーラジカルが細胞内に溢れ帰り、結果的に心臓病、二型糖尿病、認知機能の低下や老化を引き起こすのである。こうした細胞へのダメージと同時に恐ろしいのが、血管へのダメージだ。
血糖上昇程度が高い人ほど、血管のダメージが大きく、血糖スパイク自体が血管の内皮機能障害を引き起こす。結果的に心臓血管疾患のリスクが上昇してしまう。「食後高血糖はあなたの寿命を縮めてしまいます」(石黒先生)と指摘している。
なぜ糖質リスク管理が大切なのか
糖尿病など慢性病に対する医療のアプローチが遅れていると、石黒先生は主張している。感染症による早期死亡は激減しているが、主要な8つの感染症を除いて、死亡率を見てみると、心臓血管疾患、がんなどの慢性疾患による死亡率は20世紀後半になっても実はそれほど大きくは変わっていない。石黒先生は、「感染症を克服した医療の成功体験が、新たな壁となって、糖尿病などの慢性疾患へのアプローチが遅れている」と、現在の医療を分析している。
感染症のように、単一の原因で引き起こされる疾病に対しては、感染を予防する対策や病原菌を攻撃する治療を行えばよい。しかし高血圧、糖尿病、心筋梗塞や脳卒中、そして癌といった慢性疾患は、生活習慣、環境、遺伝が複雑に絡み合い、何十年もかけて進行して行く。これを感染症と同じように、単一の原因を突き止め、それを薬で攻撃するやり方では、慢性疾患という病気を克服することは難しくなる。
実際、医学界に統計学が本格的に持ち込まれてからは、有効とされる薬が増えても、患者数は減らず医療は膨張する一方である。石黒先生が専門とする糖尿病患者数は、過去50年で数倍に膨れ上がり、(糖尿病)予備群を含めると、実に1000万人以上となっている。さらには、がんや心臓血管疾患はずっと変わらず、ずっと主要な死因のままなのである。
さらに病気には、治療のガイドラインがある。すべての病気はこのガイドラインに則って、治療が行われる。ガイドラインは試験から導かれた平均値の優劣から決定され、医師がそれに従って治療計画を作成する。この平均値で救われる人がいる一方で、効果がない人や、ただ副作用だけの人も大勢いる。こうした従来の医療では、私たちは自分の命を守り切れなくなっているのだ。
CGMで自分の血糖値を可視化しよう
自分自身で現在の血糖値をリアルタイムで認識するために有効なのが、CGM(Continuous Glucose Monitoring:持続血糖モニタリング)である。 「CGM によって自分の血糖値をリアルタイムに把握することは、医療における大きな革命とも言える出来事です」と、石黒先生はCGMを高く評価している。
「多くの人は健康診断で異常が見つかっても、日常生活で問題がなければ、根本的な対策を先延ばしにしてしまいます。しかし、CGMによって、自分の血糖値の異常が常に可視化されていたら、確実に何かしらの行動を起こそうという気持ちになるでしょう」(石黒先生)。まず自分自身の現状を正確に把握することが大切で、そのためのツールとしてCGM は強力な武器となりそうだ。
実際、血糖値が大きく跳ね上がる「スパイク」が隠されていても、健康診断でその数字は表に出てこない。血糖スパイクが起きていたとしても、自覚症状がほとんどないし、空腹時の血糖値は健康診断で異常とされることがほとんどないからである。
しかし、前述したとおり、脳卒中や心筋梗塞などの救急血管疾患の大きな原因は、血糖値である。健康診断の数値だけで、このスパイクを見逃してしまうのは非常に危険なのである。
CGM はセンサーを上腕に装着するだけで、10日から14日間、継続して血糖値を測定することができる。数値はスマホのアプリに送信されることで、リアルタイムの血糖値が示される。現在、CGM はインスリン療法を必要とする糖尿病患者への処方が一般的だが、高血圧や脂質異常症といった代謝異常を持つ患者さんこそ、積極的に活用すべきだと石黒先生は主張している。
特に糖尿病予備軍と呼ばれる状態の人では、CGM 装着によって適切な対応を行えば、100%元の健康な状態に戻すことが可能になる。また、すべての患者がそうであるとは言えないが、内服薬の減料やインスリンからの離脱といった効果が期待できる。
これまでは研究室や病院でしかできなかった臨床試験さえも、日常の中で自ら行われるような時代になってきた。私たち個々人の状態に焦点を当てた医療が実現しつつある。
「病院に頼らずとも、人々が自宅で予防医療が実践でき、生活者自身が主体的に健康を設計できる時代が本格的に到来しました」という石黒先生。新刊書では食後の血糖値上昇を防ぐための具体的な方策なども紹介されているので、ぜひ参考にしたい。
石黒成治さん
消化器外科医、ヘルスコーチ
消化器外科医・クリニックウェルロンジェ院長。1997年名古屋大学医学部卒。国立がん研究 センター中央病院(当時)で大腸がん外科治療のトレーニングを受け、名古屋大学医学部附属病院、愛知県がんセンター中央病院、愛知医科大学病院に勤務。現在は予防医療を目的 とした健康スクールを主宰。著書に『食べても太らず、免疫力がつく食事法』『医師がすすめ る 少食ライフ』(クロスメディア・パブリッシング)ほかがある。Dr Ishiguro の YouTube チ ャンネルは登録者数50万人超(2025年9月現在)。
文/柿川鮎子
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