ペットの言葉にならないサインや行動を観察し、動物たちの気持ちや、行動の意味を理解しながら一緒に暮らしていく「傾聴飼育」。実際に傾聴飼育を実践している飼い主さんの間では、ペットとの信頼関係が高まり、それまで以上に愛情を深めることができたと好評である。
今回はベックジャパン動物病院グループ行動診療科専科長で、獣医師・獣医行動診療科認定医・伴侶動物行動カウンセラーの藤井仁美先生に、家庭でできる猫の傾聴飼育の実践方法を教えてもらおう。前回は犬が対象だったが、猫は犬とはまた異なる重要なポイントがあるらしい。藤井先生に、猫の飼い主さんのための傾聴飼育実践方法について聞いてみた。
飼い主もワンコも幸せに!獣医さんに聞いた「傾聴飼育」の実践方法
傾聴飼育とは飼育動物の言葉にならないサインや行動を飼い主が注意深く観察し、動物たちの気持ちや、行動の意味を理解しながら飼育する方法である。傾聴飼育が普及すれば、…
ポイント1■猫の習性を知った傾聴飼育を
――前回、犬の傾聴飼育について伺いました。傾聴飼育の有効性や効果について、理解することができましたが、今回は猫の傾聴飼育について教えてください。どんな点が異なるのでしょうか?
藤井先生 まず猫は基本的に単独行動をする性質をもっています。この点が犬とは根本的に異なる点です。ある程度順応性はあるものの、基本的には自分本位でマイペースに行動することを好みます。こうした猫の習性は以前からわかっていましたが、近年特に海外では猫の複数頭飼育が猫たちにとって本当に幸せかどうかを再考する流れが出てきました。実際私どもの病院でも、ストレス性の膀胱炎といった病気や問題行動を繰り返してしまう猫は複数頭飼育である場合も多く見られます。そこで専門家の意見を集めて、猫の習性を重視し、同じ家で暮らす猫たちが対立せず、幸せに生活するためのガイドラインが発表されるなどの動きが出てきていることを、まずは紹介しておきたいと思います。
猫はいつだって自分のことを一番に考えます。そうした性質を知った上で、飼い主さんはそれぞれの猫に合った適切で快適かつ健康的な環境を用意することが大切になってきます。
ポイント2■猫の傾聴飼育は「自分が一番」を優先
――「自分が一番」と考える猫と一緒に幸せに暮らしていくには、その子に合った飼育環境が求められるということですね?具体的には?
藤井先生 猫にとって必要な物資(食事や水、トイレなど)をいつでも使えるように、環境を整えることが必要です。例えばトイレは、「行きたい」と思った猫が、ストレスなくトイレに到達できるようにしてあげます。複数頭飼育の場合、トイレに行く途中で自分が嫌いな猫の前を通らなければならないとしたら、トイレを我慢してしまうかもしれません。単頭飼育の家庭でもトイレがいつもいる快適な場所からアクセスしにくいと、行く回数を減らしてしまうことも考えられます。そうやってトイレを我慢することで結果的に健康に悪影響を与えてしまうことがあります。そうならないよう、例えばトイレの数や置く場所を増やすなど、猫が好きな時に好きなトイレを使えるよう、気持ちを考えて工夫することも大切です。
それぞれの猫が快適に過ごせることが大事で、複数頭飼育の場合は猫同士の関係性も考慮していく必要があります。具体的には、あまり仲がよくない猫同士はお互いに距離を置いて過ごせるように、快適な居場所の住み分けや時間差利用ができるとよいでしょう。そうすることで、相手を気にせずよりストレスなく過ごすことができるようになります。
ポイント3■猫が安心して暮らせる環境づくりを実践
――実際、先生に相談される猫の問題行動とは、具体的にどんなものが多いのでしょうか?
藤井先生 多いのは飼い主や同居猫に対するかみつき、ひっかきといった攻撃行動です。猫の大半は「怖くて攻撃的になる」ことが多いので、安心して暮らせる環境づくりがとても大切になってきます。
繰り返しますが、猫は犬と違って単独行動をする動物なので、自分の身を守ることが生きる上での最優先課題です。自分の力で餌をとることができなかったら死んでしまいますから、自分のごはんは独り占めしたいという気持ちが強いです。単独行動で病気になったら、ヒトのように助けてくれる家族はいませんから自分で自分の身を守ります。ですから、猫自身が安心して暮らせることがとても大切で、いかに安心感を与えてあげるかが攻撃行動を防ぐポイントになってきます。
例えば猫は自分のいる場所=パーソナルスペースが安心で快適でなければストレスを感じます。社会性の高い犬よりも恐怖心や警戒心が強く、かつ自分本位で自己主張も強い動物ですから、自分自身を守るための隠れ場所を多く用意し、隠れたいと思った時はいつでも隠れられるようにしてあげるとよいでしょう。また、猫は高いところへのぼる特性もあるので、逃げたり下を見張ることができる高さのあるスペースを用意し、猫にとって安心安全な場所を作ってあげます。そして猫にとって大事なもの、具体的には食べ物と水とトイレなどですが、それらはいつでも手に入るように豊富な数を用意し、その場所への動線なども整えることが大事です。
猫と接する時は発するサインを読み取り、怖がっていないかなど気持ちを考えることも大切で、怖がっているサインが出ている時は猫を追い詰めないようにすると、恐怖による攻撃行動を防げます。
トイレ以外の場所で排泄するという問題行動もあります。本来猫はきれい好きで、広い自然界では自分が気に入った場所を自由に選び、そこをトイレとして排泄する動物です。汚れた場所や嫌な臭いのする場所では排泄したがらない傾向にあるので、家にあるトイレが汚いことが原因でトイレ以外で排泄するようになることが多いです。ですから排泄物はすぐに取り去り、1~4週間に1度は猫砂を全交換するなど、トイレを清潔に保つことも非常に大切になります。
ポイント4■猫の習性を満足できるような遊びを取り入れる
――「食べ物・水・トイレ」と基本的な飼育管理面でのお話でしたが、もう一歩進めて、猫の気持ちに寄り添った接し方について教えてください。
藤井先生 猫は自分で獲物を捕って食べる習性が色濃く残っている動物です。この捕食行動を遊びという形で満たしてあげることで、愛猫と飼い主さんの幸福度が増してきます。実際、遊びが足りないと飼い主さん相手にかみついたりひっかいたりなど、捕食欲求が満たされず不満に感じていることを攻撃行動で満たそうとする場合もあります。
遊びは気持ちを満たしてあげる大切な要素なのですが、冒頭でも解説したとおり猫は「マイペースで行動する動物」です。気持ちが乗らなければ、どんなに楽しい遊びに誘ってもダメなのです。猫に対する傾聴飼育のポイントとして、「猫が遊びたいサインが出ているタイミングで遊びに誘うこと」など、猫のペースで接してあげると猫は満足します。
多くの飼い主さんは、愛猫が遊びたいタイミングを行動や表情で理解されていると思います。わくわくしながら飼い主さんを見ていたり、活動的になったり、大好きなおもちゃをくわえて来る猫もいますよね。もしそういったお誘いが無く、いつ遊んであげたらよいかわからない場合は、観察記録をつけておくことで、どの時間帯によく遊ぶかを知ることができます。猫の気持ちを読み取り、その要求に合わせて接して心を満たしてあげることが、まさに傾聴飼育なのです。
ポイント5■猫の傾聴飼育はヘルスプロモーションの重要なカギに
――遊びはとても大事な行為なのですね?
藤井先生 遊びを通じて飼い主さんと愛猫との間に信頼関係を築くことができると、ヘルスケアの面でもとても役立ちます。元気に遊んでいるかな?動きはいつもと同じかな?などと遊び方もよく観察し、猫の体調や痛みのサインなども読み取るとよいでしょう。
また、猫とのスキンシップも大切です。スキンシップは体の異常を知るためにもとても効果的で、触ることで皮膚の異常や体にできたしこりが見つけられるなど、病気の早期発見にもつながります。ただし人に触られるのが怖いと思っていたり、無理やり触られるのは嫌と思っていたりする猫も多いものです。ですのでスキンシップをする際は、猫の方から飼い主さんに寄ってきた時に優しく撫でたり、オヤツなど猫の喜ぶものをあげながらそっと触ったりするなど、猫のペースで接することが大切です。
重要なのは「自分が一番」と考えている猫の気持ちを優先することです。愛猫が受け入れてくれるような状態であるかを判断した上でスキンシップすることで、猫との信頼関係を築くことができます。まさに傾聴飼育を用いた方法で、猫の生態を知り、サインを読み取って接し、時間をかけて猫と飼い主さんの絆を築いていってほしいと思います。
――ありがとうございました。
猫に関する藤井先生の傾聴飼育に関するセミナーが、2月21日から開催されるラブリーにゃんフェスタin東京2026にて開催される。「エリエールPet キミおもい」がサポートする団体「傾聴飼育推進委員会」によるセミナーで、2月21日13時から、セミナー参加費は無料(会場入場券は別途必須)。より深く傾聴飼育を知ることができる絶好のチャンスとなっている。愛猫との絆をもっと深めたい飼い主さんはぜひ参加してみて。
獣医師 獣医行動診療科認定医 伴侶動物行動カウンセラー
日本獣医動物行動学会副会長 ベックジャパン動物病院グループ行動診療科専科長
藤井仁美 先生
東京農工大学農学部獣医学科卒業。動物病院勤務を経て、英サウサンプトン大学大学院にて動物行動学を学ぶ。現在はベックジャパン動物病院グループにて、犬と猫の行動診療やストレスケアなどに携わり、動物の心身両方の健康や幸福の推進、および飼い主の幸福増進を目指している。
文/柿川鮎子







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