量子コンピューターが話題となっている。2030年頃にも実用化が見込まれる次世代コンピューターについて、簡単な仕組みとできること、現時点での開発状況についてまとめた。
目次
ニュースや新聞、SNSで「量子コンピューター」の話題を見かける機会は多いだろう。
次世代型のコンピューターとして知られる量子コンピューターだが、専門性の高い分野なだけに、どのようなものなのか、何ができるのかまではわかりにくい。
そこで本記事では、量子コンピューターの仕組みとできること、スパコン(スーパーコンピューター)との違い、今後の実用化めどについて解説する。
量子コンピューターとは何か?
量子コンピューターは、量子力学の原理を応用した次世代のコンピューターを指す。従来のコンピューターとは根本から異なる量子コンピューターの仕組みを見てみよう。
■量子コンピューターの定義
量子コンピューターは、量子力学の原理を計算に応用したコンピューターだ。我々の生活に身近なパソコンやスマートフォンは、0か1のどちらかの状態を持つ「ビット」で情報を処理する。一方、量子コンピューターは「量子ビット」と呼ばれる情報単位を使い、0と1の状態を同時に扱うこと(=重ね合わせ)が可能だ。
この根本的な違いによって、従来のコンピューターでは実現困難な規模の計算を効率よく処理できるのが量子コンピューターの強みとなっている。
■なぜ今、量子コンピューターが注目されているのか?
量子コンピューターが注目される背景には複数の理由がある。まず、量子コンピューターが実用化されることで、従来のコンピューターでは計算が追いつかない様々な問題への対応が期待される。
たとえば、新薬開発(創薬)では、物質同士の作用を分子レベルでシミュレーションし、効果や副作用を予測する。分子が大きくなるにつれて計算量も増大するため、従来のコンピューターでは膨大な時間とコストがかかる点がネックだ。量子コンピューターは、理論上、このような量子化学計算を高速で処置できる。
創薬以外にも、新材料の発見や金融リスク管理など、高度な計算機能を利用して各産業に大きなインパクトを与えると見られる。
そのため、世界各国は量子コンピューターを国家戦略として位置づけ、開発を競っている。アメリカ・中国・日本などで熾烈な競争が繰り広げられている点も量子コンピューターが注目される理由だろう。
量子コンピューターの仕組みをわかりやすく言うと?
量子コンピューターの計算能力を支えているのは、「量子ビット」「重ね合わせ」「量子もつれ」という量子力学特有の現象だ。ひとつずつ見てみよう。
■量子ビット(qubit)とは
量子ビットは、量子コンピューターにおける情報の基本単位だ。従来のコンピューターが「0」か「1」のどちらかしか扱えないのに対し、量子力学の「重ね合わせ」を利用することで、「0であり1でもある」状態を保持し、複数の計算結果を一括で処理できる。
■量子もつれ(エンタングルメント)の仕組み
量子コンピューターのもうひとつの重要な原理が「量子もつれ」だ。これは、複数の量子ビットが互いに干渉し、1つの量子ビットの状態が決まると他の量子ビットの状態も決まる現象を指す。この量子もつれを利用することで、相互に作用する複数の量子ビットを効率的に操作し、重ね合わせにより得られた計算結果から欲しい解を取り出すことができる。
■量子コンピューターが計算する仕組み
量子コンピューターは「量子ゲート」と呼ばれる操作によって計算をおこなう。従来のコンピューターにも「論理ゲート」(AND、OR、NOTなど)があるが、量子ゲートもそれに相当するものだ。量子コンピューターでは量子ビットの重ね合わせ状態を操作して、複数の量子ビット間に量子もつれを作り出した上で回転・反転させることで最終的な量子状態を測定し、結果(0または1)を得る。この一連の操作を「量子回路」と呼ぶ。
量子コンピューターにできること・スーパーコンピューターとの違い
量子コンピューターと混同しやすいのが、スパコン(スーパーコンピューター)だろう。いずれも高度な計算をおこなうコンピューターだが、その原理と得意分野は大きく異なる。
■量子コンピューターとスーパーコンピューターの違いは?
スーパーコンピューターは、従来型のコンピューターを大量に並列接続し、古典的な並列処理によって高速計算を実現している、いわばパソコンのパワーアップ版だ。一方の量子コンピューターは、量子状態の干渉を利用した独自の計算方式を採用しており、両者は原理が異なる。
また、量子コンピューターとスパコンは得意分野にも違いがある。スーパーコンピューターは気象予測や流体シミュレーションなどの大規模だが古典的な計算が得意だ。量子コンピューターは、量子化学計算や特定の最適化問題など従来の方法では効率的に解けない問題に強みを持つ。
■量子コンピューターにできること(得意な分野)は?
量子コンピューターの活用が期待されている主な応用分野は以下の通り。
・新薬開発分野(分子シミュレーション):分子の挙動は量子力学で記述されるため、同じ原理に基づく量子コンピューターとの相性が良いとされている。
・金融分野:デリバティブ価格の評価やリスク指標の計算など、金融分野では大規模な計算が求められる。現在は実証実験で量子コンピューターによる効率化が研究されている。
・人工知能・機械学習分野:機械学習の一部の計算を量子コンピューターで行う「量子機械学習」の研究が進められている。
・物流・交通分野:配送ルートの最適化や交通渋滞の解消など、組み合わせ最適化問題への応用が実証実験段階で進められている。
■量子コンピューターの弱点・苦手なことは?
量子コンピューターの現時点での課題は、量子ビットがノイズに非常に弱いことだ。特に超伝導方式の量子コンピューターでは、量子状態を保つために絶対零度(マイナス273度)に近い環境が必要となる。わずかな電磁波や熱、振動などでも量子状態が乱れ、計算エラーの原因となるため、冷却装置や遮蔽設備が欠かせない。設置場所や運用コストの面で課題が残る上、生じたエラーを量子コンピューター上で訂正する「量子誤り訂正」機能の実現も技術課題の一つとして研究が進められている。
量子コンピューターの実用化と日本の取り組み

世界で量子コンピューターの実用化に向けた競争が繰り広げられる中、日本でも国を挙げた取り組みが進んでいる。世界と日本の量子コンピューター開発の流れを見てみよう。
■世界の量子コンピューター実用化の流れ
量子コンピューターの実用化は、限定的な用途ながら始まっている。IBMは2023年に1,121量子ビットの「Condor」と、エラー率の低い133量子ビットの「Heron」を開発した。Googleも2024年に105量子ビットを搭載した量子チップ「Willow」を発表。中国科学技術大学も2025年に105量子ビットの「祖沖之3号」を公表している。
クラウドサービスとしての提供も進んでおり、Amazon BraketやIBM Quantumなどを通じて、企業や研究機関が実際に量子コンピューターを利用できる環境が整いつつある。
ただし、実用化に向けては技術課題も残っており、特に「量子誤り訂正」機能を持ったまま計算をおこなう「誤り耐性」のある量子コンピューターの開発を各国が進めている段階だ。
■日本における量子コンピューター開発
日本でも量子コンピューター開発が積極的におこなわれている。富士通と理化学研究所は、2025年4月に256量子ビットの超伝導量子コンピューターを開発。さらに、2026年度には1,000量子ビット機の構築・公開を予定している。NTTは光量子技術の研究を進めており、多様なアプローチで量子コンピューター開発に取り組む。
日本政府の「ムーンショット型研究開発計画」では、2030年までに小規模な誤り耐性を持つ量子コンピューターを、2050年ごろまでに、大規模な誤り耐性型汎用量子コンピューターを実現することを目標に掲げている。
■量子コンピューターの展望と私たちの生活への影響
量子コンピューターが社会に与える影響は広範囲に及ぶ可能性が高い。新薬開発の加速、新材料の発見、金融リスク管理の高度化など、様々な分野での革新が期待されている。
その一方で、既存の暗号技術の安全性を脅かす可能性も指摘されており、量子コンピューターでも解読できない新しい暗号方式の開発も並行して進められている段階だ。
実用化にはまだ間がある量子コンピューターだが、我々の生活に活用する時代はすぐそこまで来ていると言えるだろう。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。







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