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政治家や芸人もやっている「ジェスチャー戦略」、実は効果ゼロだった!?

2026.01.30

〝つり目〟ジェスチャーは自然に出た!?

昨年のミス・ユニバース世界大会に出場したフィンランド人女性による指で両目の目尻を引っ張り上げたジェスチャーの自撮り画像が昨年末にソーシャルメディアで拡散され、ご存知のように人種差別だとして炎上した一件がある。

主に欧米ではこのジェスチャーは歴史的にアジア人の細い目を揶揄する目的で使われており、人種差別的な意味合いを持つきわめて悪意ある侮辱表現(slur)と見なされている。

この騒動でミス・フィンランドは王冠を剥奪され、フィンランドの首相が謝罪するという事態を招いたが、今回の炎上はともかく、ジェスチャーにはこのような具体的な意味を持つものもあれば、話しながら半ば無意識に手や指が動く場合もあるだろう。はたしてこの〝つり目ジェスチャー〟は自然に出たものなのだろうか。

ジェスチャーは聞き手が情報を理解するのに役立つことが多く、話し手をより説得力のある、あるいは好感の持てる人物に見せることさえあり得る。実際のコミュニケーションにおいて話し言葉がナレーターのように完璧であることは稀であり、話し言葉にはしばしば、一時的な間、言い間違いの修正、あるいは発語の流れを中断させる意味のない発声など、淀みや滞りが見られ、それをジェスチャーによって補ったりするケースもあるだろう。

そうした言葉のつまずきとジェスチャーは、話し手がためらいを感じているか、次の言葉をうまく考えられないことを示している可能性などもある。

身振り手振りは話の内容の評価を高めない

ではジェスチャーは話者の話の内容の評価を高めたり補ったりしているのだろうか。

トルコのコチ大学とビルケント大学の合同研究チームが2025年11月に「Cognitive Science」で発表した研究では、話者の話し方の流暢さが、他者から見て知識豊富に見えるかどうかに影響を与えることが示唆されている。研究結果によると、「えー」「あー」といったつなぎの発声や訂正を多用する話し手は、流暢に話す話し手よりも知識が乏しいと評価され、また身振り手振りのジェスチャーはその種類や頻度に関わらず話の内容の評価には影響を及ぼさないことが報告されている。

トルコ語を母国語とする42名の若者が参加した最初の実験では、参加者はさまざまな話者が聞き手に指示を出しながら道順をガイドする一連のビデオクリップを視聴した。

一連のビデオクリップの中にはジェスチャーを使う話者もいれば、手を動かさない話者もいた。流暢に話す話者もいれば、繰り返したり、言い直したり、「えー」や「あのー」といった有声休止(filled pauses)などで言葉を詰まらせる話者もいた。

参加者は各ビデオクリップを視聴した後、話者の知識レベルを評価した。参加者は話者がどの程度確信を持って話しているように見えるか、またどの程度正確な知識を持っているように見えるかに関する質問に回答した。

分析の結果、発話の流暢さと話者の知識量との間に強い関連があることが示された。つまり参加者はよどみなく話す話者を、つっかえながら話す話者よりも知識豊富であると評価したのだ。一方でジェスチャーの有無は、これらの評価に統計的に有意な変化をもたらさなかった。

ジェスチャーに敏感でもその影響は受けていない

43人が参加した2つめの実験では演者が道順を口頭でガイドする様子の映像が用意されたのだが、流暢な話し方と言葉を詰まらせる話し方のそれぞれで、ジェスチャーについて3パターンの動作が表現された。

3つのうち1つめはジェスチャー無しで、2つめは象徴的なジェスチャーであった。これは議論されている物体や行動を視覚的に表す手の動きのことで、たとえば丸い物体を表すために空中に円を描くなどの動作である。

3つめはビートジェスチャー(beat gesture)である。ビートジェスチャーとは、話のリズムに合わせて多くの場合は自然発生的に表出する意味を持たない手の動きのことで、言葉の意味を強調したり、思考を整理したり、聞き手の注意を引いたりする役割があり、特にプレゼンテーションや日常会話でよく見られる。

たとえばヒトラーの演説ではこのビートジェスチャーが多用されているが、彼の場合は自然に出ているというよりもかなり意図的な“プレゼン”の技術のようにも見えなくもない。

この2つめの実験では演者である話者のビデオ視聴に加え、参加者はジェスチャー認識尺度(Gesture Awareness Scale)にも回答した。この尺度は日常生活において、人がどの程度手の動きに気づき、注意を払っているかを評価するもので、これによりジェスチャーに敏感な人ほど、ジェスチャーの影響を受けやすいかどうかを検証することができる。

2つめの実験の結果は1つめの実験の結果とほぼ一致し、ここでも発話の流暢さが話者の知識の豊富さを予測していた。

そして同じくジェスチャーは評価に影響を与えていなかった。象徴的なジェスチャー、ビートジェスチャー、あるいはジェスチャー無しのいずれであったとしても、知識の評価はほぼ同じであった。これはジェスチャー認識尺度で高得点を獲得した参加者にも当てはまったのだ。

意図的な〝ジェスチャー戦略〟はほぼ効果ゼロ

これらの結果は、聞き手が話し手の能力を判断しようとする際、視覚的な手がかりよりも言語的な手がかりを優先することを示唆している。「えー」という間延びや、頻繁な言葉の修正などは不確実性を強く示す印象を与えており、一方でいかに自信に満ちた身振り手振りを行っていても話者への評価は高まらなかったのである。

ジェスチャーが話者の評価に影響を与えなかった理由について研究チームはいくつかの説明を提示している。一つの可能性は、使用されたジェスチャーの冗長性であり、実験では話者は音声だけで情報をじゅうぶん明確に伝えることができていたため、ジェスチャーは重要な手がかりではなく、背景の雑音としてまとめて処理された可能性もあり得る。

もう一つの可能性は、ジェスチャーと吃音のタイミングの関係である。ジェスチャーはしばしば発話のつまずきと同時に発生しており、吃音という明らかになネガティブなシグナルが、ジェスチャーという視覚的なシグナルをかき消してしまう可能性があるということだ。

自然に出てしまうジェスチャーには何の罪もないと思われるが、プレゼンなどで意図的にジェスチャーを多用するのはあまり意味はなさそうであり、場合によって受け手の気に障る可能性もあり得ることから人前で話す機会のある際には気に留めておいてもいいのだろう。

※研究論文
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cogs.70144

※参考記事
https://www.psypost.org/confident-gestures-fail-to-mask-the-uncertainty-signaled-by-speech-disfluencies/

文/仲田しんじ

北海道生まれ東京育ち。学業ドロップアウト後、小説家を志しつつ広告代理店営業マン、任期制陸上自衛官、家電販売員などを経て経て出版業界へ。アスキーなどで編集者として勤務した後、フリーライターとして活動。科学から心理学まで幅広いテーマを執筆。ネット上の研究論文を読むのが趣味。大型自動二輪免許を持っている。 X: @nakata66shinji

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