
去年2025年は「モバイルバッテリー」を巡って世界が震撼した年でもあった。
リチウムイオンバッテリーは、今や万民の懐に必ず入っていると言っても過言ではない。が、そのリチウムイオンを使用したモバイルバッテリーの発火事故が全世界で相次ぐようになり、各国の交通当局はそれを問題視するようになった。これには日本の国土交通省も含まれている。
もしも電車の中でモバイルバッテリーが発火したとしても、すぐさま車両を停止させるなどということはできない。旅客機の中であれば尚更で、機内火災は100人単位の命が上空で散ってしまう事態につながる。そうした理由から、日本でも「モバイルバッテリーの車内/機内持ち込み」に関するルールが厳格化された。
注目すべきは、高速バスである。この分野の事業者は航空業界の動揺をよく観察していた。国交省の見解を待つことなく、「モバイルバッテリーのトランクルームへの持ち込み」に関する新ルールを続々と発表するに至ったのだ。
旅客機内での出火事故
2025年3月20日、中国・杭州発の香港航空115便機内火災事故が発生した。
これは手荷物棚に置かれていたモバイルバッテリーが火元と見られている。乗員乗客が必死になって手荷物棚の中に飲料水をかける動画は、SNSを通じて全世界に拡散された。幸いにも115便に乗っていた168名は全員無事だったが、この事故が各国の航空当局に与えたショックは極めて大きかった。
当事国の中国は、強硬的な施策を繰り出した。中国の製品認証マーク『3C』がないモバイルバッテリーは、中国国内便に持ち込むことはできないとするルールを発布したのだ。
中国は、こうした強制力のあるルールを公表するためにわざわざ有識者会議などを編成しない。敢えて言えば、北京の指導部がそのまま「有識者会議」を兼ねている。このあたりはやはり、西側諸国と価値観が全く異なると言わざるを得ない。
日本の場合、航空・交通当局である国交省が発することができるのはあくまでも「おねがい」だ。そこから関連各社とコミュニケーションを取り、より良い形の規制を有識者会議が模索していく……というのが「いつものパターン」である。
しかし、去年の夏頃から高速バス業界で起きている現象はそのパターンからだいぶ大きく外れている。それも、良い意味で。
全国の高速バス事業者が次々と「新ルール導入」

11月26日、宮崎県のバス事業者宮崎交通がこのようなニュースリリースを発表した。
「いつも宮崎交通をご利用いただき、誠にありがとうございます。
国土交通省より、バス車内へのモバイルバッテリー持込についての注意喚起です。
近年、モバイルバッテリー(リチウムイオン電池)の発煙・発火等の危険性が指摘されております。
高速バス・貸切バスなどの『座席の下にトランクスペース(床下荷物室)があるバス車両』にご乗車の際は、必ず手荷物として持ち込み、車内でお客様ご自身の目の届く範囲で管理いただくようお願いいたします。
また、パソコン・スマートフォン・タブレット等のリチウムイオン電池搭載機器も同様に、トランクスペースではなく、必ず車内へお持ち込みください。」
(国土交通省よりバス利用者へのお願い ~モバイルバッテリー持込についての注意喚起~ 宮崎交通)
国交省の注意喚起を受けて、宮崎交通の高速バス・貸切バスでも乗客のモバイルバッテリーはトランクスペースではなく手荷物として持ち込むよう呼びかける内容になっている。逆に言えば、モバイルバッテリーをトランクスペースに収納するのは遠慮していただきたい……ということだ。
いや、実際は「遠慮していただきたい」どころではなく、「トランクスペースへのモバイルバッテリー収納禁止」のルールを導入したと言い切ってもいいだろう。
上のニュースリリースで言及されている「国交省の注意喚起」とは、11月17日に国交省九州局が配信したPDFファイルである。しかし、実際問題この注意喚起が公表される以前から日本の高速バス事業者はモバイルバッテリーの出火問題に対する対策を講じていた模様だ。
たとえば、以下は小田急バスが9月9日に配信したニュースリリースである。
日常からスマホ等の充電にモバイルバッテリーをご利用の方も多いと思います。
一方、モバイルバッテリーを使用中の発火による火災のニュースも多く聞かれます。
空港連絡バスをご利用の際にモバイルバッテリーをご持参される方もいらっしゃいますが、モバイルバッテリーは床下トランクへ預けず、身につけて車内へお持ち込みください。(トランクへ預けると発火しても気付かず被害が大きくなる恐れがあります。)
なお、運輸規則により乾電池以外の電池は持込規制の対象となっておりますこと、ご留意ください。
(モバイルバッテリーの車内持込みについて 小田急バス)
このような具合に、モバイルバッテリーの持ち込みに関するルールを改定もしくは新設する高速バス事業者が去年相次いだのだ。
興味深いのは、このニュースリリースの参考リンクに国交省の航空局安全部安全政策課が作成した資料を添付しているという点だ。航空分野の動向を、高速バス事業者がしっかり観察していることを意味する。
車内でのモバイルバッテリーの取り扱い
日本のバス事業の特徴として、「全国に覇を唱えた事業者が存在しない」という点が挙げられる。
各都道府県……というより、各地域に独自のバス会社があり、多くの場合その会社が地元から大都市圏へ行く高速バスも手掛けている。それぞれが独立した勢力のため、同じ目標に向かって意思統一することは容易ではない。まるで室町時代の守護大名のようだ。
が、此度のモバイルバッテリー騒動に関して言えば、まさに「満場一致」という言葉が相応しいほどの展開だった。「モバイルバッテリーをトランクスペースに収納してはいけない」という新ルールを設けることに反対している天邪鬼はいない、ということだ。
では、我々一般利用者はどのような点を気にかけるべきか?
これについては、京王バスが12月25日に発表したニュースリリースが大いに参考になるだろう。
バス乗車時、モバイルバッテリー等はトランクルームに入れず、お客様のお手元で管理してください!
・モバイルバッテリー等とは、リチウムイオン電池などの蓄電池を構成物とする充電器、パソコンやタブレットなどの電子デバイス全般のことを指します。
・置いておく環境によっては、過熱による変形や損傷、発火の恐れがあり、大変危険ですので、座席付近のお手の届く範囲で管理をお願いいたします。
・カバンやスーツケースなどに収納した場合でも、トランクでのお預かりはできません。
・万が一、破損・変形・異臭等の異常、発火・発煙した場合は速やかに乗務員へお知らせください。
(モバイルバッテリーに関する取り組み PR TIMES)
これは旅客機にも共通することだが、モバイルバッテリーを旅客機の手荷物棚や高速バスのトランクスペースに収納してしまうと、何かあった場合もすぐには取り出せない。故に、モバイルバッテリーは「何か起きたらすぐに取り出せるところ」にしまっておくのがベストである。
また、「破損・変形・異臭等の異常、発火・発煙した場合」は遠慮なく乗務員にその旨を告げることも大事だ。ここで遠慮したり、「他の乗客に悪いから」と躊躇ってはいけない。
その上で、信頼できるメーカーのモバイルバッテリーを購入するということも重要になってくる。たとえば、最近ではAnkerのモバイルバッテリーやワイヤレススピーカーがリコールされていたりもするが、実は「メーカーが自主回収する」というのはその企業のチェック機能が働いている証拠でもある。中には製品安全4法の基準に満たないモバイルバッテリーをAmazon等で販売しておきながら、その後経済産業省からの連絡に応じようとしない企業も存在する。経産省はそうした企業の一覧を12月に公開した。
モバイルバッテリーに関しては、少なくとも「名のあるメーカー」から購入したほうが確実である。
【参考】
国土交通省よりバス利用者へのお願い ~モバイルバッテリー持込についての注意喚起~ 宮崎交通
モバイルバッテリーの車内持込みについて 小田急バス
モバイルバッテリーに関する取り組み PR TIMES
文/澤田真一
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