「絶品B級グルメ」とか「ソウルフード」と呼ばれるものは日本全国にある。で、みなさんはこう考えたことはないだろうか。「日本各地にあるんだったら世界各地にも当然B級だけど超絶うまいものがあるんじゃないか?」と。
というわけで世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」が、居住国や旅先で出会った「絶品ソウルフード」を大紹介するシリーズ。今回はサウジアラビアから「フル・メダメス」をお届けする。

「味変」も楽しめるのも魅力の一つだ。
海外B級グルメ列伝【世界はうまいで満ちている】
「なんでもチャレンジ!」タイプのインバウンド客が増えたおかげで近年ではようやくそのおいしさが認められつつあるが、かつて日本の「あんこ」は欧米人たちに不評であった。理由は「豆を甘ったるく調理するなんて信じられない! 気色悪い!」。NHKの連続テレビ小説「ばけばけ」の相手役であるヘブン先生並みの決めつけである。
豆は欧米人たちにも比較的よく食べられている。たとえばイギリスの朝食の大定番の一つが「ベイクドビーンズ」だ。「ベイク」、つまりオーブンなどで焼いた豆という意味だが……。

こちらが一般的な「ベイクドビーンズ」の調理例。
そう、「どこがベイクドなんだよ!」と一斉にツッコミを入れたくなる姿で「要は煮豆」である。
そして一般的な食べ方は「食パンとともに」だ。

こちらはゆで卵とアボカドとともに。
「こぼれ落ちそうなくらい食パンに盛るのが正式!」と声高に主張するイギリス人もいるが、そこまで格式の高い食べ物ではない。好きに食べればいいのである。
ちなみに調理には砂糖も用いるのが一般的だが、トマトソースの味が強く「甘辛系」の味だ。
ちなみにメキシコ料理でも煮豆は欠かせない。

プリトーの具材をボウル(皿)に載せたプリトーボウル。
ちなみにきわめて個人的な意見ではあるが、ベイクドビーンズを朝ごはんの定番にしてな嬉々としていることからも、イギリス人の味覚はあまり信用できないと感じてしまう。
筆者認定!世界一の豆のスープ
さて先日滞在したサウジアラビアで絶品の豆料理に出会った。それが今回紹介する「フル·メダメス」だ。正直言って今まで食べた豆のスープの中でいちばんのおいしさだ。

ソラマメをオリーブオイルやクミンで煮込んだものだという。写真はスライス唐辛子をトッピングしたもの。
発祥はエジプト。そして現在はエジプトの国民食で、アラブの朝食の定番料理であるらしい。エジプト人に聞いたところよると、豆を粗めに刻んだものもあれば、ミキサーにかけるなどして「ポタージュスープ」状に滑らかにしたものもある。

さらにはソラマメの形状が残るまさに「煮豆」風のものもある。
クミンが入っているのでカレー風の味わいだが辛いわけではない。オリーブオイルと塩がソラマメのうまみを引き出していて、何杯でも楽しめる感じのシンプルな味わい。そのまま食べてもいいし、中東の薄焼きパン「ピタ」とも相性抜群だし、デニッシュ系のちょっと甘みがあるパンと交互に口に運ぶのも良し。
エジプトでもそのまま食べるか、ピタと食べることが多いという。
「味変」のバリエーションも豊富すぎる!
そしてシンプルな味わいなだけに、トッピングで「味変」が楽しめるのもいい。
主なトッピングは唐辛子のスライス、みじん切りにしたタマネギ、パプリカ、トマトなど。レモンを絞ったり、「追いオリーブオイル」をするのも手だ。
個人的には、まずは「そのまま」、次に「唐辛子のスライスとレモン汁」を加えて「さわやかなピリ辛」味で、その後「みじん切りにしたタマネギ、パプリカ、トマト」も加えてアクセントをつけるのがオススメだ。

こちらが筆者の考える「完成系」。
クタクタの煮物のトロ~リとした舌触りとフレッシュな野菜のしゃきしゃきとした歯ごたえ。そこにスライスした唐辛子のピリッとした辛みと、レモン汁のさわやかさが加わる。みじん切りにした野菜たちも、唐辛子も、レモン汁も主役である「フル·メダメス」の邪魔することなく、でも埋もれてしまうのではなくきちんと存在感を見せてくれる。まるで一流の演者たちによる「味わいのオーケストラ」だ。
「ああ、この手があったか! 世界は広くて、料理は深いな」と思わずうならされた。
中東生活が長い日本人に聞いたところ、煮物料理は少ないという。その理由は「水が貴重なのと、乾燥しているからすぐに水分が蒸発して汁っけがなくなってしまうからだろう」とのこと。
という理由からか珍しいスープ料理である「フル・メダメス」は、独特の容器の中に入れられている。そしてお玉で取り出す。

ちょっと「魔法のランプ」を想われる美しい曲面の容器。

上の蓋をあけて、お玉で取り出す。

筆者が滞在したホテルの朝食バイキングではこんなふうに薬味もいっしょにセッティングされていた。
左上からオリーブオイル、レモン、刻んだ3色のパプリカ、生唐辛子のスライス、刻んだ紫タマネギ、刻んだトマトだ。
初めてなのに懐かしい味。その理由は?
さて「フル·メダメス」をお代わりしながら、頭の中に何かがよぎる。どう考えてもサウジアラビアに来て初めて食べた料理であるのに、懐かしい気がする。
大きな鍋から器にお玉でよそう。豆が主原料のやさしい味わい。そこに薬味でアクセントをつけてもいい。
……そうだ、ネギやミョウガや青じそや大葉などの薬味を載せることもあるわがニッポンの「味噌汁」だ! 豆の姿が残るクリーミーな「ポタージュ」系の「フル·メダメス」と、豆の姿は消えるあっさり「コンソメ」系の「味噌汁」という形状の違いはあれど、豆が主原料で鍋からお玉でよそうところまでそっくりではないか!
じつは今回の旅でイスラム教の礼拝堂であるモスクを訪れた。そして驚かされた。入り口で靴(暑いので多くはサンダルだが)を脱いで入るところ。そして場内にはキリスト教の教会のような長椅子と長机はなく、床に敷かれてじゅうたんの上に直に座るところ。そう、日本の神社仏閣とよく似ているのだ。ちなみに御手水のように手足を清める場所まであった。
アラブ世界は遠くに感じられるけれども、古くはシルクロードで中国とつながっていた。もちろん味噌とフル·メダメスのつながりがあるとは言えないだろうが、そんなロマンに思いを馳せながら食べると余計においしく感じられた。
世界はうまいで満ちている。
サウジアラビア政府観光局/https://www.visitsaudi.com/ja
文/柳沢有紀夫
世界約115ヵ国350名の会員を擁する現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える』(朝日新書)などのお堅い本から、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)などのお笑いまで著書多数。オーストラリア在住
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