2026年8月21日から大阪・中之島美術館で開催される展覧会で、ヨハネス・フェルメールの代表作《真珠の耳飾りの少女》の来日が予定されている。
この作品が来日するのは2012年に開催された「マウリッツハイス美術館展」以来14年ぶりとなる。今回は他都市への巡回展の予定がなく、作品を所蔵するマウリッツハイス美術館が原則作品を貸し出さない方針の取っていることから、本作品を直に目にする希少な機会となるため多くの来場者が予想される。
ところで日本人は昔からフェルメールが好きである。フェルメールの作品が来日すると言えば話題になるし、実際に展覧会の動員数も数十万人を超えてくる。そもそも作品を借りてくる企画者側、作品を貸し出す所蔵元の美術館はそれが分かっているのだろう。だが、日本人はなぜフェルメールが好きなのだろうか?
ヨハネス・フェルメールとは?
ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer, 1632–1675)は、17世紀オランダ黄金時代を代表する画家の一人である。現存作品が30数点と非常に少なく、所蔵先も世界各地の美術館に点在しているため、鑑賞するハードルの高い画家の一人と言える。
現存作品が少ないのは別段彼が早逝したからではなく、ひとつの作品にかける製作期間が長かったことや、当時の流行のジャンルに迎合しなかったために発注する顧客の数が限られていたことなどが理由として考えられている。
画家というとあまり幸せな末路を辿らないケースも少なくないため、私なんか作品が少ない画家がいるとその理由に何か悪いことがあったのではないかとつい気になってしまうが、フェルメールに関してはそのようなことはなく安心できる。
日本人は本当にフェルメールが好きなのか?
よ今回来日する《真珠の耳飾りの少女》が前回来日した2012年の「マウリッツハイス美術館展」の動員数は約120万人とされている。また、2018年に東京と大阪で開催された「フェルメール展」はフェルメールの作品が9点も来日するということで私も足を運んだが、東京展のみで約68万人の動員数が報告されている。この数字だけ見てもフェルメールが日本人に広く受け入れられている画家であることが分かる。
ちなみに、昨年訪れたドイツ・ベルリンのGemäldegalerieにもフェルメールの作品が所蔵されているが、展示されている部屋には自分以外にひとりも人がおらず、誰にも邪魔されずに鑑賞することができたこともあって、日本での鑑賞状況との違いにしみじみとしてしまったものである。
日本人はなぜフェルメールが好きなのか?
その理由は「想像を促す余白」にあると私は考えている。《真珠の耳飾りの少女》や《窓辺で手紙を読む女》といったフェルメールの作品に共通するのは、ほぼ静止しているかのように見える登場人物の動きのなさや、室内の空間といった物語性の少なさである。
例えば《窓辺で手紙を読む女》では窓際に立ち、室内に差し込む明かりで手紙を読む女の姿が描かれているが、他の人物は登場せず、手紙を読む女の表情を読み取ることもできない。
なお、この作品は2018年に修復された際に背景の壁にキューピッドが描かれていることが判明し、これはこの手紙が恋人からの手紙であることを意味する暗喩(アレゴリー)と考えられている。
とはいえ、女の表情が読み取れないことから手紙の内容がどういうものなのか、それを読んだ女の感情はどのようなものなのかを知ることはできず、あとは鑑賞者の想像に委ねられている。
ところで、日本人ははっきりとモノを言わない人種である。はっきりと意見を述べて対立を生むよりも、互いに空気を読みながら上手く集団としての結論を導こうとするのに長けているように思う。
そもそも日本語自体が英語などと異なり文末決定性と言って主張が分かりにくい言語になっている。
例えば「今日、私は友達と渋谷に寄ってから新宿へ行…かなかった」のように最後まで聞かないと文意が分からないというのは、外国語と比較すると奇妙な特徴を持った言語である。結論を伝えるのに時間が掛かるのはコミュニケーションにおいては一般的には有利ではないと思われるからだ。こうした日本人の気質を欠点と捉えたり悪しく言う人もいるかもしれないが、私自身はこれもまた日本人の良さの一つであると思っている。
こんな一種奥ゆかしいとも言える気質を持つ日本人だからこそ、「想像を促す余白」のあるフェルメールの絵が性に合うのではないだろうか。有無を言わさず強いメッセージを押し付けてくるのではなく、鑑賞者に「想像してごらん?」と優しく問いかけてくる絵。
ひとつの正解だけでなく、鑑賞者の数だけ正解があっても良いという余地を残してくれる絵。こうした日本人の気質に合う作品の特徴が、フェルメールの作品が日本人に好まれる理由だと思うのである。是非、次にフェルメールの作品を鑑賞する機会があった際は、
恋人や家族と感じたことを共有し合ってもらいたい。
文/Wataru KOUCHI
東京在住の美術ライター。2025年にアートナビゲーター(美術検定1級)の資格取得。中学生の時に美術の資料集で目にしたルネ・マグリットの作品を見て美術の世界に興味を持つ。それ以来、国内外の美術館、国際芸術祭を訪問するようになる。好きな作家はルネ・マグリットのほか、レアンドロ・エルリッヒなど。このコラムでは開催中・開催予定の芸術祭、企画展、常設展の紹介の他、社会人として押さえておきたい使える美術の基礎知識を紹介。
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