平均寿命の伸長や人材確保、技術継承といった観点から、2026年4月より在職老齢年金制度の見直し案が施行される予定です。本記事では在職老齢年金の支給停止基準や年金の仕組みをわかりやすく解説します。
目次
昨今では、平均寿命や健康寿命の伸長、生活費の確保といった事情から、年金を受給しながら働きたいと考える高齢者が増えています。
しかしながら、年金をもらいながら働くことに対して「年金が支給停止されるのではないか」「年金の減額によって結果的に損をするのではないか」といった不安や疑問を抱える方が多いのも現状です。
本記事では、働きながら年金がもらえる「在職老齢年金制度」を解説。2026年4月より施行予定の制度の見直し内容や、支給停止基準などもわかりやすくお伝えします。
まずはおさえたい在職老齢年金の基本
在職老齢年金の支給停止基準を理解するためには、制度そのものの仕組みを正しく把握しておくことが重要です。まずは、在職老齢年金制度の概要や目的、対象となる人について整理しておきましょう。
■在職老齢年金制度とは
在職老齢年金制度とは、厚生年金を受給しながら働く場合に、給与と年金の合計額に応じて受給額が調整される制度です。
この制度は、一定以上の収入がある場合に年金給付を抑制する仕組みであり、「働きながら年金を受け取る」こと自体が直ちに支給停止につながるわけではありません。
■制度の目的と背景
在職老齢年金制度の主な目的は、年金財政の安定化、現役世代の負担調整、高齢者の就労意欲の促進といったところにあります。
「十分な給与収入を得ている高齢者には年金制度を支える側に回ってもらう」という考え方に基づいて、年金支給額を調整する仕組みです。
厚生労働省の調査によると「厚生年金を受け取る年齢になったとき、どのように働きたいと思うか」との問いに対し、65歳~69歳の方のうち3割以上が「年金額が減らないよう時間を調整し会社等で働く」と回答しているとのこと。
参考:厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」
このような現状も踏まえ、在職老齢年金制度の見直しも進んでいます。
■在職老齢年金制度の対象者と非対象者
在職老齢年金制度の対象となるのは、60歳以上で、なおかつ厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給している人です。
具体的には、会社員や役員として働いている方のほか、パートやアルバイトとして働いている場合も、厚生年金保険に加入していれば対象となります。
個人事業主として働いている人や「老齢基礎年金」のみを受給している人は、在職老齢年金制度の対象外となり、年金が減額したり支給停止したりすることはありません。
在職老齢年金は急に支給停止とはならない
「しっかり働くことによって、年金給付がいきなり止まるのでは」と不安に感じる方も多いですが、在職老齢年金では段階的な調整が行われます。ここでは支給停止基準の考え方について理解を深めていきましょう。
■支給額が減額される基準
在職老齢年金は、月額の給与(標準報酬月額+賞与の月割額)と、老齢厚生年金の基本月額の合計が一定額を超えた場合に「一定額を超過した部分の半額」が年金から減額されます。
ここでは、あわせて次の重要な用語も覚えておきましょう。
- 支給停止・減額に至る基準額:支給停止調整額
- 老齢厚生年金の年額を12で割った額:基本月額
- 基本給与+賞与の月割額の合計:総報酬月額想定額
総報酬月額想定額+基本月額=一定額(支給停止調整額)を超えると「超えた部分の半額」が年金から減額される
なお、2026年1月時点の現行制度における支給停止調整額は51万円です。
例えば、総報酬月額想定額+基本月額の合計が55万円だった場合、支給停止調整額から4万円オーバーしています。そのため、4万円の半額となる「2万円」が年金から減額される計算です。
支給停止調整額は、2026年4月より引き上げられる予定となっています。詳細は後述していますので、ぜひあわせてチェックしておきましょう。
■全額支給停止となる理由
老齢厚生年金が全額支給停止となるのは、基本給与+賞与の月割額+基本月額の合計額が極めて高額になった場合です。もちろん、これは制裁的な支給停止ではなく、あくまでも計算結果として年金額がゼロの状態となります。
例えば、基本月額が10万円で、総報酬月額想定額が61万円の場合、支給停止調整額の51万円から20万円オーバーしています。在職老齢年金制度では、オーバーした部分の半額が年金から減額されるため、20万円の半額となる10万円、つまり基本月額と同額が減額されるので、計算上は全額支給停止です。
ただし、このような場合でも「老齢基礎年金」は在職老齢年金制度の対象外なので、支給額を全額受け取れます。年金のすべてが支給停止となるわけではありません。
在職老齢年金制度の見直しが2026年4月より施行予定
政府は、在職老齢年金制度について「働く高齢者を後押しする制度」へと転換するため、見直しを進めています。2026年4月より、先述した51万円の支給停止調整額が大きく引き上げられる予定です。ここでは、在職老齢年金制度の見直し内容についてご紹介します。
■減額要件を51万円から62万円へ引き上げ予定
先述の通り、在職老齢年金制度における、2025年の減額要件(支給停止調整額)は51万円でした。総報酬月額想定額と基本月額の合計が51万円を超えると、超えた部分の半額が年金から減額されるという内容です。
この減額要件が2026年4月より62万円へと引き上げられる予定となっています。従来の制度では年金が減額となっていた方も、制度改正によって年金を満額支給できる方も増えることでしょう。
こうした在職老齢年金制度の見直しは、高齢者の活躍を後押し、働きたい人がより働きやすくなることを目的としており、近年深刻化している人手不足の解消も期待できます。
■働き続けたいと考える高齢者が増えている
在職老齢年金制度見直しの背景には、平均寿命・健康寿命が伸長する中で「働き続けたい」と考える高齢者が増えているという現状があります。
厚生労働省が公表する平均寿命の年次推移を見てみると、平成2年の男性の平均寿命が75.92歳、女性が81.90歳なのに対し、令和6年の男性の平均寿命は81.09歳、女性が87.13歳との結果が出ており、確かに平均寿命が延びてきていることがわかりますね。
参考:厚生労働省「令和6年簡易生命表の概況」
また、高齢者の就労は企業側にとっても重要なテーマとなっており、在職老齢年金制度の見直しは、こうした社会的ニーズと年金制度の両立を図る動きといえるでしょう。
在職老齢年金の支給停止に関するQ&A

最後に、在職老齢年金の支給停止基準について、よくある疑問をQ&A形式で整理します。
■厚生年金や在職老齢年金の支給停止は解除できる?
収入が基準額を下回れば自動的に解除されます。特別な申請が必要なケースはほぼなく、状況は収入に応じて毎月見直されます。
■退職後に年金の支給停止を解除するには?
退職によって厚生年金の被保険者ではなくなった場合、在職老齢年金制度の調整は終了し、年金事務所に退職情報が反映され次第、老齢厚生年金は原則として全額支給されます。
ただし、老齢厚生年金の受給権を持つ65歳未満の方で、退職後に失業給付の受け取り手続きを行った場合、失業給付を受け取るまでの間は年金の支給が止まるため注意しましょう。
■70歳以上の年金支給停止基準はどうなる?
70歳以上の方は厚生年金の被保険者ではありませんが、在職老齢年金制度の対象です。厚生年金対象の事業所で働いている限りは、総報酬月額想定額と基本月額の合計金額によって、年金が減額されることがあります。
■在職老齢年金の支給で損をしないためには?
総報酬月額想定額と基本月額の合計金額が、支給停止調整額を下回るように調整して働くことが基本的な対策となります。2026年1月時点の場合は51万円以下、在職老齢年金制度の見直しスタート後は62万円以下に収まるようにシフト等を調整しましょう。
また、個人事業主やフリーランスとして働くことで、厚生年金加入義務から外れることになります。ただし、この場合は年金額を増やすことができなくなるほか、病気やケガに見舞われた際の傷病手当もなくなるため注意が必要です。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。







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