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トップアスリートの身体能力は何歳でピークを迎えるか?最新研究が示す「35歳の壁」

2026.01.17

身体能力のピークは35歳

一世を風靡したトップアスリートでも当然だが第一線からの引退は必ずやって来る。2025年に引退したアスリート(敬称略)にはたとえばJリーガーの高橋秀人(38歳)、同じくJリーガーの柏好文(38歳)、女子トライアスロンの高橋侑子(34歳)、海外では自転車競技のアレクサンダー・クリストフ(38歳)、同じく自転車競技のエレオノラ・ファン・ダイク(38歳)といった面々が挙げられるが、もちろん静かに競技から身を引いた選手は数多い。

ケガなどの不可抗力で競技続行が不可能になるケースを除くと、引退の最大の要因は加齢による身体能力の減衰とそれに続く気力の低下ということになるのだろう。

では身体能力のピークは何歳なのだろうか。新たな研究で身体能力は35歳でピークを迎えることが報告されている。

スウェーデンのカロリンスカ研究所のチームが2025年11月に「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」で発表した研究は、「スウェーデン身体活動およびフィットネス研究(SPAF)」という大規模な調査でランダムに選ばれた16歳から63歳までの400人以上の男女の身体能力を47年間にわたってそ追跡調査したデータを分析している。

60代前半で体力がピーク時から半減する可能性も

このSPAF研究はスウェーデン全土で無作為に選ばれた同じ男女を対象に、約50年にわたり定期的に体力と筋力を測定し続けている数少ない長期追跡研究の一つだ。

1974年に当時16歳だった男性222人と女性205人はその後47年間にわたり定期的に身体能力テストを受け、有酸素能力、筋持久力、筋力という 身体能力の3つの重要な要素がその都度測定された。

有酸素能力はサイクリングまたはランニングテストで測定され、腕と胸の筋肉の筋持久力はベンチプレステストによって評価された。さらに垂直跳びによって脚の筋力が測定された。

データを分析した結果、女性は35歳で有酸素能力のピークに達し、男性は36歳でピークに達したことが明らかになった。

筋持久力テストでは、女性のピークは34歳、男性は36歳であった。

筋力テストは意外な結果で、男性は27歳で最高点に達し、女性は19歳で最高点に達していた。

研究チームによると、総合的な身体能力は35歳でピークに達することが示唆されたという。

「主な発見は、36歳になる前に能力のピークに達し、40歳以降は男女ともに検査したすべての能力が同様に加速度的に低下したということです」と研究チームは説明する。

35歳のピーク後、年間減少率は観測期間の最初の10年間は平均1%未満に留まるが、その後の10年間では2.0%超と衰えが加速しているという。45歳からの身体能力の減衰が特に懸念されてくることになる。

男女ともに35歳のピーク時から63歳時点での身体能力の低下は平均で37%で、個人差は30%から48%の範囲である。60代前半で体力がピーク時から半減する可能性もあることになる。

アスリート人生の〝節目〟となる35歳

この調査結果は多くのスポーツで見られる現象とも一致しており、実際にトップアスリートの多くは35歳前後でピークを迎えている。

たとえばサッカーでは、ルカ・モドリッチが33歳で2018年のバロンドールを受賞し、ディディエ・ドログバは34歳で2012年のチャンピオンズリーグ決勝で伝説のゴールを決めている。

テニスでは、ロジャー・フェデラーが35~36歳でグランドスラムを数回制覇し、セリーナ・ウィリアムズとビーナス・ウィリアムズはともに30代半ばで全盛期を迎えている。 そしてつい先日に引退が発表された元世界ランク3位のミロシュ・ラオニッチも35歳である。

バスケットボールでは、レブロン・ジェームズが35歳にして2019~2020年シーズンにNBAシーズンアシスト王を獲得した。

現在、プロボクシングのスーパーバンタム級世界統一王者の井上尚弥は2021年の『Number』のインタビューで35歳で引退をする考えであることを表明していたのも興味深い。今年33歳になる彼の試合を見られるのもあと3年余りということだろうか。

またJ1リーグで長年活躍してきた渡部博文も現役中から35歳で引退することを公言しており、実際に2022年のシーズン後に35歳で引退している。アスリートの実感として35歳はやはりひとつの〝節目〟になっていそうだ。

健康の鍵を握る40代以降の運動習慣

今回の研究で体力と筋力は35歳という早い年齢から低下し始め、その後は徐々に低下し、加齢とともに衰えが加速することが示されたのだが、研究チームは一縷の望みについても指摘している。35歳以降でも運動習慣を身につけた者は、身体能力が5~10%向上していたのである。

「動き始めるのに遅すぎるということはありません」と研究主筆であるマリア・ウェスターシュタール氏はプレスリリースで語る。

「私たちの研究は、身体活動はパフォーマンスの低下を完全に止めることはできないとしても、その速度を遅らせることができることを示しています」(ウェスターシュタール氏)

特に40代前半での運動の習慣化が、加齢による体力の衰えを最小限に食い止めるようだ。

「これから私たちは、誰もが35歳でパフォーマンスのピークに達する理由と、身体活動によってパフォーマンスの低下を遅らせることはできても、完全に止めることはできない理由の背後にあるメカニズムを探ります」(ウェスターシュタール氏)

加齢や生活習慣によって筋肉の量、筋力、そして身体機能が低下した状態である「サルコペニア」が高齢社会を迎えてますます懸念されているが、今回の研究からも40代以降の運動習慣がこれまで以上に重要視されてきそうだ。

※研究論文
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jcsm.70134

※プレスリリース
https://news.ki.se/long-term-study-reveals-physical-ability-peaks-at-age-35

文/仲田しんじ

北海道生まれ東京育ち。学業ドロップアウト後、小説家を志しつつ広告代理店営業マン、任期制陸上自衛官、家電販売員などを経て経て出版業界へ。アスキーなどで編集者として勤務した後、フリーライターとして活動。科学から心理学まで幅広いテーマを執筆。ネット上の研究論文を読むのが趣味。大型自動二輪免許を持っている。 X: @nakata66shinji

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