『国宝』が歴代邦画実写1位の興行収入を記録し、ロケ地にはファンが殺到する一方で、誰にも知られず消えていく映画もある。なぜそんな作品が生まれるのか?
今回は日本映画の裏側を探る名作をピックアップ。ヒットの裏側に潜む真実を知れば、映画の見方が変わる。

〈選者〉映画評論家・ライター 吉田伊知郎さん
評論家、ライター、編集、番組構成に加え、映画専門誌の年間ベストテン選考メンバーや毎日映画コンクール審査員を務める。『映画監督 大島渚の戦い 「戦場のメリークリスマス」への軌跡』など、著書も多数。
日本映画の闇が垣間見える

『皆殺し映画通信』
著/柳下毅一郎 フィルムアート社 2420円
興行収入173億円(11月25日現在)を突破し、邦画実写歴代1位の記録を更新した『国宝』。兵庫県豊岡市のロケ地へ聖地巡礼にファンが詰めかけているという。一方で、話題にもならずにひっそりと上映を終える作品も少なくない。2024年公開作から26本を取り上げた本書には、『野球ユーチューバー有矢』『ザギンでシースー!?』など、存在を疑いたくなるような映画たちが登場する。
映画評論家の著者は、誰が何のために作ったか判然としない映画たちを追いかけ、冷静沈着に内容を紹介しながら、こうした映画が作られる構造にも目を向ける。地域振興を錦の御旗にして全国各地で大量に作られる町おこし映画が抱える問題は、『国宝』のロケ地が地域振興に一役買っている点ともリンクする。『国宝』を観るだけでは見えてこない、日本映画の闇に足を踏み入れていく一冊だ。
〝宣伝のヘラルド〟の何でもありの宣伝手法がズラリ

『日本ヘラルド映画の仕事 -伝説の宣伝術と宣材デザイン-』
著/安藤徳隆、日経BP 竹居智久 1857円
邦高洋低―昨今はアニメーションを中心に邦画の収益は好調だが、洋画は精彩を欠いている。洋画全盛期に観客の高揚感を作り出したのは宣伝だった。印象深いポスターや、キャッチコピーを憶えていないだろうか。そうした宣伝を生んだ代表格が、1956〜2006年まで存続した「日本ヘラルド映画」だ。『エマニエル夫人』を大ヒットに導き、『地獄の黙示録』『乱』には資金提供も行って賭けに出た。勝つときもあれば、大惨敗を招いたこともあった。
半世紀にわたり、同社が配給・製作した映画から約400タイトルに絞り、宣材を掲載した本書。娯楽映画から芸術映画まで幅広い商いを行ってきた映画会社の歴史は飽きさせない。〈宣伝のヘラルド〉の異名を持つだけあって、何でもありの宣伝術の数々は抱腹絶倒。宣伝が映画を輝かせた時代の貴重な記録集だ。
映画『砂の器』が観客を魅了する謎を解く

『砂の器 映画の魔性 監督 野村芳太郎と松本清張映画』
著/樋口尚文 筑摩書房 2750円
松本清張の原作を、野村芳太郎監督、橋本忍、山田洋次の脚本で製作された1974年公開の『砂の器』は、今も根強い人気をほこっている。実は筆者はこの映画が苦手なのだが、それでいて本書の無類の面白さには舌を巻いた。なぜ、観客を魅了させるのか、その謎を複雑な製作過程から解き明かしているからだ。
評判のベストセラーをそのまま映画にしたのではなく、連載中から映画化に取り組み、難点を持つ原作に大胆な脚色を試みる。しかし、その脚本もまた映画にするには欠点が目立っていた。それでも橋本は自らプロダクションを立ち上げて映画化にこぎ着ける。
この大きな賭けがなぜ成功したのか。監督の遺した秘蔵資料や証言をもとに企画から興行、その後の影響まで多面的な視点から全体像を俯瞰した本書は、巨大プロジェクト推進における教本にもなり得るのではないか。
撮影/大崎あゆみ(人物)、黒石あみ(書籍) 編集/寺田剛治







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