
「こどもNISA」が、早速ながら大きな話題になっている。
これは去年12月26日に閣議決定された『令和8年度税制改正の大綱』の中にある方針の一つで、NISAつみたて投資枠の口座を開設できる年齢を0~17歳に広げるという内容だ。無制限の投資は認められていないものの、「これで子供の学資を作りやすくなる」「一方で貧富の差が広がるのでは?」という声が複数ある。
それは本当か? という議論は、残念ながらファイナンシャルプランナーの資格を持っていいない筆者にはできかねる。が、それよりもさらに重要な問題がある。投資の世界に「確実」という言葉は成立せず、にもかかわらずXやnote、YouTubeには「0歳からこの額をつみたて投資枠に入れたら、高校卒業時にはいくら受け取れる」という情報が既に洪水のように発生している。
我々が問題にするべきは、まさにこの部分だ。
2000年代のデイトレードブーム
1984年生まれの筆者が20歳を迎えたあたりの頃、株式投資の世界に大変革が発生した。
日本ではオンラインに常時接続する携帯電話が普及し、そこから株価をチェックしたり、実際に株式取引を行うことが可能になったのだ。誰でも個人投資家になれる時代の到来である。
テレビのワイドショーは、本業をサボってデイトレードに夢中になる人を頻繁に取り上げた。デイトレードやFX投資で今まで以上の可処分所得を得る人が続出し、またそうした人の存在がさらなる新規参入者を呼び込むという現象も発生した。ただし、この時代のデイトレーダーの何割が株式投資の基礎知識をしっかり把握していたかという話になると、それはかなり怪しい。
現に、このデイトレードブームは2008年のリーマンショックでズタズタに引き裂かれてしまったことをよく覚えている。
投資とは結局のところ、こうした大恐慌が発生した時に複数の補填資産を持っているかそうでないかである。この世界には「確実」という単語はない。だからこそ、投資家は一方の銘柄が暴落した時に備えてその損失をカバーし得る銘柄を持っていなければならない。そして、今後10年でリーマンショック並の大恐慌がもう一度やってくるかどうかという未来予知は、誰にもできない。
「だから投資など金を無駄にするだけだ」と言い出す人もいるが、それもまた短絡的な思考と言わざるを得ない。たとえば、「日本円を貯金する」という行為は言い換えると「日本円だけに投資している」という意味である。すると、今以上の円安になった時に人生設計で振りを強いられる。故に、外貨建ての投資を無理のない範囲で実施するのが吉とされているのだ。
「確実に儲かる投資」に引っかかる人

が、「吉とされている」とは必ずしも「絶対に得をする」という意味にはつながらない。
どのような商品でも、投資は常に元本割れの可能性がある。ましてや、Xに多数いる「年商○億円のベテラントレーダー」という肩書きの人物がポストする「株式投資必勝オンライン講座」などは表題を読む価値すらないというのは大人の常識である。
しかし、たとえば中学生の子供がそのようなポストを見つけてしまった場合はどうだろうか?
また、「大人の常識」と書いてしまった手前こうしたことを言うのも説得力に欠けるが、「確実に儲かる投資」という文言に引っかかってしまう大人は一定数存在する。もっと踏み込んだ言い方をすると、「こどもNISA」という看板を掲げて真偽不明の情報商材を売ろうとしている人間が、ネット世界にはあまりに多いということだ。
2027年から開始されると言われているこどもNISAは、年齢関係なく日本人に「金融リテラシー教育の充実」を強く要求する制度である。
「自己決定権」という名の火
こどもNISAは、かつて存在したジュニアNISAとは異なる点が多数ある。
そのうちの一つが、こどもNISAは名義人が12歳以上になれば資金を引き出せるという点だ。この引き出しをする際の具体的な条件は今後の有識者会議で決定されるはずだが、現時点での金融庁の資料にはこう書かれている。
12歳以降において、子の同意を得た場合にのみ、親権者等による払出しを可能とする。
(令和8年度税制改正について-金融庁)
これは親による身勝手な使い込みを防止するため、なおかつ何かしらの理由で子(名義人)の学資を得る必要が出てきた時を想定したための仕組みと思われる。ただし、残念ながら「悪意を持った親権者」はあらゆる手を使ってこどもNISAの資金に手をつけようとするはずで、故に金融庁内に設置された有識者会議はそうしたことを細かくシュミレートして資金引き出しの条件を講じなければならない。
また、「子の同意を得た場合にのみ」というのは、言い換えれば子に資金引き出しの自己決定権があるという意味でもある。
自己決定権というのは火のようなものである。マイク・タイソンを育てたボクシングトレーナーのカス・ダマトは「恐怖は火だ。火は上手く管理すれば身体を温めてくれるし、料理にも使える。しかし、管理できなくなると大火災を起こしてしまう」という言葉を残した。この「恐怖」を「自己決定権」と置き換えても差し支えないはずだ。「大金を左右する権限を持っている」からこそ、それを濫用しない・させないための金融リテラシー教育が必要不可欠になってくる。
中立の立場から金融リテラシー教育を実施する「J-FLEC」

さて、この記事を読んでいる読者の皆様は「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」という認可法人をご存じだろうか?
これは2024年4月に設立された、この記事を書いている時点でまだ誕生から2年にも満たない法人である。一体どのような組織なのかについては、日本銀行の記事に分かりやすく記載されている。
国民の9割以上がお金の教育を受けた認識がない――「人生100年時代」が到来し、長い人生を経済的にどう不安なく過ごすかの関心が高まる中、このような調査結果があります。そうした中、国民の金融リテラシーの向上を図り、一人ひとりが自立的で持続可能な生活を送ることができる社会づくりに貢献することを目指して、2024年4月、認可法人「金融経済教育推進機構」が設立されました。英語名称の頭文字から「J-FLEC」の愛称を持つ同法人には、政府(金融庁)、全国銀行協会(全銀協)、日本証券業協会(日証協)などと共に、日銀も出資し、多くの職員が出向しています。
(多くの日銀職員が働く金融経済教育の最前線-日本銀行)
このJ-FLECには、業務を委託された認定アドバイザーと呼ばれる人たちが存在する。NISAやiDeCoといった制度を含む様々な金融知識を、中立の立場から教える役割を担っている。「中立の立場」という点が最も大事な部分で、J-FLEC認定アドバイザーになるには金融関連業務の資格と経験が必須ではあるが、同時に「金融商品の組成・販売等を行う金融機関等に所属していないこと」「金融商品の組成・販売等を行う金融機関等から、顧客に対するアドバイスの信頼性・公正性に影響を及ぼし得ると考えられる報酬を得ていないこと」がアドバイザーとして働く条件として課せられている。
全国の企業だけでなく、小中高校にも出向いて金融リテラシー教育を行っている。また、J-FLEC全体として各年齢層に応じた教材づくりも実施している。その中から、非常にためになる1ページを見つけたので、以下に文章を引用したい。
○『詐欺に遭わないためのポイント』を押さえておきましょう。
1.自分は詐欺に引っ掛からないと思いこまない。-「自分は大丈夫」と自信過剰になる人ほど詐欺被害に遭いやすい特徴があります。
2.友人・知人(先輩など)からの勧誘であっても注意。-友人・知人からの勧誘であっても、怪しいと感じたら勇気を持って断りましょう。
3.「高額な手数料・登録料」を請求されたら要注意。
4.「絶対に儲かる」商品はありません。-流行りの言葉(AI、NFT、暗号資産(仮想通貨)等)との組み合わせで、「もしかしたら絶対に儲かる商品があるのかも」と思ってしまいがちです。
5.「あなただけに特別なご案内」といった勧誘文句に注意。-人は「あなたは特別だ」と言われると冷静さを失いやすくなります。
(高校生向け 大人になる前に知っておきたいお金の話 90ページ-J-FLEC)
「4」にある通り、今後はこどもNISAとの言葉の組み合わせで詐欺的な情報商材に誘導する者が多数現れるだろう。我々は、そうした手口に乗せられないよう常に警戒しつつ、最新の金融知識を学んでおく必要がある。
【参考】
令和8年度税制改正の大綱の概要-財務省
令和8年度税制改正について-金融庁
金融経済教育推進機構
多くの日銀職員が働く金融経済教育の最前線-日本銀行
標準講義資料_高校生向け 大人になる前に知っておきたいお金の話
文/澤田真一
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