「僕が生駒という土地をどれだけ知っているかと言ったら、まだまだ知らないことが沢山あると思います。生駒には11万人の方々がいますが、その11万人全員と会って『このチームをどうしていったらいいと思いますか』と問いかけ、一緒に愛すべきクラブを作りたい。今はそう思っています」
12月24日に都内で行われた「IKOMA FC 奈良」の記者会見。1月から新社長に就任した元日本代表・播戸竜二氏が力強くこう宣言した。
2019年の現役引退後は現役時代から起業していたマネージメント会社「ミスタートゥエルブ」の社長として経営に携わる一方、Jリーグ特任理事やWEリーグ理事などを歴任。サッカー解説者としても活躍していた。
さらには2021年には映画「孤狼の血 LEVEL2」で俳優デビュー。2023年にも「リボルバー・リリー」に出演しており、まさに八面六臂の働きを見せていたのである。
もともと本人は「Jリーグチェアマンになりたい」という大きな夢を抱いており、組織・クラブ運営に対して強い興味関心を抱いていた。
その実現に向け、引退後は各界で活躍する経営者とネットワークを形成。実務経験も養ってきた。その経験値を生かせるチャンスがついに巡ってきたのだ。
播戸社長が赴く「IKOMA FC 奈良」とは?
同クラブはVELAGO生駒として2025年の関西1部リーグ(J1から数えて5部に相当)を戦い、8チーム中6位でフィニッシュしている。
そして今回、歯科医院向けのキャッシュレス決済の導入支援などで急成長するSCOグループが新オーナーとなり、株式会社IKOMA FC 奈良が誕生。チーム名も「IKOMA FC 奈良」へと変更されることになった。
SCOグループは2024年から天皇杯に特別協賛するなど、日本サッカー界との関わりを深めてきた企業だ。同社の玉井雄介会長はサッカーを通じて地域に根ざしたクラブ作りに挑むパートナーを探しており、その思いが、まだJリーグの歴史を持たない生駒という土地、そして播戸竜二という存在と重なったという。
「数年前から播戸さんと親しく付き合う中で、『サッカーや選手を支える家族、指導者、地域の人々に感謝したい』という彼の思いに強く共感しました。それをクラブに投影してみたいと考え、播戸さんに運営を任せることにしました」
玉井会長は12月24日の記者会見で説明したが、「サッカーを通して地域、日本を元気にしたい」というのは玉井会長、播戸社長の2人に共通する思いだ。
偉大な経営者から重責を任された以上、播戸社長としては持ち前のアグレッシブさとチャレンジャー精神を前面に押し出さなければいけない。強い覚悟を持って、1からクラブ作りを進めていく構えだ。
その第一段階として、播戸社長は「LINEの友達登録11万人」というアイディアを考えているようだ。
「今、ドローンでQRコードを出せる技術があるそうなんですが、それを活用したり、シールを配布したりしながら、LINEの友達登録をしてもらって、クラブ会員を増やす取り組みを始めていきたいと考えています。生駒市民のみなさんの力を借りながら、多くの意見や話を聞く場を作っていければいいですね。
僕はJリーグの川淵三郎初代チェアマンを心から尊敬しているんですが、川淵さんが提唱した総合型スポーツクラブを目指したいとも考えています。SCOグループもさまざまなアスリートを応援していますし、そういう方々の力も借りながら進めていければいいと思っています」
アイディアマンの新クラブトップは斬新な取り組みをここから具体化していくつもりだ。
生駒という場所はサッカー界の激戦区。いかにして基盤を作るのか?
ただ、生駒という地域はサッカー界においては激戦区。西に隣接する大阪府には、播戸氏が練習生からプロ契約を勝ち取ったオリジナル10の名門・ガンバ大阪があり、同じJ1の名門・セレッソ大阪もしっかりと根を張っている。奈良県の北に位置する京都府には2025年J1で3位に躍進した京都サンガF.C.がある。
その下のカテゴリーに目を向けても、今季J3を戦った奈良クラブ(本拠地=奈良市)、FC大阪(同=東大阪市)があるし、JFL(4部相当)に参戦していたFCティアモ枚方(同=枚方市)、飛鳥FC(同=橿原市)も近隣エリアに存在する。
生駒市在住者の中にもこれらのクラブを応援している人がいると見られるだけに、播戸社長が目指す「人口11万人がみんなで応援するクラブ」を作るのはハードルが高そうだ。
「そういう地域だからこそ、市民が誇りを持てるクラブにならなければいけないと強く感じています。実際、生駒市からは日本代表経験のあるFW古橋亨梧(バーミンガム)も羽ばたいていますし、サッカーに対して無関心というわけではないと感じています。
1月から僕も生駒に住んでクラブの仕事に注力することになりますが、強化担当、運営、広報、営業といったフロントスタッフ5~6人と一丸となって、できることを進めていくつもりです。
『走りながら考える』というのは、僕を日本代表デビューさせてくれたイビチャ・オシム監督の口癖ですが、まさにそうなると思います」
「最短4年でJ1まで辿り着ける」と播戸社長。今季は最難関のJFL昇格に挑む
SCOグループの傘下に入ったことで、年間運営費についても一定のメドが立ったというが、その資金力だけでハイレベルな関西1部を勝ち抜ける保証はない。
2026年の同リーグには、JFLから降格してくる飛鳥FC、2025年関西1部優勝のアルテリーヴォ和歌山、岡崎慎司(バサラ・マインツ監督)がオーナーを務めるFC BASARA HYOGOなどがひしめいており、リーグ制覇への道は険しいのだ。
仮に関西1部を制することができたとしても、JFL昇格はさらにハードルが高い。というのも、全国地域サッカーチャンピオンズリーグという特殊な大会で優勝しなければ、JFL自動昇格が叶わないからだ。
2位になればJFL・15位との入替戦に回ることになり、そこで勝って初めて上のカテゴリー辿り着ける。想像を絶するほどの狭き門なのである。
「JFL、J3、J2、J1とトントン拍子で上がれれば、最短4年で最高峰リーグまで行けるということになるので、まずはそこにチャレンジしたい気持ちはあります。目標は高い方がいいので。とはいえ、僕もサッカー界で生きてきた人間なので、理想と現実があることはよく分かっています。
2026年はガンバでコーチを務めていた高木和道監督を招聘。一緒に強化に当たっていきますが、当然のごとく戦力も補強しなければいけない。カズさん(三浦知良=JFL鈴鹿)には真っ先に声をかけさせてもらいましたが、それ以外にも新たな選手を補強し、チーム力をアップさせていきます。
サッカーは勝負事ですし、チームが強ければ、人々の関心も高まる。『IKOMAが勝ってるみたいだから、ちょっと試合に行ってみようか』という人が増えてくれれば、僕としてもすごく嬉しいこと。もちろんフロントの地道な活動も大事ですが、現場もうまく回るように頑張っていきます」
こう語る播戸社長は成功している地方クラブを数多く見てきた。2025年J2で優勝してJ1初昇格を果たした水戸ホーリーホック、市民に支えられて今季まで8年間J1に在籍し続けた湘南ベルマーレなどはいい参考例になりそうだ。
「それぞれのクラブがどのように歩んでできたのか、どうやって市民を巻き込んできたのかを僕なりに分析し、IKOMAに生かしていくことは重要だと思います。ただ、生駒市には生駒市の地域性や市民の考え方がある。そこに耳を傾けつつ、ベストな形を模索したい。とにかくやることは多いですが、僕の”ギラギラ感”をみなさんに伝えるところから始めていこうと思います」
本人も強調する通り、何事も熱意を伝え、理解してもらうところからがスタートだ。選手時代も飽くなき情熱と闘争心で困難を乗り越えてきた播戸社長なら、どんな苦境にも立ち向かっていけるはず。念願だったクラブ経営に携わる46歳の挑戦者が日本サッカー界にどのような変革をもたらすのか。2026年はこの男の一挙手一投足から目が離せない。
取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。
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