2025年11月10日、2024年の民事訴訟法の改正から初めて最高裁でウェブ弁論が行われました。本記事では、ウェブ弁論とはどのような制度なのかを改めて解説します。
目次
これまで、裁判は法廷に足を運んで行うものという認識がありましたが、裁判のIT化によってその姿が変わりつつあります。2024年3月1日の民事訴訟法の改正後、2025年11月10日に最高裁で初めて「ウェブ弁論」が行われました。
本記事ではこの「ウェブ弁論」とはどのような制度なのかを解説します。概要、メリット・デメリット、要件などに触れていますので、気になる方はぜひ最新の裁判事情をチェックしてください。
ウェブ弁論の概要
諸外国に比べて裁判のIT化に遅れをとっていた日本は、2022年5月に民事訴訟法を改正し、少しずつIT化を進めてきました。その大きなステップの1つが2024年3月の民事訴訟法の改正です。
まずは2024年3月に行われた民事訴訟法の改正とウェブ弁論の概要を詳しく解説します。
■2024年3月1日に民事訴訟法が改正
2024年3月1日、国は2022年5月25日に交付された民事訴訟法の一部を改正しました。
この法改正の内容は2026年5月までに段階的に施行されることとなっており、そのうち施行されたものの1つが口頭弁論のオンライン化です。
民事訴訟の手続きにはいくつかの種類があり、そのうち弁論準備手続や和解期日などはすでに映像や音声を使用して参加できるようになっています。そして2024年3月1日には、口頭弁論もウェブ会議を通して参加できるようになりました。
■2025年に最高裁で初のウェブ弁論を実施
2025年11月10日には、最高裁で初めてのウェブ弁論を実施。制度を利用したのは沖縄県の弁護士です。口頭弁論と別の予定が重なったことを説明し最高裁に確認したところ、ウェブ弁論について二つ返事で許可が得られたと語っています。
ウェブ弁論を行う要件は後ほど詳しく解説しますが、それほど厳しい要件は設定されていません。今回の実例を契機に、今後も裁判では必要に応じてウェブ弁論が活用されていくことでしょう。
ウェブ弁論のメリット・デメリット
ウェブ弁論といえば、交通費や移動時間の削減といったメリットが真っ先に思い浮かぶ方も多いと思いますが、そのほかにも複数のメリットがあります。また、思いもよらぬデメリットが生じることも。
ここではウェブ弁論のメリットとデメリットに注目してみましょう。
■ウェブ弁論のメリット
ウェブ弁論の最も大きなメリットは、やはり移動にかかる時間とコストの削減です。特に遠方に住む当事者や、複数の裁判所で業務を抱える弁護士にとって、移動による負担は大きなものでした。ウェブ弁論制度の導入により、このような負担が大きく軽減され、より多くの人が裁判に参加しやすくなります。
体調不良や身体的な理由により出廷が困難な当事者にとっても、ウェブ弁論は裁判に参加するための重要な手段となります。高齢者や障がいのある方も、自宅から安全に裁判に参加できるようになりました。
先に紹介した日本初の実例にもあるように、スケジュールの調整が容易となったことも、司法の効率化という観点で大きなメリットと言えるでしょう。
■ウェブ弁論のデメリット
ウェブ弁論を行うには、良好な通信環境の準備が必須です。ウェブ弁論の最も大きなデメリットとして、通信環境によるトラブルが挙げられます。事前に通信環境の確認が行われるものの、当日になって通信トラブルが発生すると映像や音声が途切れて審理が中断されてしまう可能性があります。どのような環境であっても、このようなリスクは排除しきれません。
また、すべての当事者がスムーズにウェブ会議システムへアクセスできるわけではありません。特に高齢者などのインターネット接続に不慣れな方に関しては、技術的な支援が求められるでしょう。
ウェブで口頭弁論を行う要件
裁判の公正性を保つため、ウェブ会議を使って口頭弁論を行うには一定の要件が設けられています。しかし先述の通りそれほど厳しいものではありません。ここでは、ウェブ弁論を行うための要件をチェックしておきましょう。
■裁判所が相当であると認めていること
ウェブ弁論を実施するには、裁判所がその実施を相当であると認める必要があります。日本で初めて行われたウェブ弁論では、弁護士が裁判当日に別の依頼者の株主総会に出席する必要があり、そうした事情を裁判所が認めた背景がありました。
すべての申し出に対してウェブ弁論を許可するわけではなく、事案や状況、事情を裁判所が総合的に判断したうえで実施が許可されるという仕様は理解しておく必要があるでしょう。裁判所の裁量によって柔軟に対応できる仕組みとも言えます。
■裁判所と当事者が映像と音声を使用すること
ウェブ弁論は音声のみでの参加はできません。裁判所と当事者の双方が映像と音声を同時に使用できる環境が必須です。これは、口頭弁論における直接主義や口頭主義の原則を維持するために重要な要件となります。
裁判官が当事者の主張や証人尋問などを行う際に、直接目の前で聴取を行うことが民事訴訟の原則となっており、これを直接主義と言います。法廷で主張や証拠を述べるべきという原則が口頭主義です。
このような原則に従い、音声だけでなく映像を用いることで、対面に近いかたちでの審理が可能となります。
参加者は事前にカメラとマイクを備えたデバイスを用意し、安定したインターネット環境を確保しなければなりません。
なお、先述の実例によると、最高裁判所より、事前にカメラ等の使用場所や通信環境、通信トラブル時の連絡方法といった確認があったとのことです。
■弁論準備手続や和解期日は音声での実施が可能
事前の争点整理などを行う弁論準備手続や和解期日は、すでにIT化が進んでおり、弁論準備手続においては音声のみでの実施が認められています。
和解期日は音声のみでの実施が可能なケースもありますが、離婚など身分関係の最終的な和解成立時には、直接主義、口頭主義の原則に従ってウェブ会議の利用が必要です。
ウェブ弁論に関するQ&A

最後に、ウェブ弁論に関してよくある疑問と回答をQ&A形式でご紹介します。
●ウェブ弁論に関する条文が知りたい
●弁論部とは?ウェブ弁論と関係はある?
●証人尋問や当事者尋問もウェブ会議でできる?
気になる項目があればぜひチェックしてください。
■ウェブ弁論に関する条文が知りたい
ウェブ弁論に関する条文は、民事訴訟法 第87条の2 にて確認できます。
(映像と音声の送受信による通話の方法による口頭弁論等)
第八十七条の二 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、口頭弁論の期日における手続を行うことができる。
2 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、審尋の期日における手続を行うことができる。
3 前二項の期日に出頭しないでその手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。
引用:e-GOV法令検索「民事訴訟法(平成八年法律第百九号)」
条文にもわかりやすく記載されていることがわかります。裁判所と当事者の双方が映像と音声を利用すること、裁判所が相当と認めていることで、当事者は裁判に出頭したものとしてみなされるとの記載があります。
■弁論部とは?ウェブ弁論と関係はある?
弁論部は、今回のウェブ弁論とはほとんど関係がありません。弁論部とは、主に弁論やディベートの企画・研究を活動内容とした、大学などのサークルを指します。
弁論部のある大学の例を挙げると以下の通りです。(2025年12月27日時点)
●慶應義塾大学(辯論部)
●上智大学(弁論部)
●北海道大学(北大政経研究会)
●早稲田大学(雄弁会)
●明治大学(雄弁部)
など
■証人尋問や当事者尋問もウェブ会議でできる?
民事訴訟法 第204条によると、居住地など特定の要件を満たした場合に映像と音声を使用した証人尋問が可能であることが示されています。また、ウェブ会議による証人尋問は、2022年の法改正によって要件が緩和されました。
(映像等の送受信による通話の方法による尋問)
第二百四条 裁判所は、次に掲げる場合には、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人の尋問をすることができる。
一 証人が遠隔の地に居住するとき。
二 事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係その他の事情により、証人が裁判長及び当事者が証人を尋問するために在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるとき。
引用:e-GOV法令検索「民事訴訟法(平成八年法律第百九号)」
ウェブ会議を使用した証人尋問は、すでに実例が存在しています。
例えば、德永・松崎・斉藤法律事務所の「法廷百景 ウェブ会議システムを利用した証人尋問」では、当日の様子を詳しく知ることが可能です。機材トラブルにより15分程度の中断が発生したようですが、その後問題なく進行されたとのこと。
今後もさらに普及が進み、より多くの事件でウェブ弁論が活用されることが期待されています。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/まじめさん







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