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食品ロス削減の救世主となるか?ファミマが感情に訴えかける割引「涙目シール」を作ったワケ

2025.12.31

「たすけてください」——涙目のおむすびが描かれた値下げシールが、ファミリーマートの食品ロス削減に大きな効果をもたらしている。

2024年10月の実証実験では、従来のシールに比べて購入率が5ポイント向上。全国展開した場合、年間約3000トンの食品ロス削減につながる計算だ。2025年3月から全国の店舗に導入され、同年10月にはデザインをフリー素材として公開。社会全体での活用を目指す取り組みへと広がっている。

この「涙目シール」はどのような経緯で生まれ、なぜこれほどの効果を発揮したのか。

今回は、マーケティング本部 サステナビリティ推進部 環境推進グループ マネジャーの原田公雄氏に、開発の背景から今後の展望までを聞いた。

コンビニが抱える食品ロスのジレンマ

ファミリーマートは、環境に関する中長期目標として「ファミマecoビジョン2050」を策定している。この目標では、温室効果ガス削減、プラスチック対策、食品ロス削減という3つのテーマで数値目標を設定した。

なかでも食品ロスについては、2018年対比で2030年に50%削減という高い水準を掲げている。

ただし、24時間営業のコンビニにとって、食品ロスの削減は容易ではない。顧客の来店タイミングが読めない中で、常に商品を揃えておく必要があるからだ。原田氏はこの構造的な難しさについて次のように語る。

「お客様がいついらっしゃるかわかりません。そのため、いらっしゃった時に売り場に商品がないという状況はなるべく避けたいと考えています。しかし、そうした品揃えを維持しようとすると、どうしても最後に残ってしまう商品が出てきます」

この課題に対応するため、ファミリーマートは2021年7月に「ファミマのエコ割」を導入した。それまでコンビニではあまり行われていなかった値下げ販売を、店舗が実施しやすい仕組みに変えたのである。

専用のシールを作成し、店舗スタッフがシールを貼るだけで値下げができる形を整えた。この施策によって、食品ロスは2018年対比で30%以上の削減を達成している。

しかし、50%という目標にはまだ距離があった。原田氏は当時の課題感を振り返る。

「50%の削減の実現は、相当に大変です。値下げによる購買促進や商品の日持ちを向上させるための工夫などいろいろやってきましたが、それでもまだまだ対策が必要でした。そこで、経済的な動機に訴えるだけでなく、お客様の共感を得て食品ロス削減を一緒に進めていける方法はないかと考えました」

経済的なインセンティブだけに頼らない、新たなアプローチの模索が始まった。

たすけてください」に決まるまでの試行錯誤

新たなアプローチとして原田氏らが目をつけたのは、値下げシールそのものだった。

従来のシールには値引き額と「ファミマのエコ割」という文言が記載されていたが、「ファミマのエコ割」という言葉自体は、お客様にとっては意味を持たない。であれば、その部分を変更することで、お客様の感情に訴えかけるデザインにできないか。そう考えた原田氏らは、シールにイラストを載せ、さらにメッセージを添えるという方向で検討を始めた。

イラストの表情は、笑顔や泣き顔など複数のパターンを用意し、メッセージもさまざまな案を作成した。

「『ストップ食品ロス』のようなスローガン調のもの、『食べてほしいです』『食べるならボクを・・・!』といった呼びかけ調のものなど、いろいろなパターンを作りました。そして、それぞれについてどういった印象を持ったのか、消費者へのインタビューでご意見を伺いました」

結果は、開発側の想定とは異なるものだった。当初、原田氏らは「たすけてください」「もうすぐ捨てられちゃいます」といったネガティブな表現は避けたいと考えていた。しかし、客の反応は逆だったのである。

「『食べてほしいです』や『食べるならボクを・・・!』だと、何を訴えたいのかがわからないという声がありました。キャンペーンなのか何なのかわからない、と。一方で、『もうすぐ捨てられちゃいます』『たすけてください』といった表現は、食品ロスと結びつきやすく、わかりやすいという声が多かったんです」

売り手側の感覚と、客の受け止め方には差があった。この結果を受け、原田氏らは客の声を優先し、「たすけてください」というメッセージと涙目のデザインを採用することに決めた。

購入率5ポイント向上、全国3000トン削減へ

デザイン選定の次は実証実験である。2024年10月、食品ロス削減月間に合わせて都内の店舗でシールを切り替えた。食品ロス削減の日である10月30日から実験をスタートし、従来の「ファミマのエコ割」シールから、涙目シールへと変更した。

結果は明白だった。原田氏は実験の成果を次のように語る。

「実験してみたところ、マッチング率が5ポイント上がりました。全国で展開していたと仮定すると、5ポイントとは食品ロス約3000トンの削減に相当する数字です。はっきりと効果が出たうえに、シールを変えるだけなので現場の負担増加といったネガティブな要素が全くありません。そのため、すぐに全国展開を決断しました」

従来のシールも、涙目シールも、割引率は変えていない。にも関わらず、涙目のデザインに置き換えただけで、5ポイントもの効果が得られたのである。その要因は、これもまた予想外のところにあった。

涙目シールの導入後、様々なメディアで取り上げられ、多くのコメントが寄せられた。その声から見えてきたのは、値下げ商品に対するお客様の複雑な心理だった。

「やってみてわかったのは、値下げ商品だけを買うことに抵抗がある方が一定数いらっしゃるということです。一つのカゴに何個も値下げ商品を入れると、ちょっと恥ずかしいと感じる方がいる。そういう方にとっては、食品ロス削減に貢献するという理由があることで、気軽に購入できるようになったと考えています」と原田氏は分析する。

涙目シールは、単なる値引き表示ではなく、食品ロス削減への参加を促すメッセージとして機能している。客は「安いから買う」のではなく「社会問題の解決に貢献している」という意識を持てるようになった。この心理的な変化が、購入率向上の一因となっている。

現場の反応も好意的だった。全国展開の決定のタイミングで、2025年2月から4月にかけて加盟店向けの展示会が全国で開催された。今後実施する施策を紹介する場である。サステナビリティ推進部もブースを構え、涙目シールの全国展開について説明を行った。

「サステナビリティ推進部としてブースを設け、涙目シールを今後全国で展開していくと紹介しました。すると、全国どこの会場でも『早くやってほしい』『うちの店にいつ入るんだ』という声が上がりました。日々現場で食品ロスに向き合っている加盟店の皆さんから、これほど前向きな声をいただけたことは大きな手応えでした」

フリー素材化で社会全体へ広げる

涙目シールの効果が実証されたことで、ファミリーマートは次のステップに踏み出した。このデザインを自社だけで使うのではなく、社会全体に広げるという決断である。

ただ、おむすびのデザインだけでは使いづらい業態もある。スーパーやケーキ屋、パン屋など、さまざまな店舗での利用を想定し、パン、ケーキ、切り身の魚、肉といったバリエーションを追加で制作した。利用規約には「食品ロス削減のために使う」という条件を明記し、2025年10月にフリー素材として公開した。

公開から1か月で約5000件のダウンロードを記録している。具体的な導入事例も出始めた。原田氏は次のように語る。

「目黒区がこの取り組みに共感してくださり、区として区内のお店に紹介していただいています。目黒区の店舗では使っていただいているところも徐々に増えてきている状況です。いつか街で涙目シールに出会えるのを楽しみにしています」

涙目シールは、ファミリーマートという一企業の施策から、社会全体で食品ロスに取り組むためのツールへと進化しつつある。

「食品ロス問題は簡単ではない」それでも挑み続ける

涙目シールは着実に成果を上げている。しかし、原田氏は食品ロス削減の難しさを率直に認める。

「食品ロス削減は、なかなか簡単ではありません。涙目シールで効果は出ていますが、最終的にはお客様とのマッチングの問題です。消費期限という時間の制約がある中で、最後に買っていただけるかどうかはコントロールが難しい部分があります」

食品ロス問題は、一企業の、一つの施策だけで解決できるものではない。だからこそ、涙目シールをフリー素材化し、社会全体で活用できる形にした。加えて、店舗以外の領域にも目を向けている。食品ロスは店舗だけで発生しているわけではなく、フードチェーン全体で無駄が生まれているからだ。

その具体策の一つが、規格外食材の活用である。原田氏は「もったいないバナナ」の取り組みについてこう説明する。

「規格外のバナナは、そのままでは売れません。しかし、品質としてはまだ十分に食べられるものです。それをアイスや飲料に加工して、ファミリーマートで販売しています。こうした取り組みは今後も続けていきたいと考えています」

涙目シールの社会への普及、そして規格外食材の商品化。2030年に50%削減という目標に向け、ファミリーマートはあらゆる角度から食品ロス問題に取り組んでいく。

取材・文/宮﨑駿

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