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人口がゼロに近づく村で幸せに生きられるのか?SFプロトタイピングが描く「限界集落の未来」

2026.01.09

未来オムニプレゼンスは、カトウとスズキによって運営されるSFプロトタイピングカンパニーだ。彼らの使命はクライアントからの依頼に基づき、未来を「予測」するのではなく、未来を「創る」ことにある。

 秋の深まる午後、未来オムニプレゼンスのオフィスに一人の女性が訪れた。

 名前は桐谷真帆、三十八歳。「過疎地域持続可能性研究所」の主任研究員である。彼女の手には分厚い報告書があったが、その表情には数字だけでは語れない重さがあった。

「正直に申し上げます。人口減少は、もう止められません」

 桐谷は開口一番、そう言い切った。

「日本の限界集落は現在約三万か所。二〇四〇年までに、その半数以上が消滅すると予測されています。どれだけ移住促進策を打っても、出生率向上策を講じても、この流れは変わらない。それが、私たちの結論です」

 カトウが静かに問いかけた。

「では、何を求めていらっしゃるんですか」

 桐谷は少し間を置いて、言葉を選ぶように続けた。

「逆転の発想が必要なんです。『人を増やす』のではなく、『人が減っても、最後の一人まで幸せに暮らせる』——そんな未来を描けないかと」

 彼女は報告書を開いた。そこには、ある村の詳細なデータがあった。

「G県の山間部にあるKM村。人口十九人、平均年齢八十二歳。最年少が六十七歳。十年後には、統計上、人口はゼロになります」

 スズキが眉をひそめた。

「統計上、ゼロ——」

「はい。でも、今そこに暮らしている十九人は、確かに生きている。彼らの残りの人生を、どうすれば豊かにできるのか。『撤退戦』ではなく『充実した晩年』として設計できないか。それを、御社のSFプロトタイピングで描いてほしいんです」

 桐谷の目には、切実な光があった。

「私の祖母も、三年前まで限界集落に一人で暮らしていました。最期は施設で亡くなりましたが、本当は最後まで自分の家にいたかったはずです。でも、当時の私たちには、それを叶える手段がなかった」

 カトウとスズキは顔を見合わせた。

「わかりました」スズキが答えた。「『人口減少を前提とした、尊厳ある暮らし』——その未来を創らせていただきます」

 桐谷が帰った後、カトウとスズキは長い沈黙の後、ブレインストーミングを始めた。

「これまでの過疎対策は、すべて『人を増やす』ことが前提だった」カトウがホワイトボードに書く。「移住促進、企業誘致、観光振興——でも、それは『増える』という幻想に依存している」

「発想を転換しよう」スズキが続ける。「人口が減ることを『失敗』ではなく『所与の条件』として受け入れる。その上で、何ができるか」

「限界集落を『限界』と呼ぶのは僕たちの手で終わらせよう。テクノロジーが集落に寄り添えば、最早その限界は越えられるはず。越えられなかったのは昨日までの話だ」

「でも、それだけじゃ足りない。技術で『不便』は解消できても、『孤独』や『生きがい』は別の問題だ」

 二人は議論を重ね、一つの物語を紡ぎ始めた。

 以下は、未来オムニプレゼンスによって納品された「限界集落の未来」を描く物語である。

【Case47|限界集落の『限界と共生』する在り方 「オムニビレッジ——最後の一人まで」】

 物語の舞台は、二〇三五年のKM村。

 人口は十二人にまで減っていた。平均年齢は八十六歳。最年少は七十四歳の藤井健太、元郵便配達員だ。

 ますます寂しく廃れているかと思いきや、村の風景は十年前とは一変していた。

 朝六時。九十三歳の梅子は、いつものように目を覚ました。

「おはよう、ハナ」

 枕元のスピーカーに声をかけると、穏やかな声が返ってくる。

『おはようございます、梅子さん。よく眠れましたか? 昨夜の睡眠データを見ると、深い眠りが五時間十二分。とても良い状態です』

「そうかい、道理でスッキリしとるわ」

『今日の体調チェックをしましょうか。まず、ベッドの端に座ってください』

 梅子がベッドに腰かけると、マットレスに内蔵されたセンサーが心拍数、血圧、体重を自動で計測する。

『血圧128の78、心拍数68。昨日より少し高めですが、正常範囲内です。お薬は、朝食後に青い錠剤を一つ。テーブルの上に用意してありますよ』

 梅子は立ち上がり、ゆっくりと台所に向かった。床には薄いセンサーマットが敷かれており、歩行パターンを常時モニタリングしている。転倒リスクが高まれば、即座にアラートが飛ぶ仕組みだ。

 三年前、梅子は夜中に転倒して大腿骨を骨折した。救急車が来るまで二時間。あの恐怖は今でも忘れられない。

 でも今は「ハナ」がいる。

 AIアシスタント「ハナ」は、ただの音声スピーカーではない。家中に張り巡らされたセンサーネットワーク、ウェアラブルデバイス、そして村全体を覆うIoT網と連携している。梅子の生活パターンを学習し、異変があれば瞬時に対応する。

 名前をつけたのは梅子自身だ。若くして亡くなった娘の名前。桐谷研究員は最初、複雑な表情を浮かべたが、梅子は笑って言った。

「本物のハナとは違う。でも、一人じゃないって思えるんよ。それだけで、十分なんよ」

 朝八時。藤井健太は、タブレットで村の「ダッシュボード」を確認していた。

 十二人の村民全員のバイタルサインがリアルタイムで表示されている。異常があれば赤く点灯する。今日は全員グリーン。

『おはようございます、藤井さん。本日の巡回ルートを表示しますか?』

「頼む」

 画面に地図が映し出された。AIが最適化した巡回ルート。といっても、藤井自身が足を運ぶのは週に三回程度だ。

 日常的な安否確認は、各家庭のセンサーネットワークとAIが担っている。藤井の役割は、「人間にしかできないこと」——顔を見て話すこと、手を握ること、一緒にお茶を飲むこと——に特化している。

 藤井は七十四歳。十年前までは「村で一番若い」ことを重荷に感じていた。自分がすべてを背負わなければ、という真面目な性格ゆえの責任感。

 今は違う。テクノロジーが「できること」を引き受けてくれるから、藤井は「人間としてやりたいこと」に集中できる。

 午前十時。八十九歳の源さんは、自動運転車両「みらい号」に乗っていた。

 行き先は、四十分先の総合病院。月に一度の定期検診だ。

 かつては、この通院が最大の負担だった。山道を運転する体力はもうない。家族に送迎を頼むにも、家族は都市部に住んでいる。タクシーを呼べば片道一万円以上。

 「みらい号」はすべてを変えた。

 村には三台の自動運転車両が配備されている。予約はAIアシスタントに声で伝えるだけ。車両が玄関先まで迎えに来て、目的地まで安全に運んでくれる。

 車内では、AIが話し相手になってくれる。

『源さん、今日の検診で何か心配なことはありますか?』

「いや、特にないな。血圧の薬が効いとるみたいで、調子ええわ」

『それは良かったです。先月の遠隔診療の結果も良好でしたね。今日は念のための対面確認ですから、リラックスしていきましょう』

 月に一度の対面診療以外は、すべて遠隔で完結する。村の集会所には「ヘルスポッド」が設置されている。ブースに入れば、血液検査、心電図、エコー検査まで、遠隔操作のロボットアームが実施してくれる。

 都市部の病院と同等の医療が、山奥の村で受けられる。

 正午。八十五歳の政夫じいさんは、段々畑を見下ろしていた。

 畑には小型ロボットが動き回っている。除草、水やり、害虫駆除。重労働はすべて機械が担う。

 政夫の役割は「監督」と「判断」だ。

『政夫さん、トマトの区画で病気の兆候を検知しました。画像を送ります。対処法を選択してください』

 タブレットに映し出された画像を見て、政夫は判断を下す。

「これは軽度のうどん粉病じゃな。農薬は使わん。風通しを良くすりゃ治る。ロボットに下葉の剪定を指示してくれ」

『了解しました。剪定を実行します』

 七十年以上の農業経験。その知恵は、AIにも代替できない。政夫は「使われる」のではなく「教える」立場になっていた。

 彼の判断と指示は、すべてデータベースに記録される。「政夫じいさんの農業知」として、将来の農業AIの学習データになる。

「わしが死んでも、この知恵は残るんじゃな」

 政夫は満足げに呟いた。

 午後三時。村の廃校を改装した「交流センター」に、村民たちが集まっていた。

 といっても、物理的に集まっているのは七人。残りの五人は、自宅からホログラムで参加している。

 壁面の大型ディスプレイには、都市部に住む「関係人口」の顔も映っている。かつて村に住んでいた人の子や孫、村に興味を持つ都市住民、海外の日本文化研究者——。

『今日のテーマは「私の宝物」です。順番にお話しいただけますか?』

 AIファシリテーターの進行で、ゆるやかな対話が始まる。

 梅子ばあさんが、亡くなった夫との思い出の写真を見せる。政夫じいさんが、父親から受け継いだ鍬を紹介する。

 一つ一つの物語が、アーカイブされていく。村の記憶として、永遠にデジタル空間に保存される。

「この村は、いずれ人がいなくなる」藤井が静かに言った。「でも、私たちの記憶は残る。この対話も、畑の知恵も、全部。それが、次の世代への贈り物になる」

 夕方六時。梅子は夕食の準備をしていた。

 といっても、調理の大半は「フードプリンター」が担う。梅子が「今日は煮物が食べたいな」と言えば、栄養バランスを考慮した献立をAIが提案し、食材の自動配送から調理まで、ほぼ自動で完了する。

 梅子の役割は「味見」と「仕上げ」だ。

「もうちょっと醤油が欲しいねえ」

 その一言で、次回から味付けが調整される。AIは梅子の好みを学習し続けている。

 夜九時。梅子はベッドに入った。

「ハナ、今日も一日ありがとうねえ」

『こちらこそ、梅子さん。今日の歩数は二千三百歩、目標達成です。明日の天気は晴れ、最高気温は十八度。お散歩日和ですよ』

「そうかい。じゃあ、明日はお墓参りに行こうかねえ」

『いいですね。みらい号を朝九時に手配しておきましょうか?』

「お願い。おやすみ、ハナ」

『おやすみなさい、梅子さん。良い夢を』

 部屋の照明がゆっくりと落ちていく。センサーが梅子の入眠を検知し、室温と湿度が最適値に調整される。

 梅子は思った。

 十年前、自分はこの村で一人で死ぬことを恐れていた。子どもたちは都市部に住み、帰ってくる気配はない。夜中に何かあったら、誰にも気づかれずに死ぬのではないか——。

 今は、その恐怖がない。

 一人暮らしだけど、一人じゃない。見守られている。繋がっている。

 それだけで、十分だった。

 二〇四〇年。

 KM村の人口は、三人になっていた。

 九十八歳の梅子、九十四歳の源さん、七十九歳の藤井。

 村の機能は、ほぼ完全に自動化されていた。電力は太陽光とマイクログリッドで自給。水道は自動浄水システム。道路はロボットが維持管理。

 三人は、静かに、穏やかに、暮らしていた。

 ある日の夕方、藤井は梅子の家を訪ねた。

「梅子さん、調子はどうですか」

「ああ、藤井さん。元気じゃよ。ハナがよく世話をしてくれるからねえ」

 二人は縁側に座り、夕焼けを眺めた。

「この村も、あと何年もつかねえ」梅子が呟いた。

「そうですね」藤井は静かに答えた。「でも、それでいいと思うんです」

「え?」

「村が『消える』ことは、悲しいことかもしれない。でも、梅子さんがここで幸せに暮らして、最期を迎えられるなら——それは、村が『役目を果たした』ってことじゃないですか」

 梅子は少し考えてから、微笑んだ。

「そうかもしれんねえ。四百年続いた村の、最後の住人になるのも、悪くないかもしれん」

 夕陽が山の端に沈んでいく。

 どこからか、鳥の声が聞こえた。

 二〇四五年。

 KM村の最後の住人、梅子が百三歳で息を引き取った。

 自宅のベッドで、眠るように。AIアシスタント「ハナ」が異変を検知し、遠隔で医師が看取った。

 苦しみはなかった。恐怖もなかった。最期まで、自分の家で、自分らしく生きた。

 村に人はいなくなった。

 しかし、村は「消えて」はいなかった。

 デジタルアーカイブには、四百年の歴史が、住民たちの記憶が、政夫じいさんの農業知が、すべて保存されている。

 世界中から、バーチャルで「訪問」することができる。ARグラスをかければ、かつての祭りの様子を追体験できる。

 物理的な村は無人になった。でも、村の「魂」は、デジタル空間で生き続けている。

物語を終えて

 未来オムニプレゼンスが描いたのは、「人口減少を前提とした、尊厳ある暮らし」の姿だ。

 この物語には、移住者は登場しない。人口は増えない。村は最終的に無人になる。

 しかし、それは「失敗」ではない。

 最後の住人が、最期まで自分らしく、幸せに暮らせたなら——それは「成功」なのだ。

 従来の過疎対策は、「人を増やす」ことを成功指標としてきた。しかし、人口減少が不可逆的な現実である以上、その指標自体を問い直す必要がある。

 新しい指標は、こうだ。

 「そこに暮らす人々の、QOL(生活の質)とQOD(死の質)」

 どれだけ快適に暮らせたか。どれだけ尊厳を持って最期を迎えられたか。

 そのために、テクノロジーは存在する。

 プレゼン当日、カトウとスズキは会議室で、桐谷をはじめ研究所のメンバーに向けて物語を披露した。

 カトウが語る。

「この物語の核心は、『撤退戦』を『充実した晩年』に読み替えることです。人口減少は止められない。でも、その中で人々が幸せに暮らすことは、できる」

 スズキが続ける。

「必要な技術は、すでにほとんど存在しています。自動運転、遠隔医療、AIアシスタント、センサーネットワーク、スマート農業——。問題は、それらが『届くべき場所に届いていない』こと。そして、『撤退=失敗』という思い込みが、投資を妨げていること」

 桐谷が深くうなずいた。

「『最後の一人まで幸せに』——これを目標にできれば、すべてが変わりますね」

「はい」カトウが答えた。「人口を増やすための補助金ではなく、『そこに暮らす人々のQOLを最大化する』ための投資。発想の転換が必要です」

 会議室に沈黙が流れた。

 やがて、研究所の座長が口を開いた。

「……正直、衝撃を受けています。私たちはずっと『いかに人口を増やすか』を考えてきた。でも、この物語は『増えなくてもいい』と言っている。それでも、希望がある」

「希望の形が、変わるだけです」スズキが言った。「『村が存続する』ことが希望なのではなく、『そこに暮らす人が幸せである』ことが希望なのだと。その結果、たとえ村から村民の息吹が消えても、紡がれた生活はデジタル上に刻まれ、永遠に語られ続けます」

 プレゼンを終えた後、カトウとスズキは桐谷と共に、省庁の屋上に出た。東京の夜景が広がっている。

「お祖母様のこと、お話しいただきありがとうございました」カトウが言った。「あの言葉がなければ、この物語は生まれなかった」

 桐谷は遠くを見つめながら答えた。

「祖母は、最期まで自分の家にいたかったんです。でも、私たちはそれを『無理だ』と決めつけた。施設に入れることが『最善』だと思い込んでいた。……本当にそうだったのか、今でもわかりません」

「過去は変えられません」スズキが静かに言った。「でも、未来は創れます。お祖母様と同じ思いを持つ人たちのために、この物語が何かのきっかけになれば」

 桐谷は小さくうなずいた。

「『最後の一人まで幸せに』——いい言葉ですね。政策提言に、使わせてください」

「もちろんです」

 三人は夜景を眺めながら、しばらく無言で立っていた。

 どこかで、未来が動き始めている。

 それは、人口が増える未来ではないかもしれない。村が存続する未来ではないかもしれない。

 でも、そこに暮らす人々が、最期まで尊厳を持って生きられる未来。

 それは、十分に希望と呼べるものだった。

 未来オムニプレゼンスは、今日もどこかから「未開拓の未来」を創る相談を受けている。

 もしあなたの周りに「消えゆくもの」があったなら、ぜひ思い出してほしい——未来は予測するものではなく、創るものだ。

 そして、「消えること」は、必ずしも「失敗」ではない。

 最後の一人が、幸せだったなら——それは、「成功」なのだから。

文/未来オムニプレゼンス
SFというフィクションを軸に、アイデアを試作(プロトタイピング)し、近未来を切り拓く創作活動を続けているSFプロトタイピングユニット。作品づくりからイベント企画、社会実験に至るまで、テクノロジー、芸術、ストーリーを総合的に活用。未来を創造する力で、新しい体験や視点を世の中へと提案していきます。

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