バレンタインデーは女性から男性へチョコレートを贈って愛を告白する日として広まった。メリーチョコレートが1958年、日本で最初にバレンタインデーのチョコレートフェアを開催した時は、板チョコ3枚と20円のメッセージカードの合計170円だった。それが今、バレンタインデーはイベントとして定着し、24年には1750億円市場にまで拡大している。
3枚の板チョコからスタートしたバレンタインデー。2026年のバレンタインはどうなっていくのか。“世界の優秀なショコラティエ100”に選出されたメリーチョコレートのトップショコラティエ大石茂之さんに、バレンタインの注目商品とチョコレートの今後を聞いてみた。
自分チョコはチョコレートを思い切り楽しむ日に
メリーチョコレートの2026年のキャッチコピーは「至福の偏愛没入バレンタイン」である。大石さんによると、消費者の意識として義務的な義理チョコ需要は少なくなっており、本命・家族・自分チョコ需要へと変化してきたと言う。
「自分の心が幸福感で満たされるものが求められています。バレンタインはハレの日のイベントです。普段の制約を忘れて思い切り楽しみたい、そんな人々の心に届くバレンタイン商品を、メリーチョコレートでも提案しています」(大石さん)
同社では26年のバレンタインデーには全国の取扱店約2万6000店で、約400種類のチョコレートを販売予定である。中でも注目の新商品として、大石さんは「Tabfill(タブフィル)」と「奏-KANADE-」を紹介してくれた。
2026年バレンタイン限定コレクション「Tabfill(タブフィル)」は“クレープのように丸かじりして背徳感と幸福感に満たされる”というコンセプトのチョコレートで、「タブレットチョコレート」+「fill(満たす)」=tabfill(タブフィル)という名前の通り、口いっぱいにほおばる背徳感と幸福感を提案している。まさに、自分へのご褒美にぴったりのチョコレートである。
厚みは11.5ミリと、かじったときに薄すぎず、厚すぎないサイズを選択した。「あまり厚いと、かじった時にストレスになってしまいますが、逆に薄いと食べた時の満足感が出ません。1ミリ単位で、何回も調整した結果、このサイズになりました」(開発担当の小野塚綾香さん)。
小野塚さんによると、タブフィルのピスタチオ味は、ベージュの色味で、普通のピスタチオの緑色ではない。「ローストしたピスタチオを贅沢に使ったので、茶色の色合いとなっています。口に入れるとピスタチオ本来の味や香りが感じられます」。
6種類の味が区別できるよう、パッケージもわかりやすく見えることと、まるかじりの贅沢感やわくわくした気持ちをデザインしており、パッケージは本のようにめくると表紙がついている。「チョコレートに行き着くまでに、楽しめるように工夫しました」(デザイン担当の安村真澄さん)
チョコレートも世界的な抹茶ブームを反映
大石さんは2000年にサロン・デュ・ショコラ・パリに参加し、14年にはチョコレートの格付けで最高位の金賞獲得に貢献した。和の食材や和菓子のモチーフをチョコレートに取り入れた繊細な味わいと精巧な技術が高く評価された。
その後2016年にはチョコレート品評会に「みたらし」と抹茶を合わせ、野点(のだて)をイメージしたボンボンを創作しチョコレートの格付けでゴールドタブレットを獲得、C.C.C.アワード(注1)を受賞。また、サロン・デュ・ショコラ・パリにて2019年に「世界の優秀なショコラティエ100」として表彰された。
そんな大石さんが、国産素材の銘柄・産地ひとつひとつにこだわって作り上げたブランドが「奏-KANADE-」である。日本の味を提案したチョコレートで、1)日本の酒、2)日本茶、抹茶、ほうじ茶、玄米茶などのお茶、3)国産イチゴをトリュフやタブレットとして販売する。
特に日本茶シリーズでは「茶師十段」の大山拓朗さんが奏のために合組(ブレンド)したお茶を使用した。「私が最初に海外で抹茶のチョコレートを紹介した時は、緑色のピスタチオだと思って食べた人が、苦いと吐き出してしまったこともありました。それが今、お茶の美味しさを理解される人が増え、抹茶味が世界中から求められるようになっています」(大石さん)。
大石さん自身は国産の素材を積極的に取り入れ、梅干し味のチョコレートまで開発したこともある。もちろん味にもこだわり、今回、「奏」の「日本茶トリュフ極・和紅茶」には国産のみりんを原料に使用した。
世界が注目する日本のチョコレート
「お茶の味についても、真剣に検討し合いました。お茶のプロフェッショナルの方々は、お茶の味はうま味が第一だと言います。確かに美味しい緑茶にはノリや出汁のような、独特のうま味があります。でも、チョコレートにするためには、うま味だけでなく、苦みも必要でした。一週間に3回以上もサンプルを持って通ったこともあります」と大石さん。一流の職人同士の熱い戦いの末に実現したのが「奏-KANADE-」だった。
「今回バレンタイン用に提案していますが、抹茶ブームは世界的に広がっています。チョコレートでもこの傾向は今後も続くと考えられます。私どもでは幸い、仕入れに関しては問題なく進められましたが、抹茶需要はかなりひっ迫してくるのではないでしょうか」と、抹茶味ブームには懸念もある。
さらに、世界的なカカオショックも深刻で、ここ2年でカカオの価格は5倍以上も跳ね上がった。メリーチョコレートでも一部商品は値上げに踏み切った。
カカオ不足に対して大石さんは「何が何でもココアバターを絶対に使わなければいけない、ではないと、私は思います」とかなり柔軟に考えている。
「植物油脂に近づけて、よりチョコレートのビター感を出している代替品も増えているようです。これに関して、私自身は悪いことではないと思います。ひまわりの種や、ゴボウでチョコレートっぽいものを作るのは、むしろおもしろい取り組みで、楽しそうだと思っていますよ」(大石さん)。
バレンタインを契機に、着実に進化を遂げつつあるチョコレート。大石さんは大阪・関西万博のトークセッションで「未来もチョコレートで人と人との心をつなぎたい」と語り(注2)、会場では徳島県産のすだち果汁を使ったチョコレートと、愛知県産の朝摘み食用バラを使ったチョコレートが配られた。2026年のバレンタインをきっかけに、日本の食材とチョコレートのマッチングが定着しそう。
最後に、2026年バレンタインの購入動向に関して、大石さんは「チョコレート好きな方が、バレンタインフェア開催が始まってすぐに購入し、それが美味しいと感じられたら、期間中に繰り返し購入していただけるようです。2026年もそうした愛好者の方が増えていくと考えています」と言う。美味しいチョコレートは限定品で、販売数も限られるので、まずはスタートダッシュを逃さず、バレンタイン期間をたっぷり楽しもう。
注1C.C.C
「セーセーセー」と呼ばれる、フランスのショコラ愛好家の団体。正式名称は「Club des Croqueurs de Chocolat(クラブ・デ・クロクール・ドゥ・ショコラ)」。世界的に権威のある団体で、定員数は最大150人と決まっており、入会は難しい。
注2セッション
https://youtu.be/VxlVDaxverc?si=BdKzhWBHBuE5Db3c
文/柿川鮎子







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