構造改革や希望退職の増加、そして企業の即戦力志向を背景に、ミドルシニアの転職市場が大きな転換点を迎えている。では、2026年の転職市場はどのように展開していくのだろうか。
パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda(デューダ)」は、本レポートは、ミドルシニア転職市場スペシャリストである石井 宏司氏が、転職サービス「doda」のデータや実態をもとに、2026年のミドルシニア※1の転職市場予測をまとめた「2026年 ミドルシニアの転職市場予測レポート」を発表したので、詳細をお伝えしよう。
※1 本調査レポートでは、45歳~60歳の人材を「ミドルシニア」と定義している。
全体感:2026年は、ミドルシニアの労働流動化がさらに加速。転職者数は過去最多水準になると予測
「2025年 ミドルシニアの転職市場予測レポート」では、主に役職定年や定年を目前にした50代が本格的に転職に動き出す「ミドルシニア元年」になると予測。
現に、ミドルシニアの転職市場は活況な状況がつづいている。2025年上期時点で、転職サービス「doda」に新規登録したミドルシニアは2019年同期比の164%に増加、登録者数は2020年上期以降5年連続増加していた(図1)。
また、転職決定者数においては2019年同期比で約2倍に拡大、2020年上期以降5年連続で増加している(図2)。
一方、2025年8月に「doda」が行った調査結果をまとめた「企業のミドルシニア層の採用に関する調査レポート(採用実態・人事制度編)」からは、対象企業の4割以上が「2025年度に40代後半以上の人材の採用が増える見込み」と回答。
今後も採用に前向きであることや、「即戦力人材への期待感」「若手人材の採用難」などの背景からミドルシニア人材の採用ニーズが高まっていることが分かった。
2026年は大手企業の構造改革や中小企業の合併・淘汰をきっかけに、転職市場はさらに活発になり、転職市場に流入するミドルシニアも一段と増加する見込みだ。
また、専門職や技術職・管理部門の人材を中心に、各領域で採用ニーズが高まることで、マッチングの増加が予想される。
さらに、総務省「労働力調査」の過去10年間の推移をみても、ミドルシニア層の転職者数は増加傾向にあること、40代後半以降の女性や60歳以上の男性を中心に労働力率は高まる傾向にあることがわかる※2。
これらを踏まえると、2026年はミドルシニアの転職決定者数は過去最多を更新し、労働移動もより一層活発になると予測される。
個人の転職動向予測:2026年は大手企業の構造改革や中小企業の合併などをきっかけに、より多くのミドルシニア人材が転職市場へ
昨今の株主重視経営の影響で、2026年は大企業を中心に構造改革が進む見込みだ。これにより「事業再編」「注力事業の見直し」「世代交代」などを行って成長基盤を固める「黒字スリム化」が一層進展すると考えられる。
具体的には、希望退職を募る企業が増えることで、労働人口の多くを占めるミドルシニア人材が転職市場へ流入する可能性が高まりそうだ。
一方、中小企業では、成長を続ける企業と、業績悪化や後継者問題に直面する企業の二極化が進むと考えられる。その結果、企業規模の縮小や倒産が増え、将来的に長くはたらける環境を求めて転職を検討するミドルシニアも増えると予想される。
また、実際に転職支援の現場でも、役職定年や定年に近づいたことで自身のキャリアを振り返り、「生涯年収を考慮して75歳まではたらける企業に行きたい」「自身のスキルを活かせる領域に行きたい」「ワークライフバランスを見直したい」といった転職理由を挙げる個人が増加していた。
これらの傾向から、2026年は転職市場において、ミドルシニアの存在感がより高まると予測される(図3)。
企業の採用動向予測:専門職や技術職・管理部門のベテラン人材を中心に、各領域で採用ニーズが強まる見込み
「35歳転職限界説」はもはや過去のものとなり、2025年時点でスキルや経験が豊富なミドルシニアの採用ニーズが高まっている。
2026年も複数の領域で採用ニーズが高まることが予想されるが、その中から企業タイプと求められる人材の組み合わせを、5つ抜粋して紹介しよう(図4)。
1. 大手企業 × 情報セキュリティ人材、コンプライアンス人材
構造改革を進める大手企業では、グループ全体のガバナンス強化が急務となっている。株主重視経営の加速やコンプライアンスの強化により、経営の透明性とリスク管理が求められる中、情報セキュリティやコンプライアンス領域で豊富な経験を持つ専門管理職の採用ニーズが高まる見込みだ。
こうしたポジションは、業務経験が少ない若手人材では対応が難しく、大手企業で長年培った知見を持つミドルシニアが即戦力として期待されるだろう。
2. アウトソーシング・派遣領域 × 製造ラインのベテラン人材
国内製造回帰による需要増加や開発年数短縮化の流れもあり、製造業における技術者派遣のニーズは高水準を維持している。
現に「技術系アウトソーシング(特定技術者派遣)」に該当する求人数は2025年11月時点で前年同期比の約118%に増加している。
そのため、製造ライン経験を持つベテラン人材が、アウトソーシングや派遣企業で即戦力として採用されるケースが増加しているようだ。
なお、AIやロボットによる製造ラインの完全自動化はまだ実現に時間がかかることから、今後もこの採用ニーズは続くとみている。
3. 防衛・エネルギー・データセンターなどの政府の重点支援領域 × エキスパート人材
防衛産業、電池・エネルギー、データセンターなど、政府の重点支援領域においても、ミドルシニアの採用ニーズの高まりが予想される。
防衛産業では元製造業のエンジニア、電池・エネルギー領域においては化学や電気の豊富な知識や経験を持った人材に採用ニーズが集まるだろう。
また、サーバーによる熱の冷却が欠かせないデータセンターでは、配管設計や冷却技術などに関するプラント経験者の知見が重宝される。
こうした技術力が必要かつ、地方拠点で若手人材の確保が難しい企業も多いことから、ミドルシニアのエキスパート人材の採用ニーズが高まると考えられる。
4. 成長フェーズの中小企業 × 財務・経営企画・人事・営業のベテラン人材
将来的な事業成長を目指す中小企業では、ワンマン経営からの脱却が不可欠。2025年は、政府が主導する「100億宣言」プロジェクトが発足※3。
12月時点で2,000以上の企業が参画しており、2026年は助成金を活用しながら成長を目指す中小企業がさらに増える見込みだ。
これに伴い、財務・経営企画・人事などの職種で、社長の参謀となるベテラン人材が求められると予想される。
また、大手企業とのBtoB取引開拓を狙う企業では、コネクションの課題を抱えていることから、元大手出身の営業担当者の市場価値は高く、今後も採用ニーズが続くとみている。
5. 地方の中小製造業・外食・小売・ホテル業 × 管理職人材
地方の中小製造業、飲食店、ホームセンターやスーパーマーケットといった小売、ホテル業などは、M&Aが加速すると予想される。
M&A後には、例えば工場長や店長、ホテル長といった、本部と連携しながら現場をまわしていく上位管理職の採用ニーズが高まるだろう。
上位管理職を社内ですぐに育成することは難しく、外部から経験者を採用する企業が徐々に増えていることから、2026年もこの傾向が続くと見込んでいる。
関連情報
https://doda.jp/
構成/Ara







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