アーティストが全国ツアーで各地を回ると、MCなどでご当地ネタをいれてくるのはよくあること。でもそれがワールドツアーだとどんな感じなのでしょうか?

HYDE、ソロ初のヨーロッパツアーでオランダへ
2025年11月20日(木)、オランダのユトレヒト市で開催されたHYDE [INSIDE] LIVE 2025 WORLD TOURに参戦してきました。(実は10代の頃にがっつりL’Arc~en~Cielにハマった私。
日本文化ファンも多いフランスやドイツならまだしも、まさか今住んでるオランダにかつての推しがやってくるなんて・・・(と光の速さでチケット購入。)
本ツアーでのヨーロッパ開催国はフランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン。HYDEのソロとしては初のヨーロッパツアーでした。

ユトレヒト中央駅前のライブハウスに入場すると、会場は日本人ばかりかと思いきや、ぱっと見4割ほど。男女比は4:6くらいで思っていたよりも男性客も多いんだなという印象でした。
物販コーナーには多くの人が集まり、現地のファンも購入したツアーTシャツをさっそく着たり、ゴスロリ風の衣装できめてる女の子がいたりと気合入ってます。そして時間通りに始まったオールスタンディングのライブはスタートから会場も大歓声の渦。
そして出ました!HYDEの口から「ナインチェー!」の声が!
オランダで人気のナインチェとは?
読者の皆さんには「何のこと?」と思われるでしょう。実はこの「ナインチェ」、日本でも大人気のキャラクター「ミッフィーちゃん」のことなんです!
ミッフィーの作者、ディック・ブルーナ氏はここユトレヒト生まれのユトレヒト育ち。この地にアトリエを構え、30年間にわたり創作活動を行っていました。つまり、ミッフィーの生まれ故郷なんです。そしてオランダ語で「こうさぎ」を意味する「ナインチェ」というのが元々のキャラクター名でした。
これが他国では発音しづらかったりしたため、海外展開する際に「ミッフィー」という新しい名前が付けられたそうです。でもオランダ国内では今でも「ナインチェ」と呼ばれ、親しまれています。
市の中央博物館には彼のアトリエを移築して貴重な資料を展示したコーナーがあったり、2023年にリニューアルしたナインチェミュージアムもあったりと、ユトレヒトはまさに「ミッフィーちゃんの街」。
そして公演前のHYDEの公式Instagramをチェックしてみると、市内にあるミッフィー信号機やミッフィーのモニュメントを訪れた様子のストーリーズ投稿がありました。しかも#nintjeのハッシュタグつきで。こうなるとナインチェを知らない日本のファンにも「ナインチェ=ミッフィーちゃん」だとあらかじめ伝わっています。
ということで、ご当地ネタで「ナインチェ」くるか?と身構えてた日本人ファンも、オランダ在住の現地ファンも、HYDEの一声に大歓声で応えたのでした。

しかしまさかのナインチェも、生まれ故郷のライブハウスで、いまやオランダ本国よりもキャラクター人気の高い日本からきたアーティストに名前を呼ばれるとは・・・。
オランダは日本ほどキャラクターコンテンツが充実しておらず、ミッフィーグッズも以前はベビー用品で見かける程度でした。近年は大手雑貨チェーン店のHEMAが大人も楽しめるグッズ展開を始め、少しずつ増えてきているところなんです。
その後もHYDEは観客を何度も「ナインチェーー!!」と煽りまくり。こうさぎちゃん煽りを受けるなんて最高じゃないですか?会場もそのたびに呼応して絶叫の嵐。
やはりミッフィーではなく、地元で愛されている名称のナインチェを使ってくれているのも地元民大喜びポイントのようです。
現地ファンも喜ぶご当地文化リスペクト
ファンが喜ぶご当地ネタはそれだけではありません。アンコールではサポートメンバーによるオランダ国歌の演奏がありました。
この国歌の演奏はツアー中の他の国でもされていたようで、開催地へのリスペクトがひしひしと。会場を見渡すと、胸に手を当てて国歌を歌っている大柄のオランダ人男性ファンの姿が目に入りました。
そしてHYDE本人が観客席後方のバーカウンターに登場した際には、客からビールを奢ってもらって飲みながら歌う場面も。これにも会場中大喜び。
実はオランダもお隣のベルギーやドイツと負けず劣らずのビール大国。おいしい地ビールがたくさんあるほか、日本でも有名なハイネケンの原産国です。
この時の銘柄までは確認できませんでしたが「楽しい場面で一緒にビールを飲む」というのは、仲間の証みたいなもの。観客も一緒にビールを掲げて楽しみ、一体感に酔いしれていました。
そしていよいよライブのラスト曲の終盤、ふいに観客席からステージに投げ入れられたものが。本人も驚きながらそれを手に取ってみると、なんとミッフィーの小さいぬいぐるみキーホルダーでした!
「ナインチェちゃーん」と嬉しそうに観客に呼びかけ、続けて同じく観客席から贈られた寄せ書き入りのオランダ国旗を広げ、ミッフィーとともにポーズ。「Dank je wel!(オランダ語:ありがとう)」と客席に感謝を2度伝えていました。

今回のライブで印象に残った光景がもうひとつ。それは日本から遠征してきている古参ファンらしき方々の姿です。
ライブ中盤でHYDEが客席を2つに分けるような仕草をしました。でもそれが現地ファンにはいまいち伝わりきっていなかった様子だったんです。これはウォール・オブ・デス(WOD)と呼ばれる、観客が左右向かい合わせに分かれ、合図と共に中央に走り寄り体を打ち付けあう観客パフォーマンスの合図。
そこに古参ファンのみなさんがスタッフのようにササっと現れてフロアを分け、観客をガード。そこにHYDE本人がステージから降りてきてファンの間近で歌い、合図とともにHYDEもろともWODに!
今回のツアーに複数カ所参加している方に後から聞いた話だと、本人がフロアに降りてWODの中に立つのは今回が初めてだったそう。完全にもみくちゃにされながらそして観客に背中を押されながらステージに戻っていったのですが、それくらい会場全体の一体感が強いライブパフォーマンスでした。
筆者はオランダに住んで9年ですが、現地の文化に根差したパフォーマンスがあるとやっぱり嬉しい!地元ファンにとってはもちろんのこと、日本からワールドツアーに参加しているファンにとっても各地での異なる様子を楽しむことができると感じました。次にヨーロッパツアーがあったら、私も各国会場をはしごしたい!!
文/福成海央
オランダ在住、ミュージアム好きの科学コミュニケーター。気になったらとりあえずなんでも調べるし、なんでも書く。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員







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