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トイレットペーパーの買い占め現象はなぜ起きた?あなたから理性を奪う「後悔したくない」気持ち

2026.02.26

「行列ができている店に入りたい」「口コミが良い商品を選びたい」――そんな気持ち、ありませんか?実はそれ、あなたの〝損したくない心理〟が働いている証拠かもしれません。

賢く節約しているつもりが、気づけば浪費につながることも……。その裏には、行動経済学が深く関わっています。

本記事では、行動経済学コンサルタントの橋本之克さんの著書『100円のコーヒーが1000円で売れる理由、説明できますか?』から一部を再編集し、企業が仕掛ける心理トリックと、それを見抜くためのヒントを紹介します。あなたの「無意識の選択」を変え、より良い人生を歩むための第一歩になるかもしれません。

繰り返されたトイレットペーパーの買いだめ騒ぎ

 さかのぼれば約半世紀前にも、人々が狂ったようにトイレットペーパーを探しまくる現象が、日本中で起こりました。1973年のオイルショック時です。イスラエルとアラブ諸国とのあいだで第4次中東戦争が勃発し、中東の産油国が原油価格を70%引き上げたことが始まりです。

 当時の中曽根康弘・通商産業大臣が紙の節約を呼びかけると、人々は過剰な不安を感じ、トイレットペーパーを買おうと店頭に殺到しました。

 時が過ぎて2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行が始まるとともに、オーストラリアやアメリカなど世界各地で、トイレットペーパーの買いだめ騒ぎが起きました。

 伝染を抑えるために外出規制がおこなわれたことも、騒ぎに拍車をかけました。買い物に出られない事態を想定して、日用品に関しては、ある程度の備蓄が推奨されたのです。

 しかしながら、必要以上に買いだめをする人が多かったため、再びトイレットペーパー騒動が起きてしまいました。

 さらに日本では、「(新型コロナウイルス感染症流行の発端とされた)中国がトイレットペーパーの製造・輸入元であるため、今後これらが不足する」というデマが流れました。

 時を同じくして、テレビ、新聞、ネットなどでは、トイレットペーパー不足のニュースが盛んに報道されました。

 パッケージ状態のトイレットペーパーは、店頭で広い面積を占めています。したがって、トイレットペーパーが消えてガランとした店の棚の状態は、人々を不安にさせるインパクトがありました。

 実際には、トイレットペーパー不足が生活に深刻な影響を及ぼすことはありませんでした。しかし、なぜこのような大きな騒ぎが起きたのでしょう。

人が単純な誘惑に負けるのはどんなとき?

 世界中の人々が買いだめに走った理由の一つは、「脳内疲労」によって正常な思考ができなかったことだと考えられます。

 人の脳は、無限に難しい思考を続けられるわけではありません。その結果何が起きるか検証する実験を、米国スタンフォード大学のババ・シーブとインディアナ大学のサーシャ・フェドリキンがおこなっています。

 2組のグループに一定時間、それぞれ2ケタと7ケタの数字を記憶してもらいました。

 数字を忘れないように、頭の中で反芻している途中で、彼らに欲しい食べ物を選んでもらいます。すると、複雑な7ケタの数字を暗記中の人は衝動的に甘くて美味しそうなチョコレートケーキを選び、簡単な2ケタの数字の人は健康的なフルーツを選んだのです。

 この結果から、シーブたちは、人は脳の中で深い思考に用いられる部分が何かに占有されていると、単純な誘惑に負けやすくなることを証明しました。

 つまり、人は、重大なことに頭を悩まされている最中には、深く考えずに本能にしたがった行動をしてしまいがちなのです。

 過去にトイレットペーパーが不足したときの社会的な環境を振り返ると、戦争や資源不足、伝染病の危機に瀕しているなど、消費者の頭の中が将来への不安で占有されていたといえるでしょう。理性的な判断がしにくい状況だったわけです。

「やればよかった」と「やらなきゃよかった」を避けたい心理

 トイレットペーパー不足に直面した人々が理性的な判断が難しかったとしても、なぜ買いだめをするという行動に走ったのでしょう。そこには、もう一つ心理的なバイアスが働いています。行動経済学における「後悔の回避」の影響です。

 後悔は「違う判断をしていればよかったのではないか?」と後から想像し、2つの判断を比較して感じるネガティブな感情です。人は意思決定の場面で将来における結果を予測し、後悔による不快な状態を避けるような行動を選ぶのです。

 第2章で人間心理におけるバイアスとして「損失回避」を紹介しました。人は無意識に、得をするよりも損をすることを避けようとするというものです。そのために、結果的に不合理な判断をしてしまうことがあります。

 じつは「後悔」している状況は「損失」状態と近いものです。実際に損失が起きる前に、損失を予測しただけで、これを回避しようとする心理が働くのです。

 後悔の回避のパターンとして、失敗を避けるために、新たな行動をしないというものがあります。一方で、後悔を避けるために、あえて行動を起こすケースもあります。

 前者の例として、自分のお金で投資商品を買うかどうかの選択があります。投資した株や投資信託が値下がりして損する可能性を考え、後悔を避けるために投資しないことを選ぶのです。

 投資をしないという現状を維持しても、得もない代わりに大きな損もない場合にはこの選択は魅力です。いつもと違う行動をすることは不安なものです。投資に慣れていない人であれば、余計に現状を維持したくなることでしょう。

 一方、後悔を避けるために行動を起こすケースもあります。とくに現状を維持しても損を避けられるかわからない状況です。

 たとえば、廃盤になった大好きなアーティストのCDが、オークションに出品されていたとします。放っておけば、誰かに買われてしまう……そうなったときの後悔を想像して、高額であっても競り落とすのです。

 この場合、CDの値段が極端に高いと、買った後に複雑な心境になります。高額のお金を失う損失が心にダメージを与えるためです。しかしながら、買ったCDは手元に残ります。

 損失回避によって起きる心理の一つに、「保有効果」があります。自分の手元にあるものに対しては実際より高い価値を感じるという効果ですが、購入したときには高すぎると思えたCDも、手元に届いておくことで保有効果が働き、実際以上に価値があるものに思えてきます。結果的に、競り落としたときに感じた後悔は、薄らいでいくのです。

 逆に、高い値段に腰が引けて競り落とさなかった場合、買わなかった後悔が薄らぐことはありません。次に入手できる機会が来るまで、大好きだったアーティストのCDが二度と手に入らないかもしれない、と考え続けることになります。

 このように、行動した結果の「やらなきゃよかった」という後悔以上に、行動しなかった結果の「やればよかった」という後悔のほうが大きいケースもあるのです。

「脳内疲労」が不安を暴走させる

 ここまで解説したように、トイレットペーパー買いだめ騒ぎの裏では、多くの人々の頭の中に「脳内疲労」が蓄積していた可能性があります。

 さらに、トイレットペーパーを手に入れられなかった場合に感じるだろう後悔を避けようと、各自が衝動的に買いに走ったと考えてよいでしょう。

 しかし、よく考えると、トイレットペーパー不足は、それほどまでに慌てる必要があるものだったのでしょうか。

 人がトイレに行く回数は、ほぼ決まっています。戦争が起きようと伝染病が広まろうと、回数が2倍、3倍になることはなく、家庭で消費される量は大きく変わりません。トイレットペーパーが足りなくなることを、過剰に心配すべきではないのです。

 したがって、この「買いだめ」行為は、典型的な「ダメな買い物」です。買いためた結果、家庭内にはトイレットペーパーがあふれてしまいます。

 また、品薄の状況では、通常より高額で買わなければならないでしょう。これらの理由だけでも「ダメな買い物」と呼ぶには十分です。

 しかも「買いだめ」は、さらに重大な問題を引き起こします。それは「転売ヤー」のような、不当に儲ける売り手を生み出すことです。

 新型コロナウイルス感染症の影響を受けた当初、マスクや日用品など、さまざまな商品が不足しました。これらが不当に売買されないよう、いろいろな措置が取られました。日本でも、衛生マスクや消毒等用アルコールの転売が禁止されました。

 また、便乗値上げを禁じる国もありました。しかしながら、不正を正す機能は十分に働いたとはいえません。混乱に乗じて摘発を逃れたケースも多かったことでしょう。その結果、人々の不安につけこんだ人が、不当な利益を手に入れたわけです。

 モノの売り買いにとどまらず、こういった「自分だけが儲かればいい」という利己的な行動は、許されるべきではありません。

 買い手が買いだめに走る裏側には、複雑な心理があるわけですが、だからといって、買いだめはやむを得ない、ということはできません。これは、卑怯な商売をする人に加担する行為であるという一面も、覚えておくべきです。

他者を思う心が利己的行動の抑止力になる

 とはいえ、買えない不安を押し殺して買いだめを我慢することは、本当に可能なのでしょうか。

 株式会社NTTデータ経営研究所では、この疑問に答える実験をおこなっています。ドラッグストアの店頭に、トイレットペッパーが残り3個しかないという状況を仮定して、被験者は、自分ならばいくつ買うかを回答します。その際に複数の張り紙の中の一つを見て答える仕組みです。

 一つには「毎週2回入荷があること、普通の家族に必要なトイレットペーパー購入頻度(家族4人なら40日に1回など)」を示しました。しかし、この張り紙を見た人は、何も張り紙がないパターンよりも、たくさん買いだめしてしまうという結果となりました。ほかに「購入は1人1個」と制限するものもありましたが、さほど効果はありません。

 張り紙の中で、買いだめを止める効果があったものは、「必要量のみの購入を願い、買い占める人にならないよう求める」というものでした。買い占めるような人にならないで、というメッセージが利己的な行動を抑制したのです。

 ここには、人は他者のことを考えて行動することが可能だ、ということが示されています。誰もが利己的な行動を止めることは可能なはずなのです。

【ポイントまとめ】「他者視点」を持つことで衝動的行動を抑えられる

☆ ☆ ☆

いかがだったでしょうか?

「損したくない」と思う気持ちが、無意識に「誘導された選択」を取ってしまう心理トリックにつながっているかもしれません。

行列や口コミに惹かれるのも、企業が仕掛ける〝行動経済学の罠〟の一部かも?知らないままでは、賢いはずの節約が浪費に変わってしまいます。

自分の思考のクセを知り、仕掛けを見抜く力を身につけるためのヒントが詰まった一冊をぜひ書店やオンラインでチェックしてみてください!

『100円のコーヒーが1000円で売れる理由、説明できますか?』
橋本之克 著
アスコム刊
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著者/橋本之克
行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディング ディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。
昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、戸板女子短期大学非常勤講師、文教大学非常勤講師を兼任。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)、『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)、『ミクロ・マクロの前に 今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)などの著書や、関連する講演・執筆も多数。

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