自分主導で選択肢を作る
では、買い手は、判断を誘導されないためにどうすればいいでしょう。こうしたトラップにひっかからないためには、何が必要なのでしょうか。
最も望ましいのは、比較に頼らずに、自分が求める商品の「絶対的な価値」を見極めて選ぶことです。とはいえ、さまざまな商品の特徴と自分が真に求めるニーズを、すべて明らかにして購入することは、なかなか難しいでしょう。
現実的な方法として考えられるのは、選択肢の作成から選択まで、自分主導でおこなうことです。何かを買おうとするとき、売り手から与えられた選択肢から選ぶのではなく、「自分のための選択肢」を自分で作るのです。
たとえば、希望する商品の候補を、複数の店舗から選んで集めます。そうすれば売り手の狙い通りではなく、買い手の判断で選択できます。
この方法が容易にできるのは、ネットショッピングを使うケースです。ショップ内での検索や、検索エンジンを使うことにより、簡単に選択肢を作れます。
売り手の提案に惑わされないために
先に紹介した「カメラ購入」の実験は1992年におこなわれたのですが、同様の実験が2012年にもおこなわれています。
1992年の実験で、エイモス・トベルスキーと共同で実験をおこなった経済学者のイタマール・サイモンソンが、ネットショッピングを用いて同じ実験をおこなったのです。
まず、現実のネットショップでの買い物のように、対象者にメーカーや商品ごとの機能や価格の違い、既存の購入者のレビューなどを読んでもらいます。次に、候補となるカメラを2台決め、選択してもらいます。そのうえで3台目に、先の2台より高級で高額なカメラを選択肢に加えました。
しかし、最初の実験のように「中間の選択肢」を選ぶ率は上がりませんでした。極端回避性が影響しなかったのです。これらの実験結果の違いは、1992年から2012年までのネット環境の変化によるものと考えられます。
ネットを用いて情報収集をおこなう場合は、心理的バイアスが減るケースがあるのです。
この結果から、買い物をするときに、ネットを活用して「自分のための選択肢」を作る方法は有効だといえるでしょう。購入候補となる選択肢の数は、バイアスを受けやすい3つにせず、複数の商品を選んで、グループを作るとよいかもしれません。
ちなみに、マーケティングにおいては、このグループを「エボークト・セット(Evoked Set)」と呼びます。購買行動の前に消費者が、購入検討の対象として頭の中に思い出す商品の組み合わせのことで、「ブランドの想起集合」とも呼ばれます。商品ジャンルによっても変わりますが、あまり多数ではなく3~5つ程度です。
買い手は、自分では意識していませんが、過去の購入経験などから頭の中に買ってもよいと思う候補(エボークト・セット)を作っています。昨今のマーケティング業界では、ネットで見つけた商品を、瞬間的な判断で買う購買行動も増えているため、直前にエボークト・セットになるという主張もあります。
しかしながら、初めから候補に入っている商品であれば、購入に至る確率は格段に高まります。したがって、売り手側にとっては、自らの商品を買い手のエボークト・セットの中に入れることは、今もなお重要課題なのです。
この項目でご紹介する「選択肢に惑わされない買い方」は、上記のエボークト・セットを、買い手が自ら意識的に作るようなものです。
過去の購入経験で受けた印象、周囲の評判やネットのレビュー、広告を見たときの感想など、さまざまな情報をもとに、購入候補のグループを作ってみましょう。数は多くても少なくても構いません。その中から購入する商品を選ぶのです。
大事なのは値段よりも「時間」と「労力」
最終的な選び方は、自分が好きな方法で構いません。
たとえば、候補を並べて「エイヤ!」と一つ選ぶ方法が簡単でいい、という人もいるかもしれません。逆に、複数の候補から「これはないな……」と、消去法で少しずつ消しながら、じっくりと最終候補を絞り込む方法が好きな人もいるでしょう。
候補グループ作りも、そこからの選択も、自分の都合や好み、その商品の購入に費やせる時間と労力をふまえて、自由に決めればいいと考えます。
ただ、一つだけ注意すべき点があります。情報収集に時間と労力をかけすぎないことです。
Webサイトを見始めると、止まらなくなることがあります。すると、すでに述べたように脳が疲労し、時間をかけた割に、有効な情報を集められないということもあります。
また、候補が多く集まりすぎた結果、自分で作った選択肢が多すぎて選べないということも起こり得ます。自ら「決定麻痺」を招いてしまうのです。
商品の比較をする際には、付帯機能や購入条件など、バリエーションの多さがネックになることがあります。無理に最安値を探そうとすると苦労するかもしれません。
あくまで、おおまかな機能の違いなどで品質を比べつつ、価格の傾向を見るのがいいかもしれません。その過程で、自分の中にその商品に関するある程度の「相場感」ができれば十分です。
それでも迷って最終的に決められない場合は、選択を先に延ばしたり、放棄したりしてもいいと思います。心理的バイアスを避けるために、また他人に誘導されないためにも、選択のプロセスやタイミングを自分で決めることは、非常に重要なのです。
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いかがだったでしょうか?
「損したくない」と思う気持ちが、無意識に「誘導された選択」を取ってしまう心理トリックにつながっているかもしれません。
行列や口コミに惹かれるのも、企業が仕掛ける〝行動経済学の罠〟の一部かも?知らないままでは、賢いはずの節約が浪費に変わってしまいます。
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行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディング ディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。
昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、戸板女子短期大学非常勤講師、文教大学非常勤講師を兼任。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)、『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)、『ミクロ・マクロの前に 今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)などの著書や、関連する講演・執筆も多数。







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