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行列も口コミも〝損をしたくない心理〟から生じるものだった!?行動経済学で見抜く買い物の罠

2026.01.16

「行列ができている店に入りたい」「口コミが良い商品を選びたい」――そんな気持ち、ありませんか?実はそれ、あなたの〝損したくない心理〟が働いている証拠かもしれません。

賢く節約しているつもりが、気づけば浪費につながることも……。その裏には、行動経済学が深く関わっています。

本記事では、行動経済学コンサルタントの橋本之克さんの著書『100円のコーヒーが1000円で売れる理由、説明できますか?』から一部を再編集し、企業が仕掛ける心理トリックと、それを見抜くためのヒントを紹介します。あなたの「無意識の選択」を変え、より良い人生を歩むための第一歩になるかもしれません。

「感応度逓減性」によって人は変化に慣れる

 人は、何にでも慣れるものです。

 ビールは1杯目が美味しいといわれます。汗をかくほど暑い一日を過ごした後のビールは、格別です。ただ、これも2杯目、3杯目と、お代わりを重ねるうちに、よほどのビール党でなければ、最初の美味しさを感じなくなるものです。

 金融商品においても、最初の体験がだんだんと薄れてしまうことがあります。たとえば、初めて投資をした後は、値上がりや値下がりが気になって仕方ありません。最初は数千円減っただけでも、惜しくて仕方なかったものが、慣れるにつれて多少の変動は気にならなくなったりします。

 カードローンでも同じです。初めて借りるときには罪悪感があったのに、何度も借り入れと返済を繰り返して慣れると、まるで自分の銀行口座からお金を下ろすかのように借りてしまう人もいます。

 このように、喜びや満足において、また悲しみや不満において、その量が増えるにつれて、変化の感覚が鈍る傾向を「感応度逓減性」と呼びます。

「損失回避」を説明する際に用いた「価値関数」のグラフを、あらためてもう一度見てみましょう(下の図)。まず、変化の基準となる中心の点を「参照点」と呼びます。ここから出発して、右へ行くほど得をし、左に行くほど損をすると考えます。

 すると、損得の結果生まれる不満や満足を表す線が直線ではなく、曲線でできていることがわかります。中心からの変化を追うと、最初は変化が激しいですが、中心から左右に遠ざかるほどに、だんだんゆるやかになっていきます。

 損や得が大きくなるほど傾きがなだらかに、つまり感じ方が鈍くなるのです。この曲線が、感応度逓減性を表しています。

 グラフ上で50万円の損得を想定し、これらによって生まれる不満や満足を見ていきます。

 参照点では損得もゼロ、不満や満足の感情もゼロです。

 まず右上の「得」を見ていきます。お金を持たない状態で50万円もらったときの満足は、ある程度大きいことがわかります。それと比べて50万円持っている状態で、さらに50万円もらったときの満足や喜びは、小さい範囲にとどまります。

 左下の「損」においても、損と不満の関係は同じです。同じ50万円の損得であっても、0円から50万円の変化か、50万円から100万円の変化かによって、心理への影響は変わるのです。

 もとの損得がゼロや小さいときは、小さな変化でも大きな心理変化をもたらします。

 しかし、損得が大きくなると、不満や満足の変化も小さくなります。これは感応度逓減性によって、変化の感覚が鈍った結果です。

 日常的な例で考えてみましょう。スーパーでの買い物の場面です。

 普段は2000円の黒毛和牛の牛肉が、1000円で売られていたとします。1000円得するためならば、若干遠い店であっても出向く人はいるでしょう。あるいは、売り切れないように早めに出かける人もいるかもしれません。

 これが車を買う場合なら、どうでしょう。通常300万円の自動車が、299万9000円で売られていたとして、わざわざこれを買うための努力をするでしょうか。金額が大きくなった状態での1000円の損得が心理に与える影響は、ごくわずかです。1000円しか違わないなら、どこで買っても構わないと思う人は多いことでしょう。

 それが牛肉であれ車であれ、1000円の損得が財布に与える影響は同じはずなのに。

出費の痛みは支払い回数で変わる?

 感応度逓減性は、お金の使い方にさまざまな影響を与えます。

 交通違反の罰金を例に考えてみましょう。仮に、続けて2回違反をしたとします。最初の違反で4万円の反則金を支払いました。その直後に再び違反をして2万円払います。このように2回にわたってお金を払い、損をすることで心は痛みます。

 このとき、もし一括で6万円支払った場合はどうでしょう。価値関数で見ると、2回にわたり別々に払う場合は、その都度、気持ちは参照点に戻ります。

 つまり、ゼロから4万円損する痛みがあり、その後に再度、ゼロから2万円損する痛みがあるわけです。2回の痛みが繰り返され、重なります。

 これら2回分の痛みの合計は、一度に6万円を支払ったときの痛みを上回ります。価値関数のグラフで表されるように、一度に失う金額が大きくなるほど、左下に向かう曲線の傾き(損した金額に伴う不満の増し方)がゆるやかになるためです。損失の場合は、何度かに分けるよりも、まとめて一度に損したほうが痛みは小さく収まります。

 この心理は、買い物にも影響します。

 複数の商品を何回かに分けて買って、その都度支払うよりも、複数の商品を一気に買って代金をまとめて払うほうが、お金を支払う、つまり損をするときの痛みが小さいことになります。

 支払額が大きいのに痛みが小さければ、お金を気軽に支払ってしまうことになりかねません。つまり「まとめ払い」は、損をしやすい心理状態につながるのです。

 たとえば、300万円の自動車を買う場合を想定しましょう。純正のカーステレオはついているけれど、10万円追加で支払えば、新型で音のいいカーステレオをつけられるとします。この場合、すでに300万円のお金が失われる損は確定しているため、300万円の支払いが310万円の支払いに変わるだけと理解されます。300万円の痛みが大きいため、追加の10万円の痛みはさほど大きいものではありません。

 もし、カーステレオを取りつけるのが、新たに買う車ではなく、すでに所有している車だったらどうでしょう。音をよくするためとはいえ、いきなり10万円を失う痛みは小さくはありません。多くの人は、よく考えてから購入を決めることでしょう。

 このように、同じ10万円の出費であっても、まとめ払いによる感応度逓減性の影響を受けると、財布のひもがゆるくなるのです。

「お得感」を細かく買わせるテレビ通販の心理テク

 この心理を、逆手に取る売り手もいます。テレビの通販番組です。

 たとえば、通常価格が5万円の掃除機を売っていたとしましょう。初めは吸引力や静音性など、商品の高い機能を声高に説明します。そのうえで、まず「通常5万円を4万4000円で!」というように値下げ額を示します。

 しかし、商品の売り込みはここで終わりません。続けて、「今なら、この掃除機に2500円の交換用バッテリーを無料でおつけします!」といったアピールをします。

 さらに「本日限り、なんとゴミ用カートリッジ、1500円分もつけます!」などと、畳みかけるようにおまけをサービスするのです。視聴者は、さらなる得があると聞いて買いたくなります。

 このような売り方を、あらためて考えてみましょう。

 仮に、掃除機本体とバッテリー、カートリッジをすべて買ったとして、5万4000円が4万4000円になることによる「1万円の得」があります。

 しかし、通販番組での、何回かに分けた「得する感」のアピールへの反応は「1万円分の得による満足や喜び」に留まりません。最初の値下げによる6000円の得、バッテリー無料による2500円の得、カートリッジ無料による1500円の得というアピールにおいて、その都度「参照点がリセット」されているのです。

 つまり「これだけ得するのか」と思った後に、あらためて「さらに、これだけの得がある」ことを知るのです。それが繰り返され、得する満足への期待感が重なった結果、単なる1万円割引の期待感を上回ることになります。

 これは「まとめ払い」によって、損に伴う痛みが弱まる場合とは逆の現象です。「細かく分けた得が、一度の得を上回る満足を与える」のです。

 これらは、人の判断に対して心理的バイアスを与え、判断を狂わせます。値段や費用を正しく見極められなくなり、ムダな買い物をしてしまうのです。

生き延びるための本能が現代では不合理に

 感応度逓減性による「度合いが高まる刺激や、働きかけを受けた場合に生まれる慣れ」に関して、心理学においても、行動経済学と似た角度から分析がおこなわれています。

「馴化」という現象をご存じでしょうか。簡単にいうと脳における反応の低下です。

 典型的な例は、花火の音への反応です。1発目の大きな打ち上げ音に驚いたのに、何発も続くうちに気にならなくなります。電車の揺れ、雷の音などへの慣れも同じです。最初に感じた危険に対して、危険ではなく反応する必要もないことがわかると徐々に反応しなくなるのです。

 これは、人間が進化する過程で獲得した、一種の能力だとも考えられます。太古の人間は、新しい物事に対して初めは注意を向け、それが自分にとって有益か、あるいは安全を脅かす脅威かを見極めました。これが外敵を避けるために、また新たな食べ物や飲み物の発見などにおいて役立ったのです。生き抜くために必要な性質だったわけです。

 しかし、同じ刺激に対して、繰り返し同じ反応をしていては、物事に素早く反応することができなくなります。注意が不要だとわかれば反応を低下させる、すなわち慣れていくことが必要だったのです。

 馴化も感応度逓減性も、どちらも無意識に起きる反応や行動です。これらは一種の、人の本能といっていいでしょう。

 つまり、感応度逓減性による買い物時の感覚のズレは、簡単には修正できないことがわかるでしょう。大昔には、生き延びるために必要な行動だったからです。

 それが現代では生活には合わない、あるいは不合理な行動になっています。したがって、ズレを直すためには、無意識に起きる本能的な反応を制御しなければならないのです。それは容易ではなく、簡単で抜本的な対策はありません。

 しかし、最初におこなうべき行動は明白です。まずは、行動のメカニズムを知ることです。

 本能は、いわば自分でも意識していない「自分を動かすプログラム」です。はるか先祖の時代から自分の脳内にプログラムされ続けてきた、行動のパターンやクセを認識し、理解するのです。そのうえで、必要に応じて自分自身でプログラムを書き換えなくてはなりません。

 買い物の場合は、損や得を、まとめるべきか分割すべきか、状況に合わせて判断するべきでしょう。自分の目の前に提示された状態を、何も考えずに受け入れてしまうのは危険です。

 ここで紹介した感応度逓減性も含めて、行動経済学を通じて得られる重要な知恵の一つは、「人の本能に対して、自覚的に対処することが必要だ」ということです。

 人の不合理さを正すのが難しいのは、その多くが、はるか昔から身についた本能から生まれているからです。しかし、原因や理由を知れば、対処法はあるはずです。まずは自分の不合理さに気づき、その仕組みを知ることから始めましょう。

【ポイントまとめ】「まとめ買い」は必ずしも得ではない

☆ ☆ ☆

いかがだったでしょうか?

「損したくない」と思う気持ちが、無意識に「誘導された選択」を取ってしまう心理トリックにつながっているかもしれません。

行列や口コミに惹かれるのも、企業が仕掛ける〝行動経済学の罠〟の一部かも?知らないままでは、賢いはずの節約が浪費に変わってしまいます。

自分の思考のクセを知り、仕掛けを見抜く力を身につけるためのヒントが詰まった一冊をぜひ書店やオンラインでチェックしてみてください!

『100円のコーヒーが1000円で売れる理由、説明できますか?』
橋本之克 著
アスコム刊
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著者/橋本之克
行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディング ディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。
昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、戸板女子短期大学非常勤講師、文教大学非常勤講師を兼任。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)、『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)、『ミクロ・マクロの前に 今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)などの著書や、関連する講演・執筆も多数。

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