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毎月支払うだけになってませんか?サブスクに潜む「元を取りたい」という心理トラップ

2026.01.14

なぜ人はサブスクを使い続けてしまう?「サンクコスト効果」と「認知的不協和」の影響

 

では、なぜ人はサブスクを使い続けてしまうのか、行動経済学の観点で細かく見てみましょう。

 サブスクに加入し、商品やサービスを利用し始めた当初は新鮮ですから、積極的に利用するでしょう。どうせ定額のお金を支払うなら有効活用したい、という気持ちも働きます。

 送料無料や商品割引のサービスがあるなら、買いたい物を探しますし、映画の見放題ならば、いつもより時間を割いて鑑賞するでしょう。このとき、少し無理にでも利用しようとするのは「サンクコスト効果」の影響です。

 すでに費やして二度と戻らないお金、時間や労力などを「サンクコスト(Sunk Cost)」と呼びます。サンク(Sunk)とは「Sink =沈む」の完了形で、「沈んでしまって手元には戻らない費用」という意味です。

 人は、サンクコストにこだわってしまいます。費やしたお金などを必要以上に重大なことだと考え、それがムダではなかったと思い込みたくなるのです。たとえば、食べ放題のレストランで、元を取ろうと食べすぎてしまうのも、同じ理由です。

 このサンクコスト効果が働くと、サブスクで払った費用がムダにならないよう、普段以上に商品やサービスを利用します。

 しかし、無理は続かないものです。徐々に新鮮さも失われます。サブスクの商品やサービスを利用するペースは、だんだん落ちていきます。それでも、定額の費用は毎月支払い続けることになります。

 このとき、心の中には「認知的不協和」が生まれます。これは自分の選択や行動における正しさや一貫性を保てず、矛盾を抱えたときに感じる不安定な気持ちや不快感のことです(「認知的不協和」については第2章で詳しく説明します)。つまり、サブスクを使わなければ費用がムダになるとわかっているけれど、利用する余裕や関心がないといった状態になるわけです。

 そこで思い切って、サブスクを解約すれば、それ以上の損失はありません。ところが、これもまた簡単ではありません。この章で解説した「現状維持バイアス」が、心の中で働くためです。

 これは、変化や未知のものを避けて、現在の状況に固執してしまうバイアスでした。今まで使えたサブスクが使えなくなることを損失と感じて、これを避けようとするのです。

 すると「また近いうちに利用するかもしれないから」とサブスクを継続することになります。しかし、再び積極的に利用しない限り、認知的不協和は解消されないため、心の中に矛盾が残ります。

 不思議なもので、人は心の平安を保つために、イヤなことを自然に忘れる傾向があります。あるいは、日常の忙しさに紛れるなどにより、サブスクに加入していることを忘れてしまうこともあるでしょう。

 結果的に、その後もひたすら会費だけを払い続けることになるのです。

「安さ」に惹かれず、「支払っている」認識を持つ

 行動経済学の知見からサブスク利用の心理を考えると、利用時の注意点が見えてきます。

 第1の注意点は、当たり前のことですが「本当に利用する商品やサービスのサブスクを使う」ことです。

 商品やサービスの買い手から見ると、そんなことは当然だと思うかもしれません。しかし、売り手は「本当に使うかどうかわからない」どころか、「明らかに必要のない」商品やサービスを売ることに真剣に取り組んでいるのです。

 なぜならば、世の中には似たような商品やサービスがあふれかえっており、売り手は数限りない競合相手と顧客を奪い合っているためです。営業や販売の理想として「エスキモーに氷を売る」という言葉があるのも、その表れです。

 したがって、使うかどうか明確ではないけれど、安さにつられて加入したサブスクは危険なのです。「これだけ使えばもとが取れる」という事前の見込みが正しいとは限りません。頻繁に使うはず、という予想も外れることがあります。

 キャンペーンによる初月会費無料も危険です。キャンペーン期間だけのつもりで加入したものの、解約するのを忘れてしまうことがあるからです。

 安さに惹かれているということは、対象の商品やサービスには、あまり必要性や思い入れを感じていない可能性もあるのです。すると、サブスクに加入していることも簡単に忘れて、会費だけを払い続けるという結果になりがちです。

 第2の注意点は、「商品やサービスを利用できて当たり前と思わない」ことです。同じ商品やサービスを習慣的に利用していると、それが当然のことになり、利用できる〝〟ありがたみ〟も薄れていきます。

 普通、サブスクの支払い方は自動引き落としで、かつ契約は自動更新です。したがって、自分でお金を払って利用しているという認識が薄くなりがちなのです。

 すると、何かの拍子に、その商品やサービスを使わなくなっても気になりません。支払っていること自体を忘れてしまい、解約が必要なことすら忘れています。こうして無意識のうちに「払い放題」の状態に陥るのです。

ムダを防ぐには支払い状況を可視化すること

 第3の注意点は、「支払い状況をチェックする」ことです。サブスクの利用状況や支払い金額を確認し、解約忘れを防ぐのは重要です。通常の方法はクレジットカード利用明細の確認でしょう。

 かつての明細書は、郵送で送られてくることが多かったのですが、最近はネットでの明細確認が標準です。逆に郵送の場合は、100円程度の追加料金が発生する場合もあります。追加の支払いを避けるために、ネットでの明細の確認を選ぶ人も多いことでしょう。

 ただ、ムダな支払いをなくすという観点からは、支払い状況はあえて紙の明細書で確認するのが、よりよい方法だと考えます。

 一見、ネットでの確認は、スマホなどでいつでもどこでも見られて便利と思われるかもしれません。

 しかし、少し考えてみてください。

 日常生活の中で、自ら「ネットにアクセスして確認する」という行動は、意外に多いことでしょう。仕事の調整や飲み会の予定入力など、じつは膨大な数にのぼるはずです。これらの多くは、確認を怠ると生活が滞るため放置できません。

 一方、クレジットカードの明細を見て、自分が使ったお金の使途や金額を確認することも非常に重要です。しかし、利用限度額オーバーといった極端な事態でない限り、放置しても日常生活に支障はありません。ゆえに軽視され、確認を忘れがちなのです。

 ネットで明細を確認する場合はサイトにアクセスし、パスワードを打ち込むなどの手間が必要です。郵便なら開封するだけですし、なかも見ずに捨てる人は少ないでしょう。

 また紙ならば、小さなスマホ画面では見にくい詳細な内容まで確認できます。

 普段から利用明細をネットで定期的に確認する習慣がある人以外は、紙の明細書での確認は効果的です。これはサブスクに限らず、自分が支払っているお金全体を把握・管理するために有効と言えます。

「結局、捨てることになる紙の利用は、資源のムダづかいだ」という意見もあるでしょう。

 もちろん、地球資源の管理も大切ですが、同時に自分自身のお金の管理も重要です。

サブスクの本当に賢い使い方とは

 ここまで、サブスクのネガティブな側面に注目し、注意点もあげてきましたが、いうまでもなくサブスクにはいい面もあります。自分が確実に利用する商品やサービスがあり、それがサブスクで提供されているならば、ぜひ利用すべきです。

 たとえば、普段から実際に通い続けている飲食店のメニューが、サブスクで利用できるケースです。より安く利用できるうえ、その飲食店にとっては継続的な利益になります。買い手にとっても、お気に入りの飲食店が業績不振で閉店してしまう、といった悲しい事態を避けることができるかもしれません。売り手と買い手の双方にメリットがあるのです。

 あるいは、パソコンのセキュリティソフトや、仕事中に聞き流す音楽などのサブスクもいいでしょう。利用を明確に自覚せず、無意識に利用しているサービスであっても、実際に使っているものならば損をすることにはなりません。

 その他、音楽や映像などのコンテンツに関する視聴し放題のサブスクには、別の価値があります。サブスクが生まれる前は、みんな自分が気に入ったCDやDVDなどを、一枚一枚購入したものです。とはいえ、欲しいコンテンツをすべて買っていたら、お金が膨大にかかってしまいます。

 しかし、サブスクならば、一つひとつのコンテンツに払うお金を気にせず視聴できます。少し試して、気に入らなければ別のコンテンツを視聴するのも簡単です。

 すると「未知のコンテンツとの出合いの機会」が格段に増えるのです。わざわざ買ってまで聴くことはなかっただろう曲や、タイトルだけで敬遠していた映画などを試すことができます。その結果、お気に入りを新たに見つけることもできるでしょう。これはサブスクを利用するメリットです。

 現代は「自分でも気づいていない、自らの嗜好や関心に気づく機会」が、どんどん失われています。個人向けの情報のカスタマイズ技術が進んでいるためです。

 たとえば、自分のパソコンやスマホに表示されるニュースは、普段の閲覧傾向にもとづく個人の嗜好に合うように選別されています。ECサイトでは、購入履歴にもとづいたリコメンド商品が表示されます。

 このような状況下では、コンテンツとの出合いから自分の関心領域を広げることのできるサブスクには、価値があるといえるでしょう。

「払い放題」が生む売り手の意外なデメリット

 ここで、売り手にとってのサブスクについて少し考えてみます。

 サブスクは、やり方によっては利益獲得に有効な仕組みだといわれています。したがって、導入にあたっては、まず「使い放題」のシステムを構築することに目が向くでしょう。

 しかし「払い放題」であることの危険性については、後回しになっているかもしれません。たとえば、入会していることを忘れて、会費だけ支払っている会員への対処です。

 基本的に、この状態に陥る責任は会員にありますので、売り手が責められることはありません。しかし、売り手にクレームは入れないまでも、この体験をした買い手が売り手に抱く印象、たとえば企業好感度に与える影響は無視できません。

 恥ずかしながら筆者自身も、ECサイトで「商品割引と送料無料」のサブスクに入会していることを忘れて、2年以上もムダな会費を支払い続けた経験があります。

 健康食品を買おうと検索中に、そのサブスクを見つけ、多様な食品を安価に送料無料で買えるうえ、初月無料のキャンペーン中だったため入会しました。しかし実際の購入は、入会した月と翌月の2回だけで、そのまま忘れてしまったのです。ある日、気づいて慌てて退会しましたが、自分に非があるので誰にも文句を言えませんでした。

 自分の愚かさを嘆きつつも、ふと「サービスを利用していないことを教えてもらえていたら……」という身勝手な気持ちも一瞬、芽生えました。

 もし売り手が、一定期間に取引がなく、会費のみ払っている会員にメールなどで注意をうながしたらどうなるでしょう。もちろん、会費を払い続けてくれる顧客を失う可能性はあります。しかし、そうした売り手のデメリットについては、買い手も想像できます。

 したがって多くの買い手は、警告を与えてくれたことに感謝するのではないでしょうか。売り手が短期的な利益よりも、買い手への配慮を優先してくれたと考えるでしょう。そこで生まれた好感度は、売り手の企業ブランドイメージを高めると考えられます。

 とにかく、ここで強調したいのは「払い放題」は、買い手のみならず、売り手にもデメリットを与える可能性があるということです。

 もちろん、買い手が退会し忘れてムダな会費を払ったならば、それは買い手の注意不足によるものです。しかし、売り手がそれを防ぐことは不可能ではないはずです。むしろ、それを放置することは、長期的なデメリットにつながる可能性があります。

 買い手の「払い放題」によって、売り手が「利益獲得し放題」となる構造は、よい売り買いとはいえません。ひいては、サブスクの普及や発展を阻害しかねない危険さえはらんでいるのです。

【ポイントまとめ】「使い放題」は「払い放題」という意識が大事

☆ ☆ ☆

いかがだったでしょうか?

「損したくない」と思う気持ちが、無意識に「誘導された選択」を取ってしまう心理トリックにつながっているかもしれません。

行列や口コミに惹かれるのも、企業が仕掛ける〝行動経済学の罠〟の一部かも?知らないままでは、賢いはずの節約が浪費に変わってしまいます。

自分の思考のクセを知り、仕掛けを見抜く力を身につけるためのヒントが詰まった一冊をぜひ書店やオンラインでチェックしてみてください!

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著者/橋本之克
行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディング ディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。
昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、戸板女子短期大学非常勤講師、文教大学非常勤講師を兼任。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)、『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)、『ミクロ・マクロの前に 今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)などの著書や、関連する講演・執筆も多数。

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