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メルカリから「転売ヤー」を減らすには?行動経済学から考える抑止力

2026.01.13

フリマアプリに潜む「転売ヤー」問題、どうやって解決する?

 しかしながら、まだ誕生から日が浅いフリマアプリには、制度などの面で課題もあります。買い手や社会に対して、害を及ぼす可能性が示されたのは「転売ヤー」問題です。

 フリマアプリでは、健全な出品者と購入者のやり取りが多くを占める一方、入手困難な商品を買い集めて、高値で出品するケースが目立つようになったのです。

 こうした行為で利益を得ようとする人たちは、「転売ヤー」と呼ばれます。転売ヤー自体は、音楽コンサート会場前で高額のチケットを売る「ダフ屋」など、昔から存在していました。フリマアプリが生まれて転売が簡単になったため、転売ヤーは増え、問題となる取引も増えたのです。

 とくに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、マスクやアルコール消毒液などの衛生用品を高額転売する行為は、大きな社会問題となりました。なかには、マスクの販売価格が通常の100倍以上に高騰した例もあり、国民生活安定緊急措置法によって、2020年3月に衛生用品の転売が禁止されました(同年8月に規制解除)。

 さらに、同年の巣ごもり消費で需要が高まったゲーム機も、転売の対象となりました。任天堂の「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」は、2020年当時、希望小売価格(税抜2万9980円)の倍である6万円前後まで高騰しました。2017年3月の発売から3年も経っている商品ですから、異例の事態です。

 また、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が2020年11月に発売した「PlayStation 5(PS5)」も、発売直後には希望小売価格(税抜3万9980円~4万9980円)の2~3倍にあたる10万円前後で取引されました。なかには30万円近い金額で落札されたケースや、100台まとめて900万円で出品というケースもありました。販売直後は抽選販売されていたことを考えれば、これもまた異常事態です。

 転売ヤーが買い占めることで、本当に使いたいと思っている人が買えなくなります。あるいは転売ヤーから高額で買うしかなくなります。こういった状況が広がる中で、出品する転売ヤーはもちろん、フリマアプリの運営会社に対しても批判の声が上がりました。

 法律で転売が禁じられている興行チケットや、販売免許が必要な医薬品などを除けば、ネット上の転売に法的な規制はありません(「反復継続的に営利を目的として転売を行っている場合」は「古物商」に該当するため、古物営業法上の許可を受ける必要があります)。

 ルールを設けてどこまで出品を制限するかは、アプリ運営者の判断に委ねられます。どのような転売を不当や行きすぎと見なすかは、運営する企業が自由に決められるのです。

 フリマアプリの出品制限については、今も議論が続いており、何が正しいか一概に言えません。逆に言えば、そこでの行動は企業の自由意思が反映されたものです。

 2025年6月の新型ゲーム機「Nintendo Switch 2(ニンテンドースイッチ・ツー)」発売時には、不正な出品を防止するため、任天堂がメルカリ、LINEヤフー、楽天グループのフリマ事業者3社と協力すると発表しました。

 転売対策をしなければ、企業や商品のイメージが損なわれるだけでなく売上にも大きな影響を及ぼすため、今後はさらに積極的な対応が求められるでしょう。

ノジマの取り組みに見る「パーパス」の重要性

 その一方で、転売ヤーに対して、明確に反対の姿勢を打ち出す企業も現れています。

 大手家電量販店のノジマは2021年1月に「転売撲滅宣言」を打ち出しました。ゲーム機などに関して、購入履歴をもとに転売目的と見られる客に対し、店頭での販売を断っているのです。これは、簡単なことではありません。小売業が厳しい状況の中で、得られるはずの貴重な利益を自ら手放すことになります。

 また、そのために費やす労力や費用は少なくないはずです。たとえば、転売目的かどうかを見分ける技術を磨くことが必要です。見誤るリスクもゼロではありません。そのうえ、時には店舗のスタッフが「法律で禁止されていないのに、なぜノジマが決めたことに従わないといけないのか」と、罵倒されることもあるそうです。

 そこまでして取り組む理由は、転売行為から顧客を守ること、本当に必要としている顧客に商品を届けることだとノジマは明言しています。これは利益以上に顧客を重視する考えの表れです。同時に、社会の秩序を守り、不正を排除する意思を感じさせます。企業の「ブランド」は、こういった取り組みから形作られるものです。

 企業の経営やブランド構築において、ここ数年「パーパス」が重要であるという考え方が広まっています。この言葉は「社会における確固たる存在意義」を意味します。過去の利益至上主義とは異なり、社会やコミュニティ、働く人々など、すべてのステイクホルダーにとっての価値提供を、企業経営の目的にすべきだという考えから生まれました。

 今後は、パーパスが企業にとって、顧客や取引先に選ばれるために、また投資家から評価されるために必要な条件といわれています。

 ノジマの取り組みには、企業のパーパスが反映されていると考えられます(パーパスとして明言されているかどうかは別として)。この姿勢は、広く知られるべきですし、ステイクホルダーから評価されるべきでしょう。

 一方、メルカリにおいても、価格が急騰する商品の画面上に「本商品は、価格が急騰している可能性があります。ご購入においては冷静なご判断をお願いいたします」という注意メッセージを表示するなど、対策が行われています。

 各フリマアプリも転売対策の強化を進めていますが、転売ヤーを防ぐことは非常に難しく、いたちごっこの状況が今後も続いていくことが予想されます。

「見られているように感じる」だけで不正は減る

 もし、もう一歩踏み込むならば何をすべきでしょう。行動経済学の観点からヒントを探すならば、一つの実験が参考になるかもしれません。

 英国ニューカッスル大学のメリッサ・ベイトソンによる実験です。大学内のラウンジにおいて、有料で紅茶、コーヒー、ミルクなどを提供するときの利用者の行動を調べました。

 しかし、そこに人はいません。商品の値段表と、お金を払う箱のみが備えてあります。自販機ではないので、支払うかどうかは、利用者の自発性に頼る仕組みです。

 そこで、同じ場所に「花の写真」と「人の目の写真」の絵を掲げました。

 これら2パターンの絵を毎週交互に替えながら10週間続け、「花」が掲示された週と「目」が掲示された週における消費量と、支払われた代金を比較しました。結果は、「目」の週には「花」の週の2.76倍多くお金が集まっていたのです。現実に人がいなくても、誰かに見られているかのように感じるだけで不正は減るのです。

 同じニューカッスル大学では、その後も同様の実験を、構内の自転車盗難に関しておこなっています。

 複数箇所の自転車置場に、同じように「目の写真」を掲示しました。その結果、1年間の盗難件数が、39件から15件へと約62%も減少しました。

 誰にも知られない状況では、人は不正を働くことがあります。しかし、少しでも監視されている気がするだけで、たとえそれが錯覚であっても不正を止めるものなのです。

不正転売の抑止力になる「ナッジ」の力

 メルカリが実施している「商品画面において注意文を掲示する」ことについて、あらためて考えます。この表示は、買い手が商品を選んで初めて、表に出ることになるので、見るのは買い手です。

 つまり、この効果は、高額だと知っている買い手に対し、一応の注意を加える程度のものです。転売ヤーに対して、直接不正を思いとどまらせる効果は少ないでしょう。

 しかし、不正取引の責任は、買い手ではなく、本来は売り手である転売ヤーにあるのです。そちらに対して、アプローチをすることが必要です。

 高額の出品をしたことが、誰にも知られない仕組みに問題があると思われます。匿名の出品者は、うまくいけば誰にも知られず売り逃げられると考えるかもしれません。

 その対策例として、売り手に「不当に高額の出品をしていることが『知られている』」と、知らせる手法が考えられます。たとえば、出品の掲載時点で、出品者に「アラート」を出す方法がいいかもしれません。

 あるいは高額の出品に関しては、要注意リストを誰もが見られるように、アプリ上で掲示するという方法も有効かもしれません。これは匿名のままで構いません。売り手に「見られている」と感じさせることが狙いです。

 ほかにも、さまざまな方法が考えられるでしょう。

 出品画面に注意文を掲示するのであれば、その出品が不当かどうかの判断基準は定められるはずです。あとは、どのタイミングで、出品者にアプローチするかを考えるだけです。

 いずれにしても、基本的な考え方は、転売ヤーに対して、その行為が監視されていることを知らせるというものです。これにより、出品自体を制限するという強硬手段を避けることができます。完全ではありませんが、ある程度の抑止力は期待できるのではないでしょうか。

 こうした働きかけを、行動経済学では「ナッジ(nudge)」と呼びます。言葉の訳は「ひじで軽く突く」です。禁じることも強制することもせず、またインセンティブを大きく変えることもなく、人の行動をよりよい方向へうながす仕掛けや手法です。

買い手が「いい売り場づくり」に貢献できる

 この項目で述べてきたように、現状のフリマアプリは、買い手に喜びを与え、社会に貢献する側面と、不正の温床になりかねない側面を併せ持つものです。

 しかしながら、新品の商品を大量に生産、消費、廃棄するこれまでのような社会の仕組みは変わらざるを得ません。そこでフリマアプリは、間違いなく重要な役割を果たすはずです。

 またフリマアプリは、あらゆる人に売り買いの喜びを提供できる力を持っています。だからこそ、今後よりよい形で発展してほしいと願います。

 これからのフリマアプリの進化には、もちろん買い手も参画することができます。不当な価格の品物は買わないという姿勢を持ちながら、積極的に活用していけばいいのです。

 こうして、よりよい売り買いの場作りに参加しながら買い物をすることも、また「いい買い物」であるといっていいでしょう。

【ポイントまとめ】フリマアプリは「もったいない精神」を形にする場

いかがだったでしょうか?

「損したくない」と思う気持ちが、無意識に「誘導された選択」を取ってしまう心理トリックにつながっているかもしれません。

行列や口コミに惹かれるのも、企業が仕掛ける〝行動経済学の罠〟の一部かも?知らないままでは、賢いはずの節約が浪費に変わってしまいます。

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著者/橋本之克
行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディング ディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。
昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、戸板女子短期大学非常勤講師、文教大学非常勤講師を兼任。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)、『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)、『ミクロ・マクロの前に 今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)などの著書や、関連する講演・執筆も多数。

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