「行列ができている店に入りたい」「口コミが良い商品を選びたい」――そんな気持ち、ありませんか?実はそれ、あなたの〝損したくない心理〟が働いている証拠かもしれません。
賢く節約しているつもりが、気づけば浪費につながることも……。その裏には、行動経済学が深く関わっています。
本記事では、行動経済学コンサルタントの橋本之克さんの著書『100円のコーヒーが1000円で売れる理由、説明できますか?』から一部を再編集し、企業が仕掛ける心理トリックと、それを見抜くためのヒントを紹介します。あなたの「無意識の選択」を変え、より良い人生を歩むための第一歩になるかもしれません。
フリマアプリが広げた新しい売り買いの形
「フリマ」はフリーマーケットの略ですが、誰もが自由にモノを売り買いできるイメージから、英語で書くと「free market」だと思っている人が多いかもしれません。
しかし、正確には「flea market」で「flea」とは「蚤」のことです。フランスのパリ市内で、週末を中心におこなわれていた古物の露店市「蚤の市」が語源です。
現在ではフリマアプリによって、さらに多くの人が参加できるようになりました。取引はオンラインでおこなわれるため、誰もが簡単にさまざまなモノやサービスを売り買いできます。
その結果、従来の「企業が売り手で消費者が買い手」という取引ではなく、消費者が売り手にも買い手にもなるという状況が広がりました。
フリマアプリの歴史は十数年前から始まり、日本初のフリマアプリは2012年に誕生した「フリル(現楽天ラクマ)」で、現在の業界最大手は2013年にサービスが開始された「メルカリ」です。
2019年にはソフトバンクグループの「PayPayフリマ(現Yahoo!フリマ)」が参入するなど市場は活況で、メルカリに関しては国内だけでアプリダウンロード数が6000万を超えており、単純計算で、日本の人口(約1億2500万人)の半数が使っていることになります。
人々がフリマアプリを使う理由に関して、メルカリが自社調査をおこなっています。
調査結果から、売り手の利用理由は「賢くお小遣い稼ぎができる」が最も高く、次いで「捨てようと思っていたものが売れて得した気分になる」が高いことがわかります。
つまり、単純に儲かるだけではなく、捨てるしかないと思っていたものがお金になると知ったときの喜びが強いものと考えられます。

行動経済学の観点から見れば、これは「ブレークイーブン効果」の影響です。「ブレークイーブン」とは「損益分岐点」のことで、売上と費用が同じで利益がゼロである状態を表す経済用語です。持っているものの価値が入手したときよりも下がっている状況である「含み損」の状態にあって、その損失をなくすことを強く求める心理を表します。価値が下がって損失となっているときに、それを挽回できると大きな喜びを感じるのです。
たとえば、投資の世界で、値下がりした株を持ち続け、相場が回復して買い値に近づいて売却することを「やれやれ売り」と呼びます。
この「やれやれ」は、単純な得以上の喜びといわれますが、これもブレークイーブン効果の影響です。
自分が不要になった物を損失覚悟で捨てるしかない状況であったにもかかわらず、フリマアプリで売れたならば、その喜びは大きいでしょう。そこで得られた利益は、単にお金をもらったときよりも大きいと考えられます。
掘り出し物を探す楽しさが魅力になる
一方、買い手としての利用理由で最も高いのは、「掘り出し物を探すのが楽しい」です。お得な商品や意外な商品、どこを探してもなかった商品を見つけることができる、宝探しのような楽しみもまた、フリマアプリで買い物をする楽しさです。
新品を買う場合は、どの店舗でどの商品を選んでも、基本的には同じ品質です。価格も多少の割引きなどがあったとしても、基本的な目安から大きく外れることは少ないでしょう。
一方、中古の品物は、一つひとつが異なる商品と考えることができます。
状態がよくないため激安の商品もあれば、新品同様で高い商品もあります。出品者が早く売りたければ安く値づけするでしょうし、その逆もあり得ます。新品のときは同じ商品だった一つひとつが、すべて品質や価格が異なる商品になるのです。
また、フリマアプリで扱う商品ジャンルは多岐にわたるため、そこには膨大な商品群があるわけです。
買い手は、検索することで希望に合う商品を選ぶことができます。

欲しい商品がタイミングよく出品されていれば見つけられますが、まったく出品されていないこともあります。品質の判断も必要にはなりますが、買い物のたびに運試しや宝探しをするような楽しみを感じることができます。
リアルな店舗で、これと似た楽しみを提供しているのが「ドン・キホーテ(ドンキ)」です。
2020年の業績はコロナ禍によるダメージを受けましたが、1989年3月の1号店開業以来、30期連続で増収増益を続けていました。
ドンキ独自の特徴として知られている販売手法が、「圧縮陳列」です。商品を天井に届きそうなくらい、密度高く陳列するのです。小売業界では、商品を整理整頓し、どこに何があるのか、来店客がわかりやすいように陳列するのがセオリーですが、それとは真逆の手法です。
しかし、これによって来店客は、ジャングルのような無秩序空間に詰め込まれた、圧倒的ボリュームの商品群から掘り出し物を探す楽しみが味わえるのです。
フリマアプリは、この楽しさをオンラインで提供していると考えられます。
リユースと副業・ギグワークのニーズを満たす
さらに、フリマアプリを使う理由の中で、売り手と買い手に共通する項目は「捨てるという行為がなくなる」ことです。ここには「社会的選好」の影響が見て取れます。これは、自分自身だけでなく、他者の利益も考慮して選択や行動をおこなう心理です。伝統的な経済学では、人は自分の利益を求めて行動する利己的な存在とされていました。
しかし、行動経済学が、この仮定は現実に合わないことを明らかにしました。
現代では、すべての人が、地球環境に配慮することを求められています。フリマアプリでの売り買いは使える物は繰り返し使う「リユース」や、モノを大切に使ってゴミを減らす「リデュース」に直結します。モノを売ってお金を得たり欲しい物を安く手に入れながら、環境問題にも貢献できます。そこに満足を感じる人が多いのです。
もう一つ、別の調査を紹介しましょう。新型コロナウイルス感染症拡大によって在宅時間が増えたことで、人々が始めた副業・ギグワークの内容です。ギグワークとは、ネット経由で単発、短時間のサービスを提供する働き方です。

在宅時間が増えたことで始めた副業・ギグワークのトップが、フリマアプリの利用でした。2020年ごろ、人々は新型コロナウイルス感染症により自粛生活を強いられました。企業の業績は低迷し、残業代などの収入は減ります。
一方でリモートワークが浸透して、通勤時間もなくなったことで時間が余りました。そこで副業に目を向け始めた人々にとって、最も始めやすい仕事がフリマアプリによる副収入確保だったのでしょう。
そもそも、「人生100年時代」といわれる現代は、会社に頼って収入を得るだけで一生を過ごすことが難しくなっています。自力で収入を得ようとする人にとって、メルカリなどのフリマアプリはいい手段となるのです。
このように、さまざまな点において、フリマアプリは売り手や買い手に対し、楽しみや利益を提供しつつ、社会において経済活動の発展や個人の自立をうながすものです。さまざまな点ですぐれた売り買いの仕組みであり、プラットフォームだといえるでしょう。







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