小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

進化を続けるタッチ決済乗車の立役者「stera transit」は交通系ICカードを凌駕することができるのか?

2025.12.28

三井住友カードの公共交通機関向け決済ソリューション『stera transit』が、日本のキャッシュレス決済市場に絶大なインパクトを与えている。それはクレジットカードのイメージに大変革をもたらすものだ。

クレカのタッチ決済の利用を前提にしたこのソリューションを公共交通機関に組み込めば、普段遣いのクレカがそのまま乗車券のように機能する。日常のシーンではクレカで買い物をしているという人にとっては、stera transitの導入拡大によって「決済の一本化」が可能になる。が、実のところstera transitは大都市圏での普及のみならず、少子高齢化に直面する地方都市でのオペレーションにも並々ならぬエネルギーを注いでいる。

かつては「ある一定以上の男性の持ち物」に過ぎなかったクレカ。それがstera transitとの融合がもたらす化学反応により、「生活に必要不可欠の万能決済カード」になろうとしている。

補助金が発生する「条件」

去年は「熊本ショック」が全国を動揺させた年でもあった。

熊本県の鉄道・路線バス運営5社が「高額な更新費」を理由に交通系ICカードによる乗車システムの継続を断念し、代わってタッチクレカを用いるstera transitを導入すると発表したのだ。その計画が実施されたのは、2025年2月である。

この5社が抱えるバスは約900台。それらに設置された機器を全て更新するとなると、費用は約12億円かかる見積りだった。が、タッチ決済のみに対応する機器の場合は6億円台で済むという。

「その上で、当時の制度にも目を向ける必要があります。国からの補助金は、単純な機器更新の場合は出なかったのです」

そう説明するのは、三井住友カードTransit本部長兼Transit事業企画部長の石塚雅敏氏。stera transit拡大の最先頭に立つ人物である。

「国からの補助金は、単純な機器更新の場合は出なかった」という部分は、この話を進める上で極めて重要だ。

最近まで、新規のシステムを導入する場合は国庫を財源にした補助金が発生するという制度が存在した。故に、全ての車両をタッチ決済対応のシステムにしたほうが交通事業者の費用負担は減る。逆に言えば、中途半端な改修・更新では多額の補助金を見込めなかったのだ。そのような事情もあり、交通系ICカードの対応継続を断念されてタッチ決済乗車を導入されるということが現象として目立つようになった。

石塚氏は、こう話を進める。

「結果的にはそうなったのですが、それ以前から熊本県の公共交通はいくつかの課題を抱えていました。その一つが、鉄道・路線バス運営5社の“共同経営”です」

「独占禁止法の特例法」とは?

少子高齢化問題只中のA市に、3つの路線バス運営会社があるとする。この3社のバスは、人口増加が目覚ましかった70年代には熾烈なサービス競争を繰り広げていた。それはまるで、高度経済成長期の日本各地で繰り広げられていた観光バス戦争のような様相だ。

ところが、2020年代は置かれている状況が全く異なる。人口減少に歯止めがかからず、路線バスの利用者が全体として少なくなっている。その中で3つのバス事業者が競争などしたら、最悪共倒れになってしまう。

したがって、ここは3社が足並みを揃えてダイヤの調整や運賃の統一、バス停の統廃合などの合理化を実施しなければならない。ところが、これは2020年以前では独占禁止法に接触してしまう可能性があったのだ。

無論、いつまでもこのような法的状況下ではいけない。令和2年の通常国会にて、独禁法の特例法が成立した。

これは交通事業者と地方銀行を対象にした例外規定で、担当省庁の大臣及び長官が許可した計画に限り共同経営やシステムの統合などを認めるという内容だ。

「共同経営をするというのは、複数社を跨いだ共通のシステムを導入しなければならないという意味でもあります。となると、クラウドを共通化すればより便利な共通サービスを作りやすくなるのではないか。熊本県での出来事は、そうした思惑も背景にあります。なお、熊本県の交通事業者は全国に先駆けて独禁法の特例法適用に成功しました」

もちろん、熊本県の交通事業者がタッチ決済を選択した理由には「インバウンドの増加」も多分にある。

「バスに乗る人」が少なくなってしまった以上、空いた座席を埋めるためには年々増加する外国人観光客にも来てもらわなければならない。が、彼らにとってSuica等の交通系ICカードは「日本でしか使えないもの」であり、帰国したらそれはただのプラ板だ。にもかかわらず、そのプラ板には半導体が組み込まれている。しばしば発生する半導体不足の影響で、交通系ICカードの供給不足が発生してしまった……ということも実際に起きた。

路線バスにインバウンドを呼び込もうと考えるとしたら、やはり「タッチ決済対応」は避けて通れないのだ。そうした選択をしなければ、地域交通は維持できなくなってしまうかもしれない。

もしもみんながプリペイドカードを持つようになると…

ただし、このような懸念も考えられる。クレカを持ってない人はどうするのか? 路線バスを利用しづらくなってしまうのではないか?

これは経済的に問題のある人に限らない。地方在住の高齢の主婦や、まだ自前の可処分所得を持っていない中学生や高校生はクレカとは縁がない。特に高齢の主婦は「クレカ=会社に勤める男性の持ち物」という古典的概念を今でも持っていたりする。

「三井住友カードの場合は、満6歳以上の方がご利用できるVisaブランドのプリペイドカードを用意しています。これを普及させるために何かアクションを起こしていこう、ということは交通事業者様と検討をしています」

日本ではお世辞にもキャッシュレス決済の主役とは言えない国際ブランドのデビット・プリペイドカードだが、もしこれが普及したら交通事業者に対して多大なコスト削減効果が見込めるという。

「全国交通系ICカードではなく、その地域だけで利用できるICカードがありますが、 そうした地域交通系ICカードは、駅やバス停にチャージ機を設けていることがあります。ということは、交通事業者様から見れば“チャージ機を維持するコスト”もまた発生してしまうのです。一方、国際ブランドのプリペイドカードはオンラインでチャージできますし、コンビニATMでのチャージも可能です」

つまり、利用者がオンラインでのチャージをしてくれるようになれば、交通事業者はますます現金の取り扱いを減らすことができ、それにかかるコストをカットできるという流れである。プリペイドカードの普及は、交通事業者にとってもまったく悪くない話なのだ。

「目的地にまつわるデータ」は得意分野

さて、ここからがこの記事の核になる部分である。

タッチ決済乗車に対する交通系ICカードのアドバンテージとして、「豊富なデータ量を誇る」という点がよく挙げられる。Suica利用者の移動に関する情報がビッグデータを形成し、またそれは沿線地域の再開発計画に生かされようとしている。JR東日本は、去年12月からそうした計画にまつわるプレスリリースを頻繁に発表するようになった。

逆に言えば、定期券機能を有しないクレカが持ち得るビッグデータは量的にも質的にもSuicaを筆頭とする交通系ICカードに大きく劣ってしまうのではないか?

「クレジットカードが得意なのは“買い物”です。考えてみれば、鉄道でもバスでもそれを利用する人は“どこかに行くために利用する”はずです。つまり、移動と消費活動は切っても切れない関係という意味でもあります。そこのカバー率で見ると、日本のキャッシュレス決済のうち、85%以上はクレジットカードもしくはデビットカードです」

石塚氏のこの発言は、官公庁が発表しているデータに裏付けられている。経済産業省が発表した2024年のキャッシュレス決済比率に関する資料を見てみると、全体の82.9%がクレカ、3.1%がデビットカードである。合わせるとちょうど86%。なお、交通系ICカードを含む電子マネーの比率は、僅か4.4%に過ぎない。

「我々は“目的地にまつわるデータ”は大量に持っています」

また、クレカは世界中で発行されているものであるため、「特定の国の観光旅行者が日本のどこを目指すのか」というデータも収集しているとのこと。

「韓国から来たお客様はどの鉄道を利用してどこへ行くのか、台湾のお客様はどうか、アメリカのお客様はどうか。そうしたことを、交通事業者様や自治体関係者の皆様と共に分析しています」

目を開けた”巨人”

「データの取り扱いは我々の得意分野」と語る石塚氏は、今年開催された大阪万博についてのとある出来事を説明する。

「大阪万博の会場の最寄り駅だった夢洲駅を利用した方が、次はどこを目指すのか。大阪万博は、インバウンドに対して“日本を周遊してもらう”という意図もありました。我々がデータを分析してみると、大阪から広島、または福岡、沖縄……つまり西日本の地域を目指す方が多かったのです。逆に、札幌を目指す人は少なかったというデータがあります。大阪万博は、西日本に大きな経済効果をもたらしたのではということが考えられます」

クレカのタッチ決済とそれに対応した決済ソリューションは、実は交通系ICカードと比較した場合でも決して劣ることのないビッグデータを獲得している。日本人を悩ませる様々な課題がむしろ興奮作用をもたらし、当初から比類なき武器を持った巨人がついにその目を開けた……と解釈するのがより現実に即しているのではないか。少なくとも、三井住友カードは「ぽっと出の新規参入者」などでは断じてない。
stera transitの今後のアクションからは、決して目が離せない。

【参照】
stera transit-三井住友カード
独占禁止法特例法について-国土交通省
2024年のキャッシュレス決済比率を算出しました-経済産業省

文/澤田真一

「現金お断り」のバスが登場!京王電鉄バスが完全キャッシュレス化に踏み切った理由

COVID-19によるパンデミックがなければ、「現金至上主義国家」とまで言われていた日本でキャッシュレス決済が広く浸透することはなかったのでは……という見方があ…

1984年生まれ。静岡市生まれ相模原市育ち。グラップリング歴20年超。世界のスタートアップ情報からガジェットレビュー、Apple製品、キャッシュレス決済、その他諸々のジャンルの記事を執筆。

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2025年12月16日(火) 発売

来年末は、DIME本誌で答え合わせ!?来る2026年、盛り上がるだろう意外なブームを各ジャンルの識者・編集部員が大予言! IT、マネーから旅行にファッション、グルメまで……”一年の計”を先取りできる最新号!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。