三菱電機は、運転中のドライバーのわき見や居眠りを検知する「ドライバーモニタリングシステム(以下DMS)」の映像から非接触で取得した脈拍数や、車両制御情報などを組み合わせることで、運転中のドライバーの飲酒状態を推定する技術を開発した。
本技術は同社AI技術「Maisart(マイサート)(※2)」の開発成果であり、検知結果に基づくドライバーへの警告表示や運転制御などを通して、飲酒運転による交通事故の削減に貢献していくものだ。
※2 Mitsubishi Electric’s AI creates the State-of-the-ART in technology の略。全ての機器をより賢くすることを目指した同社のAI技術ブランド。
新技術開発の社会的背景と意義
飲酒運転による交通事故は世界各国で深刻な社会問題となっており、米国では年間1万人以上、EU23か国では年間2000人以上が命を落としているという。
日本でも、厳罰化や行政処分の強化などにより件数は減少傾向にあるものの、依然として重大な事故が発生している。こうした状況を踏まえ、欧州では新車安全性評価プログラム<NCAP(※4)>の評価項目拡充に向けて、DMSへの飲酒状態検知技術の導入が検討されており、米国でも新車への飲酒運転防止技術搭載の義務化に向けた議論が進行中だ。
※4 New Car Assessment Programの略。各国の公的機関が実施する自動車の安全性能評価試験のことで、消費者が車両を購入する際に安全性を考慮できるよう車両の安全性能を客観的に評価した結果を公表する。
■ドライバーの脈拍数や目の動き、ハンドル・アクセル操作などの車両制御情報を組み合わせてAIで解析
実際の飲酒運転防止策としては、アルコール・インターロック(※5)を導入する国もあるが、本方式には、エンジン始動後の飲酒を検知することができないという課題がある。
※5 運転前にドライバーの呼気中のアルコール濃度を測定し、基準値を超えていた場合にエンジンの始動を阻止する装置。
また、カメラ映像を用いて顔や目の情報から覚醒状態を推定する技術もあるが、飲酒による覚醒度の変化が表情に与える影響には個人差があるため、表情変化のみで覚醒度低下を高精度に判別することは困難だった。
そこで同社では今回、DMSの映像を解析して取得したドライバーの脈拍数、目の動きと、ハンドル・アクセル操作などの車両制御情報を組み合わせてAIで解析することにより、運転中のドライバーの飲酒状態を推定する技術を開発した。
飲酒による表情変化が分かりにくい場合でも、飲酒によって変化する脈拍数を判定に用いることで、飲酒状態を高精度に検知することが可能になり、飲酒運転による交通事故の削減と、併せて安心・安全な社会の実現が期待される。
新技術の主な特徴
■DMSの近赤外カメラ映像から、運転中のドライバーの脈拍数を高精度に計測
・近赤外カメラを用いて取得したドライバーの顔映像から、脈動に伴う血液流量変化による皮膚反射の微小輝度変動を抽出することで、非接触で脈拍数を計測
・アルゴリズムの改良により走行時の外乱(※6)を抑制し、脈拍数の変化への追随性を向上させることで、飲酒による交感神経活性化に起因する脈拍上昇を高精度に検出
・車載ECU(※7)にソフトウエアのアップデートで搭載可能
※7 RENESAS製R-Car E3e上で確認
■生体情報を活用して外部環境に影響されない高精度な飲酒状態検知を実現
・DMSの映像から取得した脈拍数データおよび目の動き、車両制御情報を用いて、飲酒状態を判定するAIを開発。脈拍数データを判定要素として追加したことで、飲酒による表情変化が分かりにくいケースでも、覚醒度低下を高精度に判別
・オークランド大学(米国ミシガン州ロチェスター)との共同研究において、さまざまなスキンタイプ、年齢、性別、人種のデータを収集(※8)し、欧州や米国での使用を想定した検証を完了
・車載制御システムとの連携により、判定結果に応じた警告表示や運転制御を実現。飲酒運転による事故発生リスクの低減に貢献
※8 実証実験(2024年9月~2025年7月)において、安全性を考慮した上で約100名の飲酒した状態の運転データを収集
<脈拍数の変化に対する追随性の向上>

<脈拍数の上昇からドライバーの飲酒状態を検知するメカニズム>

関連情報
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/pr/2025/1216/
構成/清水眞希







DIME MAGAZINE












