■連載/ゴン川野のPC Audio Lab
ホームリスニングの理想形を目指して
ORBが2025年末に満を持して発表した据え置き型ヘッドホンアンプ「JADE casa Ultimate」は、「究極のホームリスニング」を目指したフラッグシップモデルだ。価格は88万円とハイエンド帯ながら、部品選定から回路設計、外観の仕上げまで一切の妥協を排したピュアオーディオ機として注目を集めている。
効率よりも音質のA級を選択
最大の特徴は、最終段に採用した 4ch電流帰還型A級シングルアンプ。一般的なプッシュプル方式ではなく、入力信号の上下を1本のトランジスタで動作させる設計により、クロスオーバー歪を排したクリアで高解像度なサウンドを実現している。さらに、Rコアトランス+ORBオリジナルのディスクリート電源回路を組み合わせることで、高いエネルギー感と豊かな音楽表現を両立しているのも特徴だ。電源ケーブルはユーザーが好みのものに交換できるようにあえて通常グレードのものが付属する。
設計を率いるORB R&Dチーム シニアチーフエンジニア 吉本幸弘さんは、「徹底した内部回路の仕上げによって、ケーブルや入出力方法の違いが音に正確に反映されることを重視した」と語る。一般的に効率が悪いとされるA級シングル回路にこだわった背景について「高い電流を流すことで歪みを抑え、芯のある音と奥行きのある響きを両立できる」と強調した。これは、電源供給の質や部品選定にも反映され、単にノイズを低減するだけでなく、音楽信号の「存在感」まで引き出す狙いだという。
入力端子はφ3.5mmミニ、RCA、3ピンXLRバランスを装備し、出力はφ6.3アンバランスと2系統のXLRバランスを備える。出力性能はバランス時150mW+150mW(32Ω負荷)、アンバランス時125mW+125mWで、16~600Ωのヘッドホンを推奨する。出力端子によっても音質を変えてあり、吉本さんの推しは3ピンのXLRバランス端子だという。
筐体は職人の手でミラーフィニッシュされたステンレス製フロントパネルを採用し、音質だけでなく質感の高さも追求。置く部屋や光の当たり方によってアンプは表情を変えるのだが、これを写真で伝えるのは難しい。「JADE casa Ultimate」は自社工場で製造されるまさに「究極」の名にふさわしい一台であり、据え置き型ヘッドフォンアンプの新基準を提示するモデルとして高い評価が期待される。
解像度のバランス、音の厚みのアンバランス
試聴にはFIIO「M15」をトランスポートとして使用し、ハイレゾ音源をラインアウトからバランス接続。イヤホンには変換ケーブルを介してバランス接続としたFitEar「Air2」を組み合わせた。
この構成で再生した音は、まず解像度の高さと音の粒立ちの良さが際立つ。A級アンプ独特の密度感がありながら、エッジを強調しすぎることはなく、音像は終始自然だ。特に女性ボーカルでは、声の芯がしっかりと立ちながらも、滑らかさと艶やかさが失われない。サ行の刺さりや硬さは抑えられ、息遣いや声の揺らぎがなめらかに描写される。
低域は量感を誇示するタイプではないが、立ち上がりが速く、ベースラインの輪郭が明瞭だ。中高域とのつながりも良く、音域全体のバランスが非常に整っている印象を受ける。「JADE casa Ultimate」を介することで、音楽の情報量が増すというより、音の整理が進み、本来あるべき姿が浮かび上がる、そんな変化が感じられた。
写真・文/ゴン川野







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