10月13日に閉幕した大阪・関西万博。一日中、歩き回って腹ペコな来場者の楽しみといえば、会場内で食べられる多彩な「万博メシ」であった。皆さんは召し上がっただろうか?筆者は行列に負けて食べ逃したクチ……。
しかし朗報だ!いくつかのメニューは、閉幕後も食べるチャンスがあるという。
その一つが、会期中に累計22万食も売り上げた『ほっかほっか亭』の「ワンハンドBENTO」である。程よい満足感があり、〝歩きながら〟〝見ながら〟などの〝ながら食べ〟がしやすく、ごみも少ないといった利点を生かし、今後は音楽フェスやスポーツ大会、屋外イベントなどへの出店で食べられるという。やった〜〜〜!
と……喜んだのはいいが、実は筆者「ワンハンドBENTO」のことをよく知らない。ぶっちゃけ、見た目だけでいえば「おにぎらず」では!?
失礼極まりない筆者が『ほっかほっか亭』に突撃だ!

おにぎりとはどこが違う?
「ワンハンドBENTO」を観察すると、上におかずが乗っている。あとは、そうだなあ……ごはんとおかずがサンドイッチのように交互に重なっており、一口食べるだけでいろいろな味が楽しめそう。これって、おにぎりの派生版「おにぎらず」じゃないの?

筆者の言葉を笑顔で受け止めてくださったのは、『ほっかほっか亭』広報の永岑(ながみね)しおりさんだ。
「実は、販売した当初から『おにぎりと何が違うんですか?』と、たびたび言われました(笑)。
おにぎりは、まず白米が口に飛び込んできますよね。『ワンハンドBENTO』はいちばん上に主菜(おかず)を乗せて、一口目におかずが入ることを大切にしました。というのも、お弁当はおかずを一口目に食べる方が多いからです。そして片手に収まる中に、主食・主菜・副菜を全て入れています。食材のバランスが良いことも、お弁当ならではのポイントです。
今回、我々が出展した『大阪ヘルスケアパビリオン』のテーマは〝25年後の未来〟。様々な物事が進化とともにスリム化する中で、食生活でいえば完全栄養食も流行っています。しかし50年続くお弁当屋である『ほっかほっか亭』として、最低限守りたいお弁当のアイデンティティーがありました。その上で未来を感じるものにすることに、非常に苦労しましたね」(以下「」内、全て『ほっかほっか亭』広報・永岑しおりさん)

多様性が問われる時代に寄り添った〝新しいお弁当のカタチ〟

「非常に苦労した」という開発。片手で食べられる箸を使わないスタイルは、万博ならではの環境や条件から発案されたそうだ。
「万博は食べ歩きされる方が多いだろうとか、ベンチに座ったりテーブルを使ったりせずとも食べられるとか、海外からの来場者も多いだろうとか。立地や多様性も考えて、箸を使わずパクッと食べられるかたちにしました」

ただ実際に万博が始まると、海外からの来場者は思ったより少なかったのですが……。思わぬところで評価していただきました。それは、お体の不自由な方々です。
我々の出展していたパビリオンがバリアフリーだったので、上半身が起こせないお客様や、お箸が使えないお客様も車椅子でたくさんいらっしゃったんです。皆さん、『ワンハンドBENTO』をおいしそうに召し上がってくださり、後日会社に『なかなかお弁当は食べられなかったけれど、万博で食べられました』とメッセージをいただきました。涙が出るほど嬉しかったです」
〝顧客の若返り化〟も狙ったSNS戦略
また「〝顧客の若返り化〟という狙いがあった」とも。
永岑さんによると、のり弁の顧客年齢層は40〜50代が主だ。これは『ほっかほっか亭』のメイン層でもある。
「我々だけでなく、スーパーでもコンビニでも、若者のお弁当離れが進んでいます。若い方は、おにぎりとデリとか、おにぎりとスープとかいった組み合わせを選ぶ場合が多いですね。あとは、パスタやパンなど小麦製品も人気。だから若い方々に、お弁当へのハードルを下げるものを模索しました」

その一つが、開発時に意識して設計した〝片手で撮れる〟ことだ。ごはんの中に具が入ったおにぎりだと、外見では中身が分からない。でもお弁当のアイデンティティーを大切にした、いちばん上に主菜(おかず)を乗せるカタチだと、見た目にもわかりやすい。
「商品開発の段階で、社内のZ世代を中心に試食会を行いました。そして、『これを出されたら写真が撮りやすいか?』『そもそも写真に撮りたいか?』『SNSでシェアしたいか?』などもヒアリングしたんです」
結果的に、大阪・関西万博では多くの20〜30代が食べ、SNSの反響も大きかった。見た目に映えるというより、『手軽で食べやすい』というライフハックでウケたという。
「手づくり主義」と「できたて第一」ゆえ苦労したオペレーション
大阪・関西万博で「ワンハンドBENTO」が波に乗ったきっかけの一つに、税込み500円という求めやすい価格もある。また、回転率の良さも累計22万食超えに繋がったと振り返る。
「来場者数が爆発的に増えた7月以降はどの飲食店もかなり混み、並ばないとグルメが楽しめない状況。ただ『ワンハンドBENTO』は、並んだとしても15〜20分程度でお求めいただけたので、比較的買いやすかったようです」

お客様をなるべく待たせないよう、オペレーションは開幕以降、随時ブラッシュアップ。しかし想像を上回る売れ行きに、なかなか苦しんだという。そんな中でも〝手づくり〟と〝できたて〟にこだわる『ほっかほっか亭』の主義は、最後まで守り抜いた。
「我々の店舗では、注文が入ってからお弁当を作ります。それは非常に混むお昼時も同じ。だからいかに効率よく回すかは店舗で経験済みです。スタッフの動線や仕込みの順番を含め、どうすればスムーズにご提供できるか、試行錯誤しました。
大阪・関西万博では仕込みの一部は近隣店舗で行いましたが、揚げる、カットする、ごはんに挟むなどの作るオペレーションは、小さなバックヤードの厨房部で行っていたんですよ。とにかく数が出るので、なるべくお待たせしないように、スタッフは朝から晩まで『ワンハンドBENTO』を作り続けました」
時に苦しみながらも、お客様の笑顔に支えられたという出展。実際に食べたお客か様らは「お弁当のおかずとごはんが、一口で味わえる!」と驚きと喜びの声が多数届いたそうだ。
今後は「適材適所」で販売を継続

こうして大好評のうちに終了した「ワンハンドBENTO」を、なぜ全国の店舗では販売しないのか?
「実は2025年7月に、大阪の本社下にある店舗でトライアル販売したんです。ありがたいことに完売するなど売り上げは好調だったものの、通常のお弁当箱に入った『のり弁』は490円で、『ワンハンドBENTO』は500円。ごはんのボリュームやコスパで見た時に、お弁当に軍配が上がります。
また、店舗は全てがオフィス街ではなく、住宅街にもあります。だからタイパの良い『ワンハンドBENTO』が、どの店舗でも受けるとは言いがたい。もっとグサッと刺さる層がいるだろうと考えました。
そこで上がったのが、音楽フェスやスポーツ大会、屋外イベントなどへの出店です。お客様はもちろん、イベントスタッフさんなど忙しい裏方の方々がササッと昼食にするのにも良いだろうと。実際に万博でも、警備員さんや、パビリオンのスタッフさん、イベント会社さんなどもたくさん食べてくださったんですよ」
ちなみに今後は、スポーツチームや商業施設などへの出店を予定しているという。

またこの知見を生かし、「ワンハンドBENTO」化したい食材やお弁当なども随時募集している。
「ごはんの量、おかずの塩分量とボリューム感、くずれにくさなど、実はかなり研究をして、このかたち、このメニューになっています。ぜひいろいろな食材やお弁当などとコラボしたいですね」
たとえば老舗のやきとり屋さんの弁当が「ワンハンドBENTO」になったら?とか、ご当地食材とコラボしたら?などと、妄想するだけでも楽しい。ある意味で、無限の広がりを見せるといっても過言ではない「ワンハンドBENTO」。今後にも、乞うご期待!

取材・文/ニイミユカ
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