「行列ができている店に入りたい」「口コミが良い商品を選びたい」――そんな気持ち、ありませんか?実はそれ、あなたの〝損したくない心理〟が働いている証拠かもしれません。
賢く節約しているつもりが、気づけば浪費につながることも……。その裏には、行動経済学が深く関わっています。
本記事では、行動経済学コンサルタントの橋本之克さんの著書『100円のコーヒーが1000円で売れる理由、説明できますか?』から一部を再編集し、企業が仕掛ける心理トリックと、それを見抜くためのヒントを紹介します。あなたの「無意識の選択」を変え、より良い人生を歩むための第一歩になるかもしれません。
多くの人が「儲かる確率」を見誤っている
ギャンブルは、参加するためにお金を支払って、さらにお金を増やそうとする試みです。そのために運を頼る、あるいは知識や技術を身につけるなどの行動をとります。
しかし、そうそううまい話はないので、逆に大事なお金をなくしてしまうことも珍しくありません。それにもかかわらず、やめられずに依存症に陥る人もいます。
一方、ギャンブルを主催する側は、儲けるために、さまざまな手法を用いて、ギャンブルを始めさせ、続けさせようとします。その手法が、通常の売り買いに流用される場合もあります。買い手の心理をコントロールし、お金を使ってしまうよう誘導するのです。
したがって、ギャンブルにまつわる人の心理を知っておくことは、いい買い物をするために有効です。
ギャンブルや宝くじにおいては、大半の人が散財してしまいます。しかし、初めから損をするつもりでやる人はいません。儲かるだろうと予測を立てて始めるはずです。それにもかかわらず失敗するのは、「儲かる確率を見誤る」ためです。
「感情ヒューリスティック」「比率バイアス」の悪影響
その原因の一つに、「感情ヒューリスティック」があります。
これは、物事の良し悪し、行動の選択、出現頻度や確率などの合理的に判断すべき事柄を、好き嫌いなどの感情で判断してしまう心理的バイアスです。
米国マサチューセッツ大学のシーモア・エプスタインらは、確率の判断における偏りを明らかにする実験をおこないました。対象者は赤と白のジェリービーンズが入った容器から、中を見ずに赤を選ぶ指示を受けます。
ただし、容器は2つあり、1つは100個のジェリービーンズの中に入った「大きい」容器です。もう1つは10個のジェリービーンズの中に1個の赤が入った「小さい」容器です。
当然ながら赤を選び出す確率は同じです。それにもかかわらず、多くの対象者が「大きい」容器を選びました。感情ヒューリスティックの影響によって、たくさん赤が入っている大きい容器のほうが当たりそうに感じたのです。
つまり、赤の数が多いことにより、それを選ぶ確率まで大きいと勘違いしたわけです。
このように、数字の多さによって、実際は低い確率を高く見誤る心理的バイアスを「比率バイアス」と呼ぶこともあります。もし宝くじを買う人が、感情ヒューリスティックや比率バイアスの影響を受けると何が起きるでしょう。当選本数だけを聞いて、勝手に高いかどうか判断して買うことになってしまうのです。
たとえば、2024年の年末ジャンボ宝くじで、1等の7億円は23本、2等の1000万円は184本、3等の100万円は9200本でした。合計9407本ですから、1万人近くが当選することになります。そんなに当たるなら、自分にも当た10個の赤がる可能性がある、と思ってしまうわけです。
しかし、本当に重要なのは販売数ではなく、当選の確率です。このとき発売された宝くじの総枚数は4億6000万枚でした。1~3等があたる確率は9407/4億6000万であり、計算すると0・002045%という極小の数値になります。
このような数字を知ったうえで当たると思えば、宝くじを買うのもいいでしょう。いずれにしろ、当選の本数だけで判断すべきではありません。
「確実性効果」がギャンブルや宝くじに走らせる?
感情ヒューリスティックは、これとは別の形でも確率の判断を狂わせます。
米国オレゴン大学のポール・スロヴィックらは、有用性と危険性の判断に関する実験をおこないました。まず対象者に、原子力発電、天然ガス、食品添加物などに関して、どの程度有用か、またどの程度危険かを評価してもらいます。
次に、対象者を二つに分けて、一方は有用性だけの資料を、もう一方は危険性だけの資料を読んでもらいました。その後にあらためて、評価し直してもらいます。
ここで有用性の資料を読んだ対象者は、前回以上に有用性が高いと評価しました。同時に危険性については「低い」という評価に変わったのです。危険性に関する知識に変化はないのに、「有用」だと感じただけで「危険ではない」と思ってしまったわけです。
もう一方の、危険性の資料だけを読んだ対象者の場合は、やはり「危険性は高い」と判断するにとどまらず、「有用性は低い」と評価しました。
この実験からわかることは、危険な事柄でも、そこに有用性があることを知ると、危険性の評価が甘くなるということです。この心理によって、ギャンブルや宝くじになんらかの有用性があるならば、危険性は低いと誤解してしまうことになります。
たとえば「ストレスを解消できる」「夢が買える」などの有用性があれば「大事なお金を失う」「依存症になる」などの危険性は少ないと考えてしまうのです。このように、危険性と有用性という別々のものを関連づけて判断してしまうのも、「感情ヒューリスティック」の影響です。
ここまでに紹介した感情ヒューリスティック以外にも「確実性効果」は、確率を見誤る原因となります。これは「100%の確率で絶対に何かが起こる」あるいは「起きる可能性は0%であり絶対に起きない」といった確実性に特別な価値を感じる心理です。
前項の保険に入りたくなる理由の中ですでに紹介しましたが、100%補償されることにより確実性効果が働き、保険を魅力的に見せるというものでした。
ギャンブルや宝くじにおいても、この心理は働きます。
たとえば0%よりわずかでも大きければ、それが0.001%であっても、その数字以上に大きい確率に感じます。これによって宝くじが当たる小さい確率も、実態以上に大きな可能性があるかのように勘違いしてしまうのです。
これら「感情ヒューリスティック」や「確実性効果」などの心理的バイアスの影響によって人は、ギャンブルや宝くじで儲かるだろうという誤った判断をするわけです。
自信過剰を招く「コントロール幻想」とは
以上のような「確率を見誤る」誤解とは別に、「自分の力を過信してしまう」ことにより、ギャンブルや宝くじでお金を失うこともあります。たとえば「コントロール幻想」によって自信過剰になって失敗するケースです。
コントロール幻想とは、自分の力ではコントロールできないものに対しても、自分が影響を与えることができると思い込むことです。現実的には、自分の力が及ばない事柄に対して、自分に都合のいい結果を引き起こせると錯覚するのです。この結果、ギャンブルや宝くじにおいて、客観的な意思決定ができなくなり、勝てると思い込んでしまいます。
米国ハーバード大学のエレン・ランガーは、これを証明する実験をおこないました。
対象者をA、B、Cの3グループに分け、30回のコイントスで表か裏か、各自で結果を予測します。このとき、実験の対象者にはわからないように、コイントスの結果を操作しました。
Aグループに対しては、最初の15回の答えが当たったと思わせ、Bグループには最後の15回が当たりで、Cグループには当たりがバラバラだったと思い込ませたのです。
すると、最初にいい結果を出したと信じるAグループのみ、自分の能力を過大評価しました。正解率は同じだったBとCのグループでは、このような勘違いをする人は少数でした。Aグループの対象者は、初めに当たりが続いたことにより、ある程度まで自力で結果を当てられると思い込んだのです。
コイントスのように結果が偶然に左右されるものであっても、自分の思い通りにできると思ってしまうのは、コントロール幻想の影響です。
この心理的バイアスの典型例は、ギャンブルや宝くじにおけるビギナーズラックです。初心者なのに、熟練者でも難しい勝利を手にするケースです。このようなとき、初心者の心理にコントロール幻想が働き、偶然の結果だという冷静な判断ができなくなります。単に運がよかっただけなのに、成功が続くと勘違いしてしまうのです。
2回目以降に期待が外れると、喪失感が蓄積していきます。これを払拭して、最初の不釣り合いな栄光を取り戻そうとします。その結果、余計にのめりこんでしまうのです。
競馬や競艇は「イケア効果」でハマりやすい
今までに、コントロール幻想に関する実験は数多くおこなわれています。
それらの結果から「自分で何かコントロールできる要素があるときに勘違いが起きやすい」ことが明らかにされています。何か自分で判断する部分や関われる行動があると、それが結果に影響を及ぼさなくても、コントロール幻想が生まれやすくなるのです。
たとえば、当たりくじを数多く出している売り場から、宝くじを購入すると決めている人がいます。これも、一種のコントロール幻想の影響です。当たりくじが多く出た売り場を選ぶという自分の判断にもとづいて行動したことにより、当たる確率が高まると考えてしまうのです。
「ロト7」は、1~37の数字の中から、異なる7個の数字を選ぶ数字選択式宝くじです。自分で数字を選ぶ余地があります。すると、コントロール幻想の影響を受けて、当たる確率が高いと思ってしまいます。
ギャンブルで勝率を高めようとして、自分が座る椅子の位置を決めておく、サイコロを振る前に息をかけるなど、自分なりのやり方で行動する人もいます。これらが役立つと思うのも、またコントロール幻想の影響です。
これらの事例からは「勝敗に自分の技術や判断が関わる余地がある」ギャンブルや宝くじほど、コントロール幻想による錯覚が強まることがわかります。競馬や競艇で馬やボートの選び方やレースの読み方がわかってくると、逆にハマる可能性があります。結果を自分でコントロールできるなどと勘違いしないよう、注意することが必要です。
人は、仕事や勉強などにおいて、自ら学び成長しようとします。
当然、それはいいことです。しかし、この向上心が、ギャンブルや宝くじにおいて発揮されるとハマってしまう、という皮肉な結果につながります。
自分が実際に手をかけ、時間や労力を費やして完成させたものに対し、特別の愛着を感じ、高く評価するのが、前出のイケア効果です。ギャンブルや宝くじでも、イケア効果は働いてしまうのです。
イケア効果を提唱したダン・アリエリーらは、その効果を実験で確かめています。
対象者を2つのグループに分け、一方のグループはイケアの箱を組み立て、もう一方は組み立てません。その後、両グループに、箱を手に入れるために払ってもよい金額を聞きます。すると前者は平均78セント、後者は平均48セントでした。自分で手をかけた物事に対して、人は愛着と高い価値を感じるのです。
人はパチンコにおいて、時間と労力を使って何度も通い、自分なりに工夫をして勝とうとします。その結果、身につけた知識や技術に対して、無意識に高い価値を感じます。その他のギャンブルでも、自分が関わることで愛着を抱くと、簡単にはやめられなくなります。
つまり、ギャンブルや宝くじに真面目に取り組むがゆえに、やめられなくなるのです。
「ツァイガルニク効果」が続けたい気持ちを生む
イケア効果による「やめようとしてもやめられない心理」を、さらに強めるのが「ツァイガルニク効果」です。これは、中途半端に終わった事柄に関する記憶ほど、残りやすくなる現象のことです。旧ソビエト連邦の心理学者ブリューマ・ツァイガルニクらが提唱しました。
身近な例を紹介しましょう。全15巻のコミックを読み始めて、14巻まで読み進めたときに、最後の15巻がないことに気づいたら、おさえられないほど読みたい気持ちになることでしょう。これは、ツァイガルニク効果の影響です。
また、テレビの連続ドラマで、1回の放送でストーリーが中途半端に終わることがあります。これは制作者側が、ツァイガルニク効果を積極的に使って「次回も続けて見たい」と思うように仕向けているのです。
これがギャンブルで働くとどうなるでしょう。勝ち続けて、もう面白くもなんともないといった状態にでもならない限り、「すべてやり切った」という気持ちにはならないでしょう。
当然ながら、そこまで勝ち続けられる人はほぼいません。普通は勝ったり負けたりを繰り返すものです。したがって、ギャンブルの勝負は延々と続きます。
その最中で「スクラッチの最後一つで、あの数字が出れば……」「あの馬が、鼻差分早くゴールしていれば……」など、わずかな差で負ける経験を繰り返すと、中途半端な心理状態は続きます。
ここでツァイガルニク効果が働くので、適当なところでやめようという気にはなりません。きちんと達成して終わらせようと無意識に行動します。その結果、ギャンブルをずるずると続けてしまうのです。
せっかく勝ってもムダになる「ハウスマネー効果」
ギャンブルや宝くじにおいては、さらにもう一つ大きな問題があります。すでに解説した「メンタル・アカウンティング」の影響です。これは、お金に関する判断を、狭いフレームの中で判断してしまうバイアスでした。
人は同じお金でも、入手の仕方や使い方、そのお金の名目などによって、無意識に使い方を変えてしまうのです。
この心理的バイアスを受けた行動に「ハウスマネー効果」というものがあります。これは、運で得られたお金は、苦労して稼いだお金と異なり、ムダづかいしやすいというものです。
「ハウス」とはカジノなどの賭博場を意味します。そこで使われるお金が「ハウスマネー」です。この心理が働くと、仮にギャンブルや宝くじで勝ったとしても、それを自分のお金として大事にすることはできません。儲けることができても、結局は手元に残らない可能性が高いのです。
このように考えていくと、ギャンブルや宝くじにお金を使うのは、ムダだということがわかります。いい買い物になる可能性は、非常に低いのです。
もちろん、そういった場面で心理的に働くバイアスについて知ることは、ムダではありません。かといって、それを学ぶために、実際にギャンブルや宝くじをやって、高い授業料を払うことは避けたほうがいいでしょう。ぜひ、お気をつけください。
【ポイントまとめ】冷静に「勝てる確率」を見直すこと
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いかがだったでしょうか?
「損したくない」と思う気持ちが、無意識に「誘導された選択」を取ってしまう心理トリックにつながっているかもしれません。
行列や口コミに惹かれるのも、企業が仕掛ける〝行動経済学の罠〟の一部かも?知らないままでは、賢いはずの節約が浪費に変わってしまいます。
自分の思考のクセを知り、仕掛けを見抜く力を身につけるためのヒントが詰まった一冊をぜひ書店やオンラインでチェックしてみてください!
『100円のコーヒーが1000円で売れる理由、説明できますか?』
橋本之克 著
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著者/橋本之克
行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディング ディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。
昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、戸板女子短期大学非常勤講師、文教大学非常勤講師を兼任。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)、『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)、『ミクロ・マクロの前に 今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)などの著書や、関連する講演・執筆も多数。







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