認知機能低下のサインは運転行動に現れる?
運転行動の変化は認知機能低下の早期サインになる可能性があるようだ。車両に設置したGPS付きデータロガーで収集した、走行頻度、走行時間、急ブレーキなどの運転データは、早期認知機能低下のデジタルバイオマーカーになり得ることが、新たな研究で示された。
米ワシントン大学医学部のGanesh Babulal氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に11月26日掲載された。Babulal氏は、「われわれは、GPSデータ追跡デバイスを使うことで、年齢や認知テストの結果、アルツハイマー病に関連する遺伝的リスクの有無といった要因だけを見るよりも、認知機能に問題が生じた人をより正確に特定することができた」と話している。
Babulal氏は、「交通事故のリスクが高い高齢ドライバーを早期に特定することは、公衆衛生上の重要課題だが、リスクのあるドライバーを見極めることは、既存の方法では時間がかかり困難だ」と指摘する。研究グループによると、軽度認知障害(MCI)の高齢者では、運転行動に微妙な変化が生じることが知られているが、その経時的な変化を実測して評価した研究は多くないという。
今回、研究グループは、実際の縦断的な運転データによりMCIの高齢者と認知機能が正常(normal cognition;NC)な高齢者を識別できるかを検討し、さらにその識別精度を、年齢や性別、APOE ε4遺伝子保有などの従来のリスク因子による予測精度と比較した。
対象は298人(平均年齢75.1歳、女性45.6%)の高齢者で、このうち56人はMCI、242人はNCだった。試験参加者には毎年、臨床認知症評価尺度による認知機能の評価と神経心理検査が実施され、また、APOE ε4遺伝子の保有状況についても調査された。運転データは、参加者の車両に設置されたGPS付きデータロガーにより、最長40カ月間にわたって取得された。
具体的な測定内容は、運転の頻度、時間、距離、時間帯、スピード、急ブレーキ、空間移動性(エントロピー〔訪れる場所の予測の難しさ〕、最大移動距離、行動範囲)などであった。
研究開始時点では、MCI群とNC群の運転行動にほとんど差は見られなかった。しかし、時間が経つにつれ違いが現れ、MCI群では、月間運転回数と夜間運転の頻度が減少し、また訪れる場所の多様性が低下する傾向が認められた。
また、このような運転行動データのみを使った場合、MCI群とNC群を82%の精度で識別できることが示された。運転データに人口統計学的特徴やAPOE ε4遺伝子情報、認知機能評価の結果を加えると、精度は87%に向上した。
一方、運転行動データを使用せず、従来のリスク因子のみを使用した場合の精度は76%だった。
Babulal氏は、「日常的な運転行動を観察することは、認知機能や日常生活能力を評価する上で、負担が少なく、邪魔にもならない方法だ。これにより、事故やヒヤリハットが起きる前の段階でリスクのあるドライバーを早期に発見し、介入につなげられる可能性がある。
もちろん、個人の自律性やプライバシー、インフォームド・コンセントを尊重し、倫理基準を満たすことも不可欠だ」と述べている。(HealthDay News 2025年12月1日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.0000000000214440
Press Release
https://www.aan.com/PressRoom/Home/PressRelease/5298
構成/DIME編集部
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