まるで上質なチェアのように見えるのに、実は人を乗せて走る電動モビリティ。それが、ホンダが開発した次世代電動モビリティ『UNI-ONE(ユニワン)』です。
一体どんな乗り心地なの? どうやって運転するの?? そして、他のモビリティとの違いは?? 実際に乗って確かめてきたので、そのレポートをお届けします!
まるで椅子のようなモビリティ
今回筆者が訪れたのは、2025年12月5~7日にインテックス大阪で開催された『ジャパンモビリティショー関西2025』。世界中からあらゆる乗り物が集まるモビリティの祭典です。
最新の技術やコンセプトカーを見学することができるだけでなく、試乗体験などもできるため、この日も多くの乗り物ファンで賑わっていました。
新型車両やコンセプトモデルがズラリと並んだホンダブースでは、『UNI-ONE(ユニワン)』への試乗体験会が開催されていました。
ユニワンは、ひと目見ただけでは背もたれのない上質なチェア。しかし実はコレ、誰でも簡単に運転ができる「歩行領域モビリティ」に区分される次世代電動モビリティなのです。
歩行領域モビリティとは、2023年4月に新設された新しいカテゴリーの乗り物。最高時速6km・免許不要・歩道走行可といった特徴があります。一体どんな乗り心地なのか、筆者も試乗をさせてもらうことにしました。
体重移動だけで操作できる不思議な乗り物
ユニワンの最大の特徴は、手や足を使わず、ユーザーの体重移動だけで操作をできる点です。人の動きや意図をロボットがリアルタイムで読み取り、まるで自分の脚で歩くように自然に動くことができるのです。
…とはいえ、説明を聞いただけではイメージが湧きません。そんなにスムーズに動かすことなんて本当にできるのでしょうか? 半信半疑のまま試乗を開始しました。
まずは座面の奥にお尻がつくように腰かけ、ベルトを締めたら背筋を伸ばします。この時前かがみになったり、背中をもたれかけさせたりしないことがポイントです。
右手にあるスマートデバイスのスイッチを上へスワイプすると、補助輪が解除され、ここからは体重移動のみで操作できるようになります。
まずはコース内をぐるりと一周、スタッフさんの補助付きでゆっくりと走行してみました。
上体を前へ傾けるとまっすぐに進み、曲がりたい方向へ傾けるとカーブをしながら進みます。進む方向はまっすぐ・横といった形で十字に切り替わるのではなく、どんな方向へもシームレスに切り替わります。その動きの優雅さは、まるで海の中をくらげが泳ぐようです。
身体を傾ける量によってスピードが変わるため最初は戸惑いましたが、すぐに慣れてしまうほどに操作は直感的。テクニックはほとんど必要ありませんでした。
驚いたのが反応の早さ。身体を傾けて走り始めるまでにタイムラグがほとんどないため、運転しているというよりも、自分が動いているような感覚に陥るのです。まさに、事前に聞いていたユニワンの特徴通りでした。
運転に慣れてきたら、今度はジグザグの道を曲がりながら進んでみます。
操作の簡単さと小回りの良さで、おおまかに指定通りの道の走行に成功。一切恐怖や難しさを感じることなく運転をすることができました。
大切な人と同じ目線で歩ける
これまでありそうでなかった、体重移動で操作をするというチェア型の電動モビリティ、ユニワン。一体どのような思いで開発されたのか、開発者の方にお話をうかがいました。
──これまでの電動モビリティといえば、ハンドル操作が一般的でした。ユニワンはなぜチェア型で、しかも体重移動だけで操作できるという仕様にしたのでしょうか?
「ユニワンは、既存の製品にあった『運転の難しさ』や『一緒に歩く人との距離感』といった課題を解消したいという思いから生まれました。両手を使わず感覚的に運転できるようにすることで、テストライドでは3歳から90歳まで、誰でも簡単に乗ることができました。
走行中は『ハイポジションモード』に設定されているため、立っている人とほぼ同じ目線の高さになります。これによって、隣を歩く人と会話しやすく、コミュニケーションが取りやすいんです」
──確かに、試乗中もスタッフさんと目が合いやすかったです。
「そうなんです。それに加えて、ユニワンではタイヤを車体の内側に隠す構造にしています。これによって、隣を歩く人の足や服が巻き込まれないよう、安全性も高めています。
実際に車椅子を利用しているユーザーさんからは『手を繋いで歩けるようになった』という声もいただいています」(車体の四隅に設置されたタイヤは停車中に車体を安定させるための補助輪で、走行用のタイヤは車体の内側に隠されています)
──タイヤの存在感がほとんど感じられないので、不思議な感覚でした。あらゆる方向へスムーズに進むことができましたが、どんな仕組みなんですか?
「ホンダ独自の『オムニ トラクション ドライブ システム』という車輪機構を使っています。前後に動く大きなタイヤに対して、横方向に動くための小さなベルトが無数に組み込まれていて、この2つの動きを組み合わせることで、前後・左右・斜め、360度どの方向にもスムーズに移動できるんです」
──あ、本当ですね。足回りを見てみると、黒くて小さい円柱状のモノがタイヤの形に沿って配置されているのが見えます。でも、この構造で段差や坂道を乗り越えることはできるのでしょうか?
「通常の車椅子が走れる場所なら問題ありません。むしろ狭いスロープなどは、既存の製品よりもユニワンの方が通りやすいと思います。というのも、ユニワンは路面の角度に左右されず、座面を常に水平に保つことができるんです。小回りも効きやすいので、行ける範囲はかなり広がるはずですよ」(段差は20mm以下、坂道は10度までを走行可能)
──それは心強いですね。行動範囲が一気に広がりそうです。
「テストユーザーの方からは、『車椅子では介助者に押してもらう申し訳なさがあったけれど、ユニワンなら自分で自由に動ける』という声を多くいただきました。人に寄り添うモビリティとして、もっと多くの方の力になれたら嬉しいですね」
人に寄り添う新しい移動のかたち
特別な操作を必要とせず、まるで歩くように動ける新しいモビリティ『UNI-ONE』。車椅子の代わりとして日常使いするのはもちろん、テーマパークや美術館といった施設で、歩行に不安がある方のサポートとして活用するのも良さそうだと感じました。
今回の試乗を通して強く印象に残ったのは、操作のしやすさだけではなく、人との距離を縮める設計思想。目線が合いやすいこと、隣を歩く人と自然に会話できること、そして「自分で動ける」という感覚がもたらす自信。移動手段という枠を超えて、生活そのものを前向きにしてくれる可能性を感じられました。
ユニワンのような歩行領域モビリティが当たり前のように街を走り、歩行者と並んで進む日が来たら…今より少しだけ、世界は優しくなるのかもしれません。
文/高木はるか
アウトドア系ライター。つよく、しぶとく、たくましくをモットーにバイクとキャンプしてます。 愛車はversys650、クロスカブ110、スーパーカブ90。
高木はるかの記事は下記のサイトから
https://riding-camping-haruka.com
編集/inox.







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