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「天音かなた」卒業の衝撃、人員拡充を急ぐカバーはマネジメント体制を立て直せるか?

2025.12.16

相次ぐ「ホロライブプロダクション」からのタレントの卒業で、運営会社カバーの経営課題が浮き彫りになってきました。今期は増収営業増益を予想しているものの、上期は2割の営業減益。業績にも黄色信号が灯っています。

一方、ANYCOLORは今期2度目の通期計画の上方修正を発表。物販だけでなく、イベントやプロモーションも育ってきました。

人員強化を図るために今期営業利益は微増

「ホロライブ」に所属していたチャンネル登録者数168万の天音かなたが、12月2日にまさかの卒業を発表しました。

今年は登録者数が130万を超えていた紫咲シオンが卒業し、同じく130万規模の沙花叉クロヱが配信活動を終了。過去にも、がうる・ぐらなどの大物VTuberが卒業していました。

カバーは持続的な成長に向けた体制拡充などを目的に「先行投資的支出」30億円を、2026年3月期に計上。制作能力の拡充に必要な人件費などの先食い予算を設けるため、今期の利益が一時的に下押しされるとの計画を発表していました。

2026年3月期は、通期の営業利益が前期比2.5%増の微増となる見込みです。

天音かなたの卒業メッセージはファンを驚かせる内容でした。卒業を決めた理由として以下3つを挙げたのです。

「当初想定された領域を大きく超える業務外のタスクが何度も発生したこと」

「その結果、自分の活動が回らないほど負荷が集中する期間が続いたこと」

「仕事の負荷による心身の状態から活動の維持が難しいと感じるようになったこと」

こうした状況を数年前から事務所に相談していたものの、解決には組織全体の仕組みの見直しが必要になるため、健全な活動を続けることが難しく、卒業を決めたというのです。

これまでのVTuberの卒業は「事務所との方向性の不一致」といったものが大半でしたが、活動を続けるのが難しいほどの業務負荷がかかっているという具体的な内容に踏み込みました。

一部のタレントにとって、事務所のマネジメント体制が満足できるものではなかったことが明らかになったのです。人気タレントの離脱を防ぐためにも、マネジメント体制の強化が必要。

カバーは今期上期が2割もの営業減益となりましたが、これはグッズの過去生産商品の評価減5.5億円を計上したことが主な要因。大物タレントが卒業すると一部在庫品の販売が難しくなり、計画にも狂いが生じるという悪循環に陥ることにもなりかねません。

誰でもVTuber配信ができる時代に

一連の出来事には既視感があります。YouTuber事務所UUUMやVAZで相次いだ有名YouTuberの離脱です。

このときは、多くのタレントから広告収入からマネジメント手数料が引かれることに疑問を呈する声があがりました。テレビタレントと違い、YouTuberは企画から撮影、編集、放送までを自分で行うことができます。事務所に所属するメリットが低いと見られたのです。

一方、VTuberは事務所がキャラクターを作り、他のタレントとユニットを組んで売り出すなど、YouTuberとは扱いがやや異なります。

しかし、IRIAMや17LIVEの登場で個人でもVTuberになれるプラットフォームが誕生しており、無料の配信ソフトOBSを使えばゲーム実況や雑談配信など本格的な活動が可能です。VTuberを取り巻く環境は変化しました。

ANYCOLORの「にじさんじ」には「ROF-MAO」のように、絶大な人気を誇るユニットが存在します。「ホロライブ」は一人で稼げる正統派アイドルを育てるような方針をとってきたため、人気者同士を組ませたユニットはあるものの、それによってファンの熱が2倍にも3倍にも高まるようなグループには欠けている印象があります。

ただし、「ホロライブ」には「箱推し」と呼ばれる、プロダクション全体を応援するファンがついています。これがカバー最大の強みと言えますが、「箱推し」は推せる個人タレントあってのもの。人気VTuberが卒業してしまうと、「箱推し」の熱量も失われてしまいます。

カバーには602人の従業員がいます。所属しているVTuberは87人。ANYCOLORは596人の従業員に対して、VTuberは170人。カバーが人員強化を図っているのは間違いなく、マネジメントを強化する素地そのものは整っています。

組織として、タレントが満足できる体制を作れるかどうかが目先の課題になるのではないでしょうか。

日常生活の中に溶け込むVTuber

ANYCOLORは12月10日に今期2度目の通期業績の上方修正を発表しました。売上高は前期の1.2倍、営業利益は1.3倍程度に拡大する見込みです。

「にじさんじ」は利益率の高い物販が好業績をけん引してきました。最近では、イベントとプロモーションの伸びが顕著。

2026年4月期2Qのイベント事業の売上は、会社の予想上限である4億円を超える5億1100万円でした。「にじさんじ WORLD TOUR 2025 」のネットチケット販売が想定を上回る反響だったといいます。

プロモーション事業の売上は前期の1.2倍となる21億4900万円。幅広い業種で案件を獲得しており、花王エッセンシャルが男性ユニット「VOLTACTION」とコラボレーションしています。

サブカルチャーという位置づけが大きかったVTuberですが、ブランドイメージを重視する大手消費財メーカーがプロモーションで起用するなど、より身近な存在になっているように感じます。

ANYCOLORは物販が好調で会社の成長に貢献していますが、それ以外の事業が拡大することで、更なる成長に期待ができます。

プロモーション事業は特にその潜在性を持っているようにも見えます。

文/不破聡

Author
大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融、経営戦略を中心とした記事を執筆中。得意分野は外食、ホテル、映画・ゲーム、エンターテインメント業界など。

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