今や世界中で愛されている日本食。その中でも寿司の人気は高く、ハンバーガーやステーキなど肉食系の食事が多いグアムでも島内にある日本食レストランや日本の食材を扱うマーケット、スーパーの惣菜コーナーでCalifornia Roll(カリフォルニアロール)やTempura Roll(天ぷらロール)などの巻き寿司を買うことができます。
しかしこれらの寿司は日本のスーパーやコンビニ、回転寿司の店に行けば売られているようなオーソドックスなものばかりで、今回ご紹介するグアムの進化形の寿司(以下「SUSHI ROLL」と表記)とは一線を画すものです。

日本食材を扱う店で売られている巻き寿司(9.95ドル、約1550円)
海苔は得体の知れない不気味なもの!?
まずグアムのSUSHI ROLLは見た目から違います。
グアムの先住民CHamoru(チャモロ)の血をひく人たちをはじめ、米軍関係のアメリカ人など島内に住むほとんどの人たちは、見た目が黒一色の食べものを得体(えたい)の知れない不気味なものとみなします。
そのため黒々とした海苔が外側にぐるっと巻かれた日本の巻き寿司スタイルを好みません。そのような理由からグアムのSUSHI ROLLは酢飯(以下「シャリ」と表記)が表側に巻かれた裏巻きスタイルになっているものがほとんどです。
彩り鮮やかなグアムのSUSHI ROLLは激辛揃い
グアムのSUSHI ROLLは見た目だけでなく、寿司ネタにも違いがあります。日本の太巻きといえば、かんぴょうや椎茸を煮たものに厚焼き卵、桜でんぶなどが芯に巻かれたものが一般的ですが、グアムでかんぴょうや椎茸を巻いた寿司を見たことはほとんどなく、芯に巻かれるのはサーモンやハマチ、海老、アボカドなど彩り鮮やかなものばかりです。
そして細巻きはマグロを使った鉄火巻きやねぎトロ巻き、カッパ巻きなどが日本の定番ですが、激辛好きが多く暮らすグアムで好まれるのはマグロをスリラッチャソースやココナッツベースの激辛ソースDinanche(ディナンシェ)で漬けたSpicy Ahi/Tuna(スパイシーアヒ/ツナ)を使ったSUSHI ROLLです。
またカッパ巻きに似たKappa Sashimi(カッパ刺身)は、きゅうりが芯に巻かれているのではなく、きゅうりがマグロ、ハマチ、サーモンなどの寿司ネタを巻いたシャリが使われていないサラダ感覚のSUSHI ROLLです。

Donne(ドニ)というグアム産の唐辛子にココナッツや玉ねぎ、にんにく、茄子、インゲンなどの野菜とカラマンシーを加えて作るディナンシェは燃えるように辛い汎用性の高いソース
グアムのSUSHI ROLLにはどんなものがある?
はじめにご紹介するのはフレンチをベースにアジアンテイストの料理を提供するRoy’s Restaurant (ロイズレストラン)です。
日本でうなぎといえば蒲焼きや白焼きのイメージが強い食材。そのうなぎを油で揚げてカツにすることに抵抗を感じる人たちは多いのではないでしょうか。さらにそのうなぎのカツを寿司ネタにするのです。
ロイズレストランが手がける「CATERPILLAR ROLL(キャタピラーロール)」は、衣をつけて揚げたUNAGI KATSU(うなぎのカツ)、MUSHROOM KATSU(マッシュルームのカツ) とスパイシーアヒを海苔で巻いたものを油で揚げた、アメリカでは一般的なFRIED ROLL(フライドロール/食材を油で揚げて作る寿司)。
これに合わせるのはスリラッチャソース、わさびソース、うなぎのタレの3種のソース。そしてその上からオレンジと緑の2色のトビコを散りばめてDresser(ドレッセ/盛り付け)した姿はキャタピラーには到底見えない、フレンチの醍醐味漂う一皿です。

Haute Cuisine(オートキュイジーヌ)の真髄を感じさせる複雑な味付けと手の込んだ華やかな飾り付けがなされたSUSHI ROLL
うなぎのカツを使ったFRIED ROLLがどのような味か予測不能でしたが、サクサク感の強いうなぎのカツにコクのあるわさびと激辛のスリラッチャソース、しょうゆと砂糖のバランスが絶妙なうなぎの甘辛ダレがアクセントを添えた一皿はフランスの美食の粋(すい)を集めた寿司というよりは、激辛ソースがかかった揚げたての天ぷらとタレを絡めたうなぎのカツを具に入れたおにぎりのような味でした。
フレンチベースの「怒れる龍」は爆竹級の凄まじさ
2皿目の「ANGRY DRAGON FUTOMAKI(アングリードラゴン太巻き)」は、1993年に料理界のアカデミー賞といわれるジェームズ・ビアード賞を受賞したロイズレストランの創始者Roy Yamaguchi(ロイ・ヤマグチ)氏が考案したうなぎとアボカド、味噌焼きした鱈、きゅうりを巻いたSUSHI ROLLです。
ほんのり味噌が香るふっくらジューシーな鱈、郷愁をよび起こす甘辛ダレがおいしいうなぎ、濃厚でクリーミィなアボカドとシャキシャキ食感のきゅうりの調和が素晴らしく、トッピングのイクラ、海藻、ぶぶあられが華やかさを引き立てる一皿です。
と、ここまではドラゴンが頭をのぞかせる要素がまったく感じられないSUSHI ROLLでしたが、その上にたっぷりGarniture(ガルニチュール/ソースがけ)されたファイヤークラッカー(爆竹)とわさびバターの2種類のソースと一緒に食した途端、口の中で「怒れる龍」が気炎を吐きながら暴れているのではないかと思えるほど後からあとから辛さが押し寄せて来る一皿に激変しました。

食すと、火を吐く龍になれそうな辛さのSUSHI ROLL
激辛SUSHI ROLLのあとの〆(しめ)は、ガリと練わさびが花のようにPimper(パンぺ/彩りを添える)された皿に盛られたH.K. TORIOのなかの「California Maki(カリフォルニア巻き)」。
カニかまをマヨネーズで和えて裏巻きにした巻き寿司と聞くと、ほかの店と同じオーソドックスなカリフォルニアロールを想像されるのではないかと思います。
しかしロイズレストランのカリフォルニア巻きはトッピングだけでなく、内側にも十分過ぎるほどのトビコが使われているため、どこを食べてもプチプチ、プチプチと魚卵の弾ける食感と風味がせクセになりそうなおいしいSUSHI ROLLでした。

SUSHI ROLLの切り口。左からアングリードラゴン太巻き、カリフォルニア巻き、キャタピラーロール
グアムに進化系SUSHI ROLLをもたらした店のイチ推しメニューとは?
続いてご紹介するのはグアムの首都ハガッニャをはじめ島内2箇所のショッピングセンター内で店を展開する、斬新でユニークな寿司が魅力のSushi Rock(スシロック)です。

左からチェリーブロッサム14ドル(約2190円)、クリスピー ロータス ロール13ドル(約2030円)、フレイミングドラゴンロール19ドル(約2970円)、ミッキーマウスロール15ドル(約2340円)
大輪の花の8枚の花弁が皿の上で開いたような見た目の「Cherry Blossom(チェリーブロッサム)」は、サーモンとアボカドを芯に、外側にはマグロの赤身を巻いたSUSHI ROLLで、ごま油の香りが食欲をそそります。
そしてチェリーブロッサムのサーモンとマグロを反転させたような「Mickey Mouse Roll(ミッキーマウスロール)」はその名の通り、世界中で有名なねずみのキャラクターを模したキッズに大人気の一皿です。
チェリーブロッサムは皿の四隅を縁取るスリラッチャソースと木の葉をかたどったわさびをつけて、ミッキーマウスロールはねずみの大きな耳(レモン)をたっぷり絞って、それぞれ中央に盛られたリーフミックスと一緒にいただくのがおすすめとのことで早速食してみました。


遊び心が詰まったかわいらしい見た目に仕上げるため、敢えて山型に握られたチェリーブロッサムとミッキーマウスロールは生野菜と一緒に食べるヘルシーな一皿
スリラッチャソースの唐辛子の辛みとにんにくの旨み、それにわさびとしょう油のコクが加わった激辛ソースにつけると、不思議なことに魚の臭いがまったく感じられなくなりました。
これは唐辛子やわさび、にんにくなどの辛み成分と魚の臭み成分であるトリメチルアミンが反応して臭いをマスキングするためだそうです。
続いての「Crispy Lotus Roll(クリスピーロータスロール)」は、スパイシーマヨソースで和えたカニかま、スパイシーツナと細かく刻んだ蓮根をつくね状に丸めたものとシャリを素揚げしたれんこんで挟み、上からうなぎのタレをベースにしたスシロックのオリジナルソース(以下「うなぎソース」と表記)をかけたFRIED ROLL。
水煮または冷凍のれんこんを使っているためか「Crispy(クリスピー/カリカリ、サクサクした食感)」に程遠かったのが残念でしたが、つくね団子の激辛さをうなぎソースがうまい塩梅に中和したバランスの良い一皿でした。

れんこんの挟み揚げを彷彿とさせる見た目のFRIED ROLL
50種類以上あるアメリカンな寿司のなかで不動の人気を誇る「FLAMING DRAGON ROLL(フレイミングドラゴンロール)」は、2025年4月に14周年を迎えたスシロックの一号店、11月に9周年を迎えた二号店の両店舗ともにイチ推しのSUSHI ROLLです。
メラメラと燃え盛る炎をまといながら近づいてくる威厳ある2本の角と大きく立派な尾を持つ銀色の物体はアルミホイルでドラゴンをかたどったSUSHI ROLL。
約2分後火が鎮まったあとそぉっとアルミホイルを開くと…、
うなぎソースとアルコール分が燃焼したウォッカの芳醇で馥郁(ふくいく)とした香りが匂い立ちます。そしてなかをのぞくと、鱗状に彩り豊かに並べられたトビコ、うなぎ、アボカドと、芯には海苔で巻かれた海老の天ぷらとカニかまが入っています。


薄暗い店内で真っ赤に燃え盛るドラゴン
ほんのりと温かくて香ばしい、まったりとした味わいのSUSHI ROLLは、日本人の既成概念を根底から覆(くつがえ)すエンターテイメント性に長けた驚きの一皿で、誕生日など祝いの席に最適です。
陣内 真佐子(米国領グアム在住ライター)
文筆家/翻訳家。1996年3月より家族と共にグアムに移住。グアム大学で3年半の学び直し生活を送った後、00年に米国永住権を取得しグアム政府観光局などに勤務。10年にはグアム政府公認ガイド資格を取得。現在はラジオ出演のほか各種雑誌やウェブ記事の執筆や翻訳活動をしている。海外書き人クラブ会員。https://www.kaigaikakibito.com/







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