寄付文化が根付きにくいといわれる日本だが、最近になってSNSなどを起点にして「寄付」に高い関心が集まる例をよく目にする。
その代表例が、希少がんで亡くなった22歳の若者が残した投稿をきっかけに、がんの研究機関・医療機関への寄付が数千万円も集まり、NHKや新聞も取り上げるほどの広がりとなった出来事だ。
全国の書店で、誰もがサンタクロースになれる
起点となった投稿「グエー死んだンゴ」は、2025年の流行語大賞 医療部門にも選ばれた。また2025年11月20日、東京都立小児総合医療センターがほしいものリストのURLを公開したところ、一晩ですべての商品が寄付された出来事がネットニュースに紹介され、それを見た人からもさらに寄付が相次いだという。
こうしたニュースを見るたびに思い出すのが、ある経済人にインタビューした時のエピソードだ。
その人はうまくいかないことが続いた時、運気を回復させるために、積極的に寄付やボランティアなどをするという。しかも、同じことをする人が周囲に多いというのだ。
もしかしたら、単に自己肯定感が高まることによる効果なのかもしれないと思いつつ、それならそれでいいから何かやってみたいと思っていた時に、SNSで偶然目にしたのが「ブックサンタ」だった。
「ブックサンタ」は貧困や被災、病気といった困難を抱える子どもに自分がすすめたい本をクリスマスプレゼントとして寄付することができるシステム。
2017年に認定NPO法人「チャリティーサンタ」(以下「チャリティーサンタ」)が始めた活動で、現在、全国47都道府県、1,851店の書店が協力しており、累計で約40万冊の本が集まっているという。
やり方は簡単で、協賛している書店で本を購入し、会計時に「ブックサンタでお願いします」と伝えるだけ。それならすぐにでもできそうだし、贈る本を選ぶのも楽しそう…と思ったが、よく考えると、(親戚の子どもならともかく)会ったこともない子どもに本を選ぶというのはなかなか難しい。自分が子どもの頃に読んで感動した本でも、今の子どもには受けないかもしれない。どうせ同じ金額を出して贈るなら、がっかりされたくないし、より喜んでもらえる本にしたい…。そこでブックサンタを運営している「チャリティーサンタ」に、喜ばれる本、求められているのに寄付が手薄なジャンルの傾向を聞いてみた。
Q 寄付が手薄なのは、どんな本?
例年、小学生向けの本が不足する傾向でしたが、寄付者の皆さまのおかげで今年は解消されつつあります。今年は0~2歳の乳児向けの本が足りない傾向にあります。特に破れにくい、ボードブックだとありがたいです。
Q 逆に供給が多いのは?
傾向として、ベストセラー・ロングセラーの本は多く集まりやすいですが、「需要と供給のバランス」という課題もあります。読み継がれている素敵な書籍だからこそ、ご家庭でもすでにお持ちになっている場合があり、重複してしまうケースがあるからです。
Q 子どもたちに人気があるのはどんな本?
本を選んでいただく際は子供たちが「プレゼントとして楽しめる」という視点を持って頂くといいかもしれません。物語はもちろん、雑学や図鑑、実用書などが多く喜ばれています。以下、現場の選書スタッフ(子ども達の希望とマッチングして、本を選んでいるスタッフ)より、「こんな本が必要」との声をまとめたものです。
◎小学生の「好き」を応援する実用書…おしゃれ・ヘアメイク、お菓子のレシピ本 ・工作・手芸・折り紙などのクラフト本、マンガの描き方
◎中高生が没頭できる「物語・小説」…王道の推理小説・ミステリー、ファンタジー、医療・学園モノ ・ライトノベルや映画化作品の原作本など、話題のエンタメ小説
◎音楽・スポーツなど「好きなこと」を深める本…音楽・ダンス・スポーツなどをテーマにした小説 ・楽器やトレーニング・身体づくりに関する実技書
◎高学年~中高生への「知恵」の贈り物…小学生~中高生向けの歴史・世界・社会の本 ・医療にまつわる本、哲学や楽しみながら学べる英語の本
◎乳幼児~小学生向けの遊びの本…乗り物系・お姫さま・人気キャラクターの本 ・迷路、なぞなぞ、謎解きなどの直感的に楽しめる本
Q 本をもらった子どもたちの感想は?
本を受け取ったご家庭の保護者や子ども達からは、新品の本を持つ喜びや、誰かに見守られていることへの感謝の気持ちが伝わる感想が多数寄せられています。以下はその一部を抜粋したものです(誕生日にお届けしたご家庭中心)
◎保護者からの声
「『俺、この本知ってる。気になってた!』プレゼントを開けた瞬間の一言でした。(中略)長男はいつも遠慮をし、欲しいものを我慢してしまいます。(中略)今回、初めて本をいただき、それを開けた瞬間の息子の顔は忘れません!」(14歳/贈られた本「栄光のバックホーム」)
「封筒を開けた瞬間に嬉しい悲鳴を上げる息子でした。よっしゃあ!とすぐ読み始めて夕飯を食べるのを忘れる忘れるくらいでした。」(7歳/贈られた本「はたらく細胞 人体のふしぎ図鑑」)
「内容が大好きな歴史の本だったので嬉しかったのと、家族でなく、社会に自分のことを気にかけてくれる方がいらっしゃることが嬉しかったようです。」(16歳/贈られた本「海を破る者」)
「うお~これは勉強になりそうな図鑑じゃね!ありがとうって言っていました。これからの夢の大工に向けての専門的な知識が学べる本で有り難かったです。ありがとうございます。」(16歳/贈られた本「木を知る図鑑」)
◎子どもからの声
「ずっと欲しかった本でした。このシリーズは大好きですが、いつも図書館で予約して借りていたので、自分の本にすることができて、とてもうれしかったです。大事に本棚にしまって、何度も読んでいます。」(13歳/贈られた本「5分後に意外な結末Q」)
「私は絵を描くのが大好きで美術部に入っています。悲しい時や辛い時、お母さんとケンカした時などにこの本を見ながらイラストを描くと心が落ち着きます。またガンバローって思います。」(14歳/贈られた本「キュンとかわいいボールペンイラストBOOK」)
本は子ども達にとって、「心を休める避難場所」
ブックサンタの発案者は、「チャリティーサンタ」代表理事の清輔夏輝(きよすけ・なつき)氏。もともと「チャリティーサンタ」は2008年に、その名のとおり、全国からボランティアの「サンタクロース」を募り、子育て家庭にプレゼントを届ける「サンタ活動」からスタートした。6歳の頃、自宅にサンタ来てくれた思い出が忘れられなかった清輔氏が「今度は自分が届ける方になりたい」と思ったのが、活動の始まりだという。
現在この「サンタ活動」が「チャリティーサンタ」のメイン活動のひとつとなっており、札幌から沖縄まで30以上の都道府県で行われ、参加したサンタは2万人超え、プレゼントを届けた子どもは5万人以上にのぼるという。※詳しくは「サンタ活動」
ブックサンタは、清輔氏がチャリティーサンタの活動の一環としてネパールを訪れていた時に、青年海外協力隊に参加していた大手出版取次会社の日本出版販売(以下、日販)社員の女性と知り合ったことから始まる。彼女の「子どものために何かしたい」という願いと、サンタ活動の中で本のプレゼントのニーズの高さを感じていた清輔氏の願いが一致した。
「本は子ども達にとって、『心を休める避難場所』になり、『世界を広げる冒険の地図』『未来を切り拓く力』になります。特に、経済的な事情や家庭環境から、本に触れる機会の少ない子ども達にとって、クリスマスや誕生日に贈られる『自分だけの1冊』は、計り知れない価値を持ちます。私たちは、どんな境遇にいる子どもにも『自分だけの新品の本』が贈られ、本の持つ力を通じて『自分は大切にされているんだ』と感じられる社会を目指しています」(清輔氏)。
こうした清輔氏の願いは、日販の「書店を魅力的な場所にしたい」という目的にも見合っていたため、当時、全国に58店舗あった書店チェーン「リブロ」でブックサンタを試験運用することが決まったという。
本はあるけれど、それを送る「ガソリン」が足りない
前述のとおり現在、全国47都道府県、1,851店の書店が協力して活動は拡大しているが、新たな課題が浮上している。それは、寄せられる本の寄付のペースに、活動を支える運営資金が追いついていないということ。
書店から送られる本がそれを望む家庭に送られるまでには多くのプロセスがあり、そのすべてに輸送費や人件費、倉庫代などのコストがかかる。2025年度の活動予算は、合計で7千535万円の見込みで、の資金を集めるために現在、camp-fireで2千万円のクラウドファウンディングを行い、それ以外にも公式サイトや企業などからの協賛・寄付、書店からの参加費、民間助成金などの収益を合算して、なんとか活動が成立しているとのこと。
この活動支援のために今年は新たな取り組みとして、ブックサンタ参加書店でチャリティー付きのオリジナルしおりを販売している。「本を選ぶ自信や時間がない」という方は、このしおりを購入するだけでも支援になる。
清輔氏は「寄付冊数が増え、本当に温かいご支援に感謝しております」と述べながらも、まだ道なかばだと感じている。
「私たちの調査では、経済的困難や被災、病気などでクリスマスや誕生日のお祝いが難しかったり、準備をつらいと感じてしまったりするご家庭の子ども達が推計200万人いると考えております。まずその内の25%の50万人に、クリスマスと誕生日に毎年2冊を届けることを目標にしています」(清輔氏)。
そのために前述のように気軽に参加できるチャリティーしおりの販売などの新しい支援の形を模索しつつ、仕分け作業の効率化を図る機械の導入や、オンライン書店での選書の充実などを図っている。「クリスマスという特別な日だけでなく、年間を通じて一人でも多くの子どもたちの心に『愛された記憶』を届けるため、活動に取り組んで参ります」(清輔氏)。
個人的には、自分で実際にブックサンタ用の本を探してみて、日販の「書店を魅力的な場所にしたい」という目的を体感した。普段は自分の興味のあるジャンルの書棚しか見ていないが、「どんな本が子どもに喜ばれるだろう」と思って本を探すと、意外な発見があり、リアル書店ならではの面白さを再認識することができた。目的が違うと書棚が全く違って見える面白さは、本好きの人ほど大きいのではないだろうか。本好きの人は近くにブックサンタの参加店があったら、ぜひ参加して見て欲しい。もしかしたら、来年の運気が上がるかもしれない。
取材・文/桑原恵美子
取材協力/ NPO法人「チャリティーサンタ」
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