万博をきっかけに考えたい「喫煙とマナーの落としどころ」
第1回「万博の奮闘と、未来への教訓」
盛況のうちに幕を閉じた2025年大阪・関西万博。大きな事故や混乱なく184日間の会期を終え、会場の清潔さ、安全性、さらにはスタッフの〝おもてなし〟も外国人観光客から好評だった。一方、舞台裏では気になる動きもあった。「完全禁煙」の旗印で始まった万博会場に、2025年6月28日、喫煙所ができたのだ。
大阪の喫煙対策は「世界一厳格」
2025年1月には大阪市が路上喫煙防止に関する改正条例を施行、これにより、それまで一部地域に限定されていた路上喫煙の禁止が大阪市内全域に拡大され、違反者への過料徴収が開始された。同年4月には大阪府が受動喫煙防止条例を全面施行、飲食店など様々な場所が原則屋内禁煙となった。
いずれも大阪・関西万博を見据えた動きだったと言われている。内容は国が定めた改正健康増進法よりも厳しい基準で、大阪は 「世界一喫煙に厳しい都市」と報じられた。
そんななか、大阪・関西万博は府や市よりもさらに踏み込んだ方向性を示した。「完全禁煙」を掲げたのだ。
ところが……ルールがあれば皆従うかと言えば、そうでもない。万博の関係者・Aさんが話す。
「工事期間中は、各国のパビリオンの敷地内では喫煙可能で、目立たない場所に喫煙所を設置することができたんです。しかし、外国ではたばこに関する意識も日本と異なるのでしょう、開幕後、パビリオンの裏手などに勝手に喫煙所のようなものを設け、たばこを吸う方たちがいたのです」
「完全禁煙」が招いた「ルール違反」
万博の関係者・Bさんに聞けば、日本人の中にもたばこを吸う場所がなく困っている方たちがいたという。
「万博の会期中、パビリオンの設置や撤去などで来場した工事関係者の方たちから『休憩中にたばこが吸える喫煙所がないのはつらい』という声があがっていたらしいんです」
さらには、ルールやマナーを守りたい来場者も不便をすることになった。万博会場内は「完全禁煙」だから、喫煙所は東ゲートを出た外側にしかなかった。Bさんが話す。
「喫煙所はいつもすごい人口密度でしたよ。煙が周囲に漂って少し白く見えるくらいで、スタッフの間でも“あの辺の煙、すごいよね”と話題になってましたね」
こんな状況だから、こっそりたばこを吸う人も出現した。喫煙所がある東ゲートから最も遠く、歩いて20~30分かかる西ゲートの付近には、人目に付きにくい死角のような部分に吸い殻が散見されるようになったのだ。
皮肉にも「完全禁煙」が喫煙を管理不能な状態へ追いやり、結果としてたばこの投げ捨てや路上喫煙等のルール違反を招いてしまったと言える。この事態を受け万博協会は、開幕から2か月半を経た6月28日、会場内に2カ所の喫煙所を設置した、というわけだ。
世界のデータが示す「吸いたい人は吸いたい」
では、どうすればよかったのか。興味深いデータがある。実をいうと、たばこに関する規制を強めても、たばこを吸う人の割合は大きく落ちはしない。国が健康増進法で喫煙の規制を始めたのは2003年のこと。しかしその後も一定数の愛煙家たちがいるのだ。

なお、これは「たばこに厳しい国」というイメージがあるシンガポールでも変わらない。同国では、1970年から公共の場所での喫煙規制等を行ってきた。路上喫煙の罰金は、最高で日本円換算10万円超と高額、もちろんたばこには高額な税金もかかっている。しかし喫煙率は男女計約16.4%(WHOによる報告書より、2024年)。これは日本の14.8%(厚生労働省「国民健康・栄養調査」より、2024年)とあまり変わらない。
やっぱり吸いたい人は吸いたいのだ。
では、シンガポールのたばこを吸う人たちはどうしているのか? 答えは簡単。シンガポールの街には、「喫煙所など100mも歩けば見つかる」と言われるほど多くの喫煙場所が設定されているのだ。「オーチャード・ロード」という人通りが多いメインストリートに至っては約2.2kmの総延長に対し、約40か所程度の指定喫煙場所が設けられている。割り算すれば55mに1か所となる。
「好きなものに税」の歴史に習うべき?
なお、たばこを吸う人は多額の税金を払ってもいる。例えば大阪市は、令和6年度(2024年度)の市たばこ税収を約308億円と見込む。これらは地域課題であればなんでも使える、貴重な「自主財源」だ。
であれば「完全禁煙」を無理に進めるより、お酒や車と同様、税をかけたうえで厳格なルールを儲け、その税の一部をルールを守るためのインフラづくり=喫煙所の設置や管理にまわす、というのはどうだろう? 実は総務省も令和2年以降、毎年各自治体に対して、たばこ税を活用した喫煙所整備を促す旨の通知を発出している。
ちなみに大阪府が実施した「令和5年度調査結果【府民への意識調査】」によると、屋外分煙所の設置に対し「進めるべき」もしくは「一定の配慮があれば進めてもよい」と回答した方の割合は約7割にのぼった。もちろん、たばこを吸わない人も含めた調査結果だ。
Q.オフィスや飲食店等の施設における原則屋内禁煙が進むにつれ、施設周辺の路上喫煙 が増加する懸念があります。屋外に分煙所の設置を進めることについて、あなたはどう思いますか
最後に、歴史を紐解きたい。
英国では清教徒革命後、「賭け事や娯楽は不健全」とトランプが禁止された。しかし民衆が為政者に必ず従うかと言えばそうでもなく、当時の人々はこっそりトランプを楽しみ続けた。
そんな中、成功したのはトランプの製造に対する課税だった。
余談だが、納税の証としてトランプのエースに印が押されたため、偽造防止を目的にこのカードだけは特に模様が複雑になった。今もスペードのエースが目立つのはこの名残り。そしてトランプからの税収は英国を財政難から立ち直らせるほどの効果を見せた。
2027年には横浜で国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)が行われるなど、これからも日本では大規模な国際イベントが控えている。タバコの規制が「ゆるい」国の人も来場し、長時間滞在するはずだ。
そんな中、賢い選択は「禁止」なのか――?
取材/文 夏目幸明







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