2026年1月に施行される下請法改正後の新法「中小受託取引適正化法(取適法)」は、中小企業との取引の公正化を目指します。主な変更点は、取引の対等性を重視し、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」「手形払などの原則禁止」「振込手数料の負担禁止」という3つの新ルールが追加されたことです。これにより、適正価格での取引と資金繰りの安定化が図られます。また、保護対象には特定運送委託の受託者なども追加されます。
目次
日本の産業を支える中小企業や、フリーランスとの取引での公正さを保つため、「下請法」が、令和の商慣習に合わせて大きく生まれ変わります。
新しい法律の正式な略称が「中小受託取引適正化法」。通称「取適法」と呼ばれます。
もちろん、法律名の変更や適用範囲の拡大も重要な変更点ですが、特に注目したいのが、「新たな禁止行為」が追加されたことです。
そこで、ビジネスパーソンが知っておかなければならない、「取適法」に加わる3つの新ルールを分かりやすく解説します。
中小受託事業者だけではなく、発注する立場にあるみなさんも、新しい取引ルールを理解し、2026年に向けた準備を進めましょう。
「取適法」への改正で加わった新ルール3つ
今回の改正で新たに禁止対象へ追加された重要事項は以下の3点です。
これらは、中小事業者が適正な価格で取引でき、確実な資金調達ができるよう、支払いをめぐる課題を解決することを目的としています。

■1.協議に応じない一方的な代金決定の禁止
これは、物価高騰や人件費の上昇を背景に、中小受託事業者(下請事業者)が価格改定の協議を求めたにもかかわらず、親事業者側がまともに応じない、あるいは一方的に代金を決定する行為を禁止するものです。
具体的には、以下の行為が禁止されます。
1.協議に応じないこと
中小受託事業者がコスト増などを理由に代金改定の協議を求めたにもかかわらず、親事業者が正当な理由なく協議に応じないこと。
2.必要な説明・情報提供をしないこと
協議に応じたとしても、コストの内訳など中小受託事業者に発注内容(給付の内容、代金額、支払期日、支払方法)といった内容を、書面や電子メールなどで明示す必要があります。
代金決定に必要な情報や説明を親事業者が行わなければなりません。
3.一方的に代金額を決定すること
上記1または2の行為を通じて、親事業者が一方的に代金を決定し、中小受託事業者の意向が反映されない状態を作り出すこと。
この新ルールは、親事業者に対し、「協議の場を設けること」と「誠意をもって交渉に応じること」を強く義務付けるものであり、適正な価格転嫁を促進する上で最も重要な改正点と言えます。
■2.手形払などの禁止
従来の取引では、親事業者が手形を発行し、その手形の換金(現金化)に際して受託事業者が割引料や手数料を負担することで実質的な支払いが遅延したり、満額を受け取れなかったりする問題がありました。
取適法では、手形による支払いを原則として禁止します。
さらに、手形以外の支払い手段(電子記録債権やファクタリング)の使用でも、支払期日(最長で、発注した物
品などを受領した日から起算して60日以内)までに代金満額相当の現金を得ることが困難なものは、不適当な給付方法として規制されます。
・支払期日までに、代金の満額相当の現金を得ることが困難なもの
・割引料や受取手数料を中小受託事業者に負担させるもの
*ただし、あらかじめ書面などで合意の上、製造委託など代金の支払期日までに当該負担分を委託事業者が補填し、中小受託事業者が製造委託など代金の支払期日に代金満額相当の現金を受け取れる場合を除く
この規定により、親事業者は、原則として現金または中小受託事業者が満額を速やかに現金化できる手段での支払いが義務付けられます。資金繰りの安定化を図る上で、受託事業者にとって大きなメリットとなります。
■3.振込手数料を負担させることの禁止
振込手数料の負担は、代金から手数料を差し引いて振り込む形で、慣習的に中小受託事業者に負担させられてきた事例が多く存在しました。これは、実質的に発注時に決定した代金を後から減額する「不当な減額」にあたります。
取適法では、この不当な減額行為の一環として、親事業者が代金を中小受託事業者の銀行口座へ振り込む際、振込手数料を中小受託事業者に負担させ、代金から差し引いて支払う行為を明確に禁止しました。
これは金額としては小さくても、積み重なれば中小事業者の利益を圧迫する要因となります。今回の改正により、親事業者側が振込手数料を負担することが義務付けられ、取引の適正化が図られます。
取適法とは何?
新しい法律である「取適法」について、その名称の読み方から目的まで、基本的な情報を整理しましょう。この法律は、従来の「下請法」が持つ精神を受け継ぎつつ、現代のサプライチェーンにおける取引のあり方をより適切にカバーするために生まれました。

■何て読むの?
・正式名称:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
・略称:中小受託取引適正化法(ちゅうしょうじゅたくとりひきてきせいかほう)
・通称:取適法(とりてきほう)
従来の法律名である「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」から「下請」という用語が廃止されました。
「下請」という言葉が持つ、発注元と受注者の間に存在する上下関係のイメージを払拭し、「共存共栄を目指す対等なパートナーシップ」のもとでの取引を推進する意図が込められています。
■いつから施行?
施行日:2026年(令和8年)1月1日
2026年1月1日以降に行われる製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、そして新たに追加される特定運送委託などの取引について適用されます。
無償で荷役・荷待ちをさせられている問題などを受け、取適法の対象に追加されました。
■誰のためのルール?
取適法は、従来の親事業者と下請事業者の関係に加え、保護の対象を拡大しています。
主な保護対象は以下の通りです。
中小受託事業者
資本金基準に加え、従業員数基準が追加されました。
常時使用する従業員数300人(製造委託などの場合)、または100人(役務提供委託等の場合)が保護対象の基準として追加されます。
これにより、資本金は大きくても従業員数が一定規模以下である企業も保護対象となります。
特定運送委託の受託者
物流業界の適正化に対応するため、発荷主が運送事業者に対して行う特定運送委託が規制対象に追加されました。
今まで行われがちだった、荷待ち・荷役作業の無償強制といった不適切な慣行も規制され、適正な運賃・手数料の支払いが確保されます。
フリーランス等の個人事業主
中小受託事業者がフリーランス(特定受託事業者)にも該当する場合、取適法とフリーランス・事業者間取引適正化等法のいずれにも違反する行為が委託事業者から行われたら、原則としてフリーランス・事業者間取引適正化等法が優先適用されます。
■法律の題名・用語が変わる
下請法から取適法への変更に伴い、法律の題名・用語が変わります。
下請代金支払遅延等防止法 → 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律。略称「中小受託取引適正化法」通称「取適法」
下請代金 → 製造委託等代金(受託代金)
親事業者 → 委託事業者
下請事業者 → 中小受託事業者
【参考】2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!|公正取引委員会
2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります|政府広報オンライン
取適法でよくある質問【FAQ】
■Q.取適法で新たに追加された、ビジネスパーソンが知っておくべき「3つの新ルール」は何?
A.取引の対等性を重視し、以下の3つの新ルールが追加されました。
1.協議に応じない一方的な代金決定の禁止
2.手形払などの原則禁止
3.振込手数料を負担させることの禁止
■Q.新ルールの「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」はどのような行為を禁じていますか?
A.中小受託事業者から価格改定の協議を求められたにもかかわらず、親事業者が正当な理由なく協議に応じないこと、あるいは代金決定に必要な説明や情報提供をしないこと、そして最終的に一方的に代金額を決定することが禁止されます。
委託事業者には「協議の場を設けること」と「誠意をもって交渉に応じること」が強く義務付けられます。
■Q.新ルールで原則禁止される「手形払」について、なぜこのような規制が導入されたのですか?
A.従来の取引では、手形の換金時に受託事業者が割引料や手数料を負担することで、実質的な支払いの遅延や満額を受け取れない問題があったためです。
取適法では、委託事業者に原則として現金、または中小受託事業者が満額を速やかに現金化できる手段での支払いが義務付けられます。
■Q.「取適法」での保護の対象者は、従来の「下請法」からどのように拡大されましたか?
A.従来の親事業者と下請事業者の関係に加え、保護対象として以下が追加・拡大されています。
中小受託事業者:資本金基準に加え、常時使用する従業員数基準が追加されました。(例:製造委託などは300人超から個人を含む300人以下、プログラム佐育成、運送、物品の倉庫における保管や情報処理をのぞく、情報成果物作成委託・役務提供委託などは100人超から個人を含む100人へ)
特定運送委託の受託者:物流業界の適正化のため、発荷主が運送事業者に対して行う特定運送委託が規制対象に追加されました。
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文/中馬幹弘
ガジェット・MONO・マネー編集/ライター。慶應義塾大学卒業後、野村證券にて勤務。アメリカンカルチャー誌編集長、モノ情報誌編集を歴任。iPhone、iPad登場時よりスマホ実務に携わる







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