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老舗はちみつ店を営むハニー・ハンター市川拓三郎さんに聞く「はちみつビジネス」最前線

2025.12.13

YouTuberが養蜂家に転身して話題になった養蜂業界。宮城学院女子大学の学生が養蜂を行うなど、養蜂女子の活躍も話題になった。

今回は創業1930年の京都の老舗はちみつ専門店、金市商店の三代目社長であり、ハニー・ハンターの市川拓三郎さんに、日本の養蜂業の現状と課題、また、はちみつを使ったビールなどを紹介してもらう。

ハニー・ハンターとして地球1.3周の距離を移動

――はじめまして!市川さん。京都のはちみつ専門店を経営されていますが、ハニー・ハンターとしても大活躍中です。

市川さん 金市商店は祖父が創業した、はちみつの卸業を行っている商店で、私で三代目となります。養蜂家からはちみつを買って、商品として販売しており、一年間に試食するはちみつの種類は300種類以上、全国の養蜂家から買い付けるため、これまで地球1.3周分に当たる52000キロ以上の距離を移動しています。

農作物の50%以上はミツバチの受粉によって作られていて、ミツバチなど昆虫の受粉が無ければ実をつけない作物は多いです。はちみつは特に自然環境に強く影響されており、自然と結びついた食品と言えるでしょう。

――養蜂業界では若い人が養蜂家として独立するなど、産業としても少しずつ見直されてきていますが、課題も多いようです。

市川さん 国産はちみつは、一定の需要が安定的にありますが、採蜜量がなかなか安定しない問題が起こっております。要因としてはミツバチの不足がそのひとつでしょうか。特に近年では猛暑化、温暖化で昔と同じようなミツバチの生育が難しく、ミツバチ不足が深刻で、受粉用の貸し出しミツバチなどのやりくりが難しくなっています。

ミツバチの受粉は、イチゴ、メロン、ナスなどの農作物の生育にも影響が大きく、農業を巻き込んでの問題になっています。その他、農業と同様に燃料費増大による経費増加も障壁になっています。

そして最大の課題は、気候変動による蜜源環境の悪化でしょうか。花の開花時期がズレたり、大雨にあたったり、高温で開花しなかったりと、毎年の異常気象は安定した養蜂のさまたげになっています。

さらに、養蜂家の多くが高齢化しており、技術継承や後継者育成が追いついていない点も大きな問題です。美味しいはちみつの背景には必ず「健全な自然」と「持続可能な養蜂」がある――その両方を守り続けられる仕組みづくりが必要と、感じています。

はちみつを使ったアップサイクルビールが新登場

――市川さんのお話からは「はちみつ愛」が伝わってきますが、本来ならば廃棄されるはちみつを、アップサイクルハニーとして活用する取り組みが始まりました。

市川さん 私どもの商品を百貨店やスーパーなど店舗で販売する場合、ロットごとに「検食」を取っています。後から問い合わせなどが来た場合に対応するためですが、これまでは、この検食は一定期間保管した後、廃棄処分していました。

はちみつは腐らない食品です。とれたてのはちみつに比べたら風味は落ちてしまいますが、十分食用できるものなのに、廃棄されてしまう。これをろ過してアップサイクルハニーとして展開しようという取り組みです。

アップサイクルハニーは加工に使うためのもので、シャンプーや焼き菓子などに利用されていましたが、このほど、栄屋製パン(神奈川県海老名市)さんと出会い、アップサイクルビールを開発・販売することになりました。

栄屋製パンさんはサンドイッチの耳を使ったビールを製造されていますが、アップサイクルハニーの考え方に通じる商品開発ということで意気投合して、Honey&Breadというアップサイクルビールを開発しました。パンの耳18%、国産はちみつ18%を使ったビールです。

モルトの味わいとカラメルのような風味にはちみつの風味が口に広がる、とても美味しいビールとなりました。

――市川さんと、栄屋製パンのビール部門であるBetter life with upcycleの専務取締役吉岡謙一さんとは、出会った時から意気投合されたとか。

市川さん 栄屋製パンさんは1923年の創業以来、食パンを製造されていて、サンドイッチのパンの耳を毎日数百キログラムも廃棄処分していました。『効率や流通の事情でこぼれ落ちてしまい正当に評価されないものがあるのなら、最適変化させることで社会に還元してよろこびや楽しさ、優しさとして完成させたい』という、吉岡さんの意見にとても共感しました。

右がハニー・ハンターの市川さん、左が栄屋製パンの吉岡さん

ミツバチが生涯かけて集めるはちみつの量は、ティースプーン一杯分程度しかありません。一生懸命集めてくれたはちみつを、廃棄するのではなく、美味しく食べていただける道があればそれを実現させたいと、アップサイクルビールのプロジェクトに参加しました。Honey&Breadは先月販売がスタートしましたが、大変好調で、今後も展開して行きたいと考えています。

ビール以外のはちみつ酒「ミード」の品揃えは日本一

――今回はアップサイクルビールの取り組みを教えていただきましたが、他にもはちみつ原料のお酒も販売されていますね?

市川さん 金市商店では2005年より他に先駆けてはちみつ酒(ミード)の輸入を開始し、今までに約5か国(40種類以上)との取引を行い、現在は特にはちみつの風味をしっかりと感じられるミードを扱うポーランド・カナダの2カ国から輸入を継続しています。また2024年3月からは、自社でもミードの生産を行っています。現在取り扱っているはちみつ酒の種類は、国産12種類、海外9種類と、国内随一を誇っています。

ミードは1万年以上も前から存在していたとされ、人類最古のお酒と言われています。ブドウを発酵させて造られたお酒がワインですが、はちみつを発酵させて造られたお酒を総称してミードと言います。はちみつに水と酵母だけを入れて発酵させたり、さらにハーブやスパイスを組み合わせて作る方法などがあり、味わいは様々です。

「もっと多くの人にはちみつ酒を知って楽しんでほしい」という想いから、京都・丸太町にある京町家を改装しミード専門の醸造所「京都はちみつ酒醸造所」をオープンしました。さまざまな産地・品種のはちみつの特徴を活かしたオリジナルはちみつ酒を数多くリリースしています。

市川さんによる、ミードセミナーも定期的に開催中

国産はちみつは世界に誇れる日本の食文化のひとつ

――国産はちみつ業界は今後、どのように展開していくと考えていますか?また、業界が健全に発展するための条件を3つあげてください。

市川さん 国産はちみつは、花の個性や地域のストーリーがそのまま現れる、世界に誇れる食文化です。私は、はちみつを通して「花の多様性」「地域の誇り」「自然との共生」を伝えられる産業に育てていきたいと考えています。

そのための条件を3つ挙げるとすれば、

1)地域ごとの自然環境の保全と蜜源の確保
花が豊かでなければ、良いはちみつは生まれません。地域全体で蜜源植物を守る取組みが不可欠です。

2)環境問題への地球規模での取り組み
地域として環境保全に力をいれても、異常気象や温暖化など、避けられない問題はございます。地球規模での環境問題への対策も、必要だと考えます。

3)養蜂家への適正な対価と人材育成
努力に見合う収益がなければ、若い人は参入しません。国産はちみつの高付加価値化、そして技術継承と支援が業界の未来をつくります。

はちみつは「自然からの贈り物」です。自然がないとミツバチも、はちみつも、未来はありません。そしてそれを支える養蜂家も、次世代に繋いでいかねばなりません。日本の多様なはちみつがとれる自然環境を守り、持続可能な養蜂を続けていくために努力していく必要があると思います。

――ありがとうございました。

Honey&BreadはECサイトの他、はちみつ専門店ミールミィ(京都府中京区/三条本店)、「クラフトビール×アート」CRAFT BEER-T (東京都豊島区)、三河屋(CIAL横浜ANNEX店、ViNA GARDENS PERCH店)などで購入可能。口に含んだ時のはちみつのコクと風味をぜひ味わってみて。

文/柿川鮎子

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明治大学政経学部卒業後、経済系新聞社で自動車、ISOなどの担当記者に。退社後5年間、動物病院に勤務した経験から、飼い主さんの気持ちに寄り添ったペット記事を執筆中。 得意なテーマは 1)生産性向上などのマネジメント関連と、 2)犬猫やエキゾチックを含 めた飼育動物全般、の2つ。 作家として小説「犬にまたたび猫に骨」(講談社刊)、「極楽お不妊物語」(河出書房新社)を発刊。ノンフィクションでは小学館刊「全国から飼い 主が駆けつける!犬の名医さん100人データブック」、文春新書「動物病院119番」、ほか多数。趣味は野鳥観察、現在、2羽のオカメインコを溺愛中。

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