達成不可能な目標は心身の健康を損なう
新年を迎えるにあたって、新たな抱負や目標を立てることがあるかもしれない。資格取得を目指していたり、スポーツ競技や運動能力の向上、あるいは減量などの目標を立てることで毎日の生活に張りが出てくるとも言える。
その一方で今年こそは達成したいという積年の念願があるという向きもあるだろう。
しかし冷静に考えてみれば、未だ達成できない長期的な目標は、ひょっとすると自分の努力だけではどうにもならない達成不可能なものである可能性もあり得る。あるいは単純に目標の設定が高すぎるケースもあったり、当人も達成できないと心の片隅ではわかっている夢や願望である場合もありそうだ。
達成がきわめて難しい夢に固執するのかどうかは、一例ではスポーツ競技の選手の晩年の去就にもたとえられてくるだろう。あるいは音楽や芸能、創作といった分野で芽が出ないままいつまで続けるのかという問題などもある。
豪カーティン大学をはじめとする研究チームが2025年11月に「Nature Human Behaviour」で発表した研究では、達成不可能な目標に固執することは、心身の健康を損ない、ストレスを増加させ、人生の満足度を低下させることが示されている。
研究チームは、心理学、健康、社会科学など複数の分野から、人生の乗り越えられない〝壁〟に直面した際に人々がどのように目標を調整するかについて、1400以上の知見を含む235件の研究を調査した。
研究の結果、達成不可能な目標を手放すことはストレス、不安、うつの軽減につながり、一方で新たな目標に移行すると幸福感と生活満足度が回復することが浮き彫りとなった。
〝新たな挑戦〟の重要性

研究を主導したカーティン大学人口健康学部の 主任研究者であるヒュー・リデル氏は、この研究は目標を諦めることが必ずしも弱さの表れではないと同大学プレスリリースで説明している。
「不可能な目標に固執することは、大きな負担となる可能性があります。過去の研究では、ストレスの増加、健康状態の悪化、さらには病気などの身体的な健康被害につながる可能性が示唆されています」(リデル氏)
達成不可能な目標を手放す一方で何よりも重要なのは、新たな達成可能な目標へと移行することで、気分、回復力、そして全体的なメンタルヘルスが改善されるという。積年の夢を諦めるのはきわめて残念なことでもあるが、そこに新たな別の目標を設定することで、その失意を埋め合わせることができるのだ。
「目標達成の方法に固執するのではなく柔軟に変えることで、たとえ状況が変わっても、人々は回復力を維持し、人生に焦点を合わせ続けることができるでしょう」(リデル氏)
リデル氏はこの調査により、性格特性、対処スタイル、社会的支援、生活環境などのさまざまな予測因子が、人が目標を放棄するか、再び取り組むか、または調整するかに影響を与える可能性があることが明らかになったという。
若い頃からミュージシャンやお笑い芸人を目指していたが芽が出ずに諦めざるを得なくなったが、その後飲食店などの新たな世界に飛び込んで成功を収めている例も少なくないのだろう。夢を諦めた無念さがその後の〝新たな挑戦〟のバネとして働くこともありそうだ。
人生の〝区切り〟の時期を知る
もちろん人によって進む道はそれぞれ異なり、人生の目標への取り組み方にはさまざまなことが影響するため、一つのアプローチが万人に当てはまるわけではなく、目標に固執して宿願を叶えるケースもあるだろう。
「たとえば個人のモチベーション、年齢、ストレス管理、人間関係の強さ、成長過程の経験、健康状態などが、目標へのアプローチ方法に影響を与えることが分かりました」(リデル氏)
目標をいつ放棄または変更すべきかを知ることは、粘り強さ(レジリエンス)と同じくらい重要なのかもしれない。
「この研究は本質的に、これまでのすべての研究を、どのようなことが目標の調整に役立つか、そしてそれがどのように個人に利益をもたらすかを示す概念的なロードマップに要約しています」(リデル氏)
リデル博士は、研究の次のステップは、計画を堅持するか、あるいは変更するかの適切な時期をよりよく理解することだと述べている。
「人々があまりに早く諦めることなく、目標を貫くべきか、あるいは進路を変えるべきかを正確に見極めることが、まさにパズルの次のピースです」(リデル氏)
人生の〝区切り〟の時期を知り、タイミング良く迎えることで悔いのない人生を送れるのかもしれない。
〝新年の抱負〟は実現可能な目標にすべき

世界陸上選手権の2大会で400mハードルで銅メダルを獲得した〝侍ハードラー〟こと為末大氏は、中学生時代から陸上競技の短距離種目と跳躍種目で輝かしい活躍を見せてきたのだが、ある時期までは100m選手として大成することに固執していたと自身のYouTubeチャンネルなどで話している。
100mのスプリンターとして世界で活躍する姿を思い描いて練習と試合出場を続けるも、スポーツ選手は第一線で活躍できる期間は限られてくる。残された競技キャリアの中でこのまま100mに固執するのか、ほかの種目に専門を変えてみるべきなのか考える時期があったようである。
そして100mを諦め、新たに400mハードルを専門するという選択をしたからこそ、世界で活躍する〝侍ハードラー〟が誕生したのだとも言えそうだ。
自分の成長のために大きな目標を持つことにも一定の意味はあるが、実現できないままそれをいつまでも掲げていることは、心身の健康や人生においてもマイナス要素になりかねない。新年を迎えるにあたって新たな目標を設定し〝新年の抱負〟にすることで日々の生活が充実してきそうだが、あくまでも実現可能な目標にすべきであり、願望を優先した夢はいわばファンタジーであることをよく理解しておきたい。
※研究論文
https://www.nature.com/articles/s41562-025-02312-4
文/仲田しんじ
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