いきなり極端な話をするが、「ぷよぷよ」は認知機能にいいらしい。
今年11月、埼玉県加須市で65歳以上の高齢者がパズルゲーム「ぷよぷよ」でバトルを繰り広げる「第1回シニアeスポーツ大会」が開催された。
eスポーツによる認知トレーニングは健常高齢者に全般性注意機能の向上をもたらす
そもそも加須市は、市内にある平成国際大学でeスポーツなどを研究する水國照充・スポーツ健康学部教授の協力のもと、2年前から高齢者向けのeスポーツ教室を実施。「eスポーツは認知機能の向上などに一定の効果がある」という水國教授の研究結果を踏まえ、今年は大会も開催された。
たしかにパズルや数独など楽しみながら脳トレができるものは以前からあったが、eスポーツが認知機能向上に効果があるとは初耳だった。
そこで今回、長年eスポーツを研究している平成国際大学の水國教授を直撃。eスポーツの知られざる可能性から「ぷよぷよ」の恐るべき脳への効果まで伺った。
――高齢者を対象としたeスポーツによる認知トレーニングの研究内容から教えてください
「研究内容としては大きく3つあります。1つ目は、ゲームを一定期間やってもらって、前後で認知機能を測る介入研究。たとえば「ぷよぷよ」を2か月ほど対戦形式で継続してもらい、注意や切り替えの検査を前後で比較しました」
ここでいう検査とは、たとえば「赤」と書かれた青い文字を見てそのインクの色を答えるなどの「ストループ検査」や、ランダムに記載された1~25までの数字を1から順番に線で結んでいく「トレイル・メイキングテスト」など。
これらは一般的な神経心理学的検査で、注意力や脳の処理スピード、柔軟性を見る検査方法だという。
「2つ目は、地域の教室として実際に回しながら効果を測る“実装型”です。2023年から地元自治体の協力を得て、「シニアeスポーツ教室」を運営し、前後で認知検査と気分や交流の評価も取っています。そして3つ目は、どうすれば続けられるか。ゲームそのものだけでなく、運営やサポートの形(大学生の関わり方など)も含めて検証してきました」
これらの研究の結果、eスポーツによる認知トレーニングは健常高齢者に全般性注意機能の向上をもたらすことが示唆され、脳の活性化が期待されることが分かったという。
そもそも「eスポーツ」と「高齢者の認知機能」、その組み合わせに着目した理由は何だったのか?
「率直に言うと “続く脳トレが必要”だと思ったからです。認知トレーニングは正しいことをやっても「続かない」場合が多く、意味が薄くなりがちなんです。実は、高齢者のゲームプレイが認知機能に及ぼす影響は1980年代に海外で既に研究されていましたが、調査期間だけの影響が示唆されているだけで他の高齢者や支援者とのゲームでの交流まではありませんでした」
「もっとも、当時は「eスポーツ」という言葉自体なかった時代ですから、ゲームは単なる遊びでそれ以上研究もされなかったのでしょう。その点、「eスポーツ」は楽しい・上達が見える・相手がいる。この3つがそろうと習慣化しやすい。さらに、若い世代の文化でもあるので世代間交流が自然に起きるのも大きな魅力でした」
そんな思いで始めたeスポーツと高齢者の認知機能にまつわる研究。水國教授が検証の際に採用したゲームは主に2つだという。
「パズルで対戦できる『ぷよぷよeスポーツ』とレースで対戦できる『マリオカート8デラックス』を皆さんにやってもらいました。どちらも「ルールは直感的」「対戦で盛り上がる」「上達が実感しやすい」という点で、高齢者でも入りやすいと思ったからです」
その結果見えてきたのは「ぷよぷよ」の大いなる可能性。
「『ぷよぷよ』って実は脳がやっていることが多いんです。「画面の情報を素早く拾う(知覚)」、「何を優先するのか決める(判断)」、「判断をミスなく速く実行する(操作)」。これが“遊び”として自然に回ります」
「なによりも、コントローラー操作がシンプルで強さやスピードを調整できるので、「難しすぎて挫折」も「簡単すぎて飽きる」も避けやすいんです。現時点で一番データが揃っていて、変化が見えやすいのは『ぷよぷよ』ですね」
そんな「ぷよぷよ」を用いて2023年から開催している「シニアeスポーツ教室」。65歳以上の方々を対象に毎年定員12名で実施しているこの教室は、地域の高齢者が安心して参加できる交流の場になっているという。
「全10回の活動内容としては、4人1組で『ぷよぷよ』を体験し、その前後で認知検査や交流等に関する質問紙調査・インタビュー調査を実施。修了後には各種検査結果の報告会も行っています」
「教室運営では大学生がサポーターとして加わって、「操作の困りごと」を解決したり、「次の一手」を一緒に考えたりするので参加者もつまずきにくく、場がすごく温かくなるんです」
「さらに今年度は、これまでに教室を修了し、地域のコミュニティセンターでeスポーツを継続している高齢者をシニアサポーターとしてお招きして、同世代、つまり高齢者が高齢者のeスポーツ活動を支える取り組みも実施してみました。シニアサポーターとの関わりは、参加者にとって身近なロールモデルになっていて、自己効力感を高めることに役立っているようです」
eスポーツはやり方次第で「脳トレ」にも「交流」にもなる
eスポーツによる高齢者の認知機能への効果を研究してきた平成国際大学の水國照充教授。一定の高齢者には機能の向上が示唆されるということだが、具体的にどんな効果が見られたのか?
「大きく4つの変化が見えてきました。1つ目は注意や切り替えのような領域で、検査上の改善が出るケースがあること。2つ目は、教室型だと特に交流が増え、会話も増えて場の空気が明るくなる。3つ目は、すごく大事なんですが、気分が前向きになったり、「またやりたい」が増えることです」
「そして4つ目は、教室型のeスポーツ活動を継続した結果、修了後も「まだ続けたい」という高齢者からの意見が多数あり、その後は自主的に集まってeスポーツを継続するようになったことです」
しかも、参加した高齢者の皆さんは後にチームを結成し継続的に活動するほど積極的にeスポーツに取り組んでいるという。それには水國教授も驚きの様子。
「まさか、チームをつくりここまで継続するとは想定外でした。さらに驚くべきことは、大学生サポーターより強い高齢者プレーヤーが出てきていることです。これぞ練習のたまものでしょう。eスポーツの特徴の1つである、「エイジレス」(年齢に関係しない)を実感しました」
ちなみに、eスポーツ高齢者プレイヤーで結成され、活動している3チームを今年の大学祭に招き、「シニアeスポーツ大会」を開催。熱い接戦が繰り広げられたという。
65歳以上の高齢者がゲームにのめり込み、人生を楽しんでいる。
@DIME読者層の40~50代も負けてはいられない。
この年代からeスポーツをやることで認知症の予防や機能の向上に役立つのだろうか?水國教授にお聞きしたい。
「予防になるかを一言で言うのは難しいですが、私は役立つ可能性はあると思っています。特に40~50代は忙しいので健康習慣は「正しい」だけでなく「続く」が大事です。eスポーツは続ける条件が揃いやすい」
「ただ、私が一番おすすめしたいのはeスポーツだけではなくて、eスポーツとの『組み合わせ』です。たとえば、ウォーキングや軽い筋トレなどの運動、睡眠と生活リズムを整える、認知的に負荷のある趣味…など。ここに“楽しく続く枠”としてeスポーツを取り入れることが現実的。あと、やるなら鉄則は1つ。睡眠を削らない!これが最重要です」
「それと、誤解されたくないのは、現時点では「eスポーツをやれば認知症を予防できる」と断言する段階ではありません。私はまず、どんな認知機能に影響が出やすいか?続けられる設計は何か?を丁寧に見ています」
水國教授の今後の研究にも期待したいところ。これから目指すものとはなんなのか?展望を聞いた。
「次は「効くかどうか」だけじゃなくて、“どうすれば日常に活きるか”を詰めたいです。テーマとしては、「高齢者がeスポーツに夢中になることでどのような心理的変化が観察されるのか?」、「eスポーツが日常の行動(外出・会話・自信)にどう波及するか?」、「地域で継続できるように運営モデル(大学生・シニアサポーターの育成含む)を完成させられるか?」この3本ですね」
「eスポーツはやり方次第で「脳トレ」にも「交流」にもなります。だからこそ、現場で使える形に落とし込むことに挑戦したいです。何よりも私自身が十数年後には「こんなeスポーツ教室があったら自分も参加したい」と思えるような取り組みを広げていきたいと考えています」
取材協力
平成国際大学
文/太田ポーシャ
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