
YouTubeにチャンネルを持ち、そこで配信活動をしている人にとって「BAN」は恐怖の3文字である。
なぜなら、たとえYouTubeの規定に反していなくとも、またその自覚が全くなくとも、運営からBANされる可能性は常にあるからだ。
11月に入り、Xでは「YouTubeの誤BAN」の報告が相次いだ。登録者数が1,000人に満たないチャンネルから、10万人を超える有名チャンネルまでが「誤BAN被害」を被ってしまったようだ。
利用規約を遵守しているはずなのに、ある日突然BANされる。では、なぜそのようなことが起きてしまうのだろうか?
理由不明の一発BAN
「私は毎回、動画の概要欄に“この動画はフィクションであり、特定の思想等を擁護する意図はありません”と明記していました」
そう話すのは、11月までYouTubeでゲーム実況チャンネルを運営していたAさんである。
Aさんの動画は、Steamで配信されているタイトルをプレイしたものを『ゆっくりムービーメーカー4』で編集し、いわゆる「ゆっくりボイス」を加えた内容である。プレイするゲームは、主に第二次世界大戦を題材にした戦争もの。それを念頭に置きながら、「ファシズムや差別思想を肯定したことは今までに一度もありません」とAさんは強調する。

そんなAさんの動画は、筆者も視聴している。ただただ純粋にゲームを楽しむ内容であり、ゆっくり動画の定番である博麗霊夢と霧雨魔理沙が会話を繰り広げるものだ。人種・国籍差別などとは全く関係ないと言い切ってもいいだろう。
「“コミュニティガイドラインに違反している”という通知がYouTubeからありましたが、具体的な理由は今でも説明されていません。動画を投稿した際は、ちゃんと制限なく配信できていました。今までに規約違反等で動画公開を停止された経験はありません」
即ち、AさんはYouTubeから「謎の一発BAN」を食らってしまったのだ。
そして、これはAさんだけの話ではない。
Xでは、EUが認定した調停機関でのADR(裁判外紛争解決手続)で「チャンネルのBANは不当措置だった」ということが認められたにもかかわらず、YouTubeはその決定に今も従っていない……と報告するポストもある。もっとも、ADRでの決定には法的拘束力がないためにそうなっているという見方もできるが、どちらにせよ「誤BAN問題」は世界中のYouTuberを大いに動揺させている模様だ。
こうしたことが起こる原因は、「YouTubeがチャンネルの審査をAIに任せっきりにしているからだ」という意見がある。チャンネルがBANされた場合、チャンネル管理者は再審査を要求することができる。それは「人間による審査」ということになっているが、実はそれすらもAIではないか……という声も。なお、Aさんのチャンネルは再審査でもBAN解除を許可されなかった。
Googleに質問してみた
再審査を担っているのは人間なのかAIなのか。ここでその真相を断言することはできないが、現実問題「身に覚えのない規約違反を理由にしたBAN」に頭を悩ませている配信者は世界中に数多く存在する。
今回、筆者はGoogle Japanの広報部に以下の質問をメール送信した。
1.再審査で「チャンネルの停止が必要」とYouTubeが判断した場合でも、それ自体がYouTubeの誤認・誤解に基づく判断である可能性はあるのか。または、そのような例は今までにあったのか。
2.再審査で停止解除を認められなかったチャンネルに救済措置はあるのか。
3.Steamで配信されている、戦争(特に第二次世界大戦)を題材にしたゲームの実況動画を配信していた人がBANされてしまったという報告もあります。こうしたゲームは、ヘイト発言やファシズムを擁護する発言、または残酷な描写を避けていたとしても、BANされる可能性があるのか。
この質問は原文ママであることを予め断っておきたい。これに対するGoogle Japanの回答は、以下の通り。かなり長いが、全文を掲載したい。こちらも原文ママである。
YouTubeに投稿される全動画は、YouTube上で許可されていることと、禁じられていることを明記しているコミュニティガイドラインに準ずる必要があり、これに違反すると処分の対象となります。度重なるポリシー違反があった場合、悪質な不正行為が1度でも確認された場合、または違反動画に専念している場合は、アカウントが停止される可能性があります。
YouTube は、チャンネルの停止については透明性のある3回の違反警告の仕組みを設けています。YouTubeのポリシーに繰り返し違反したチャンネルは停止されます。90日以内に3回目の違反警告を受けると、チャンネルは YouTube から永久に削除されます。90日以内に、チャンネルが違反警告を受けた場合以下のような措置が行われます。
1回目の違反警告:投稿を1週間行えなくなります。
2回目の違反警告:投稿を2週間行えなくなります。
3回目の違反警告:チャンネルの停止。
違反警告を3回行うことは、コミュニティガイドライン(ポリシー)に繰り返し違反する悪質なアップロード者をアカウント停止措置とする一方で、アップロード者がポリシーを学び、決定に異議を申し立てる機会を確保するという、両者のバランスを取るために開発したものです。同時に、これらのポリシーをできる限り理解しやすく、透明性のあるものにするよう努め、YouTube全体で一貫して適用しています。一般的に、アップロード者の約98%がコミュニティガイドラインに違反することはなく、最初に違反警告を受けた人の94%は2度目の警告を受けることはありません。YouTubeポリシーの適用は、コンテンツの内容をベースに行っており、投稿者ベースではありません。また、チャンネルの視聴者規模に関わらず、コンテンツが繰り返しポリシー違反を行うチャンネルに対しては、違反警告を発行し、チャンネルを停止します。
動画が誤って削除されたことが通知された場合、YouTubeはそのコンテンツを再確認し、適切な措置(関連動画やチャンネルの復元など)を講じます。また、アップロード者には削除に対する異議申し立ての機会を提供し、コンテンツを再審査します。
詳しくはこちらをご確認ください。
Google Japanが筆者の質問に対して返信をしていただいたことには、ここで感謝を申し上げたい。
しかし、筆者の質問に対して殆ど回答らしい回答をしていないと判断してもいいだろう。「3」はやや個別事例になってしまう可能性もあるため回答は簡単ではないことは承知しているが、それでも「ある一つの想定例に対する、現状最も平均的な判断」を解説する形でGoogle側が回答できたはずだ。
「動画が誤って削除されたことが通知された場合」と記載しているため、YouTubeは今でも時折誤BANをやらかしてしまうことを遠回しに認めている……と解釈すれば、まだ気持ちが落ち着くかもしれない。しかし、分厚い暗雲を晴らすにはまるで程遠い回答内容であることは間違いない。
それでも「一縷の望み」は存在する
残念ながら——敢えて「残念ながら」という言葉を用いるが、身に覚えのないBANを食らってしまった配信者は基本的には「待ち」に入るしかないようだ。
XにはTeamYouTubeというアカウントが存在し、「@TeamYouTube」とメンション付けして現状のトラブルを報告・相談する手段もある。ただし、これは必ずしも返事があるものではない。チャンネル管理者(YouTubeから見ればユーザー)がチャンネル復活のためにできる能動的な手段は、これくらいしか見当たらないのが現状だ。
一方、再審査でもチャンネル復活を認められなかった配信者が、後日チャンネルの凍結解除を報告した例も見受けられる。YouTubeの裁量次第という点は変わらないが、それでも「一縷の望み」は確かにあるようだ。
文/澤田真一
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