先日発表された新コード決済サービス『teppay』は、極めて大きな話題を生み出した。
モバイルSuicaとモバイルPASMO共通の実装機能として、前者では2026年秋にリリースされる予定だ。従来のモバイルSuicaに加えて、PayPayやd払いのようなコード決済も利用できるようになる。その上で、teppayには「地域限定バリュー」というものが実装される予定であることにも目を向ける必要がある。
これは、特定の地域もしくは店で利用できる残高。実際はクーポン券のような使い勝手になると思われるが、とにかくこの地域限定バリューがあることにより「JR沿線地域でないところでのteppayの普及」が狙えるようになるのだ。
地域毎に存在する交通事業者
日本という国は摩訶不思議で、その国土の中には地方のバス会社がいくつもある。たとえば、筆者はインドネシアによく渡航するが、この国では国営DAMRI社のバスが全国各州を走っているが、日本にはそうしたバス会社が存在するだろうか?

ウィラートラベルがそれに近いかもしれないが、こちらは高速バスである。DAMRIは長距離から短距離まで、しかも観光路線だけでなく生活路線も幅広く手掛けている。つまり、日本のバス会社は殆どの場合「おらが町のバス」という具合の地域密着型なのだ。地域毎に交通事業者が独立している。
応仁の乱から織田信長が台頭するまでの間の日本は、守護大名だけでなくその支配から独立した国人や豪族が乱立していた。誤解を恐れずに言えば、日本の交通業界は室町時代に似ているのだ。
ただし室町時代と令和が違うのは、各地の国人に戦争をさせるわけにはいかないという点である。国人が国人のまま発展していくよう、幕府は様々な対策を講じていかなければならない。
話はやや逸れたが、令和の交通事業者の大領主とも言えるJR東日本は、その影響力を必ずしも列島の隅々まで行き渡らせているわけではないということは強調しておきたい。それはJR東日本の管区内か管区外かという話ではない。多くの場合、その地域の住民にとって最も大きな影響力を発揮しているのは「その地域の路線バス会社・タクシー会社」なのだ。
地域限定バリューが「鉄の扉」を吹き飛ばすかも?
そんな中で、いかにJR東日本であろうとも新しいキャッシュレス決済サービスを普及させるというのは、決して簡単な話ではない。
が、地域限定バリューがそのような鉄の扉を見事吹き飛ばしてくれるかもしれない。
たとえば、こんなことは想定できないだろうか。少子高齢化の著しいA市には、長年地域の交通を支えている澤田タクシーという会社が存在する。では、澤田タクシーの車内でだけ使える地域限定バリューを発行するのはどうか?
もちろん、これはA市による公共事業である。予算はA市議会の承認を経て編成される。PayPayでも「特定の地域にある店舗で決済をすれば高額のポイントが還元される」というキャンペーンが行われているが、teppayはそれとはかなり違った確度の公共事業を実施できるというわけだ。
そうしたことができるかできないかが、日本におけるキャッシュレス決済サービスの「一つの基準」である。地域限定バリューという機能がなければ、残念ながらteppayは「首都圏だけのサービス」になってしまう可能性が高いだろう。
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キャッシュレス決済と「ユニバーサルサービス」
JR東日本は、地域限定バリューについてこう解説している。
・バリチケは特定の地域に限定してご利用いただけるバリュー (残高)で、teppay残高と組み合わせてのお支払いが可能です。
・各地の自治体さまのプレミアム商品券、キャッシュレス還元事業等にご活用いただくことで、域内への移動・消費を活性化します。
「各地の自治体さまのプレミアム商品券、キャッシュレス還元事業等にご活用いただくこと」を想定している機能であることを、JR東日本ははっきりと明言しているのだ。
もっとも、これはそれだけ先行のコード決済サービスをteppayが強く意識しているということでもある。デジタル商品券は、PayPayが得意とする分野。故に、今後は各地域のプレミアム商品券事業を闘技場にしたサービス間の競争が激化していくだろう。
この現象が、我々一般消費者にどのような好影響を与えるのか?
これは公共事業即ち税金を投入する事業のため、一企業に過ぎないサービス提供者が過度な内容の企画を展開することは不可能だ。公共事業とは、基本的にはユニバーサルサービスの観点からその計画が実施される。ある特定のキャッシュレス決済サービスを普及させることを目的にした「大盤振る舞い」は、ここでは全く相応しくない。
しかし、JR東日本はユニバーサルサービスが第一に求められる公共交通事業の会社である。「どこにサービスを施せば地域の助けになるのか」ということを、骨の髄まで心得ているはずだ。経験則に基づく企画力が、teppayにとっての大きなアドバンテージになる可能性も考えられる。
より大きな額面のキャンペーンが行われることはないだろうが、地方での実生活に密着した「かゆいところに手が届く」ようなキャンペーンが展開されることは十分に考えられる。どちらにせよ、ローンチを控えるteppayが現在進行形で様々な企画を講じていることは間違いないだろう。
【参照】
teppay
Suica・PASMO のコード決済サービス「teppay」を2026年秋より提供開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001297.000017557.html
文/澤田真一







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