一口にミッドレンジモデルといっても、その幅や価格レンジは広い。どちらかと言えばハイエンドに近いモデルから、価格を抑えるために機能を省いたモデルまでさまざまだ。中間層だからこそ、仕様や機能の取捨選択で幅が出やすいと言えるだろう。そんなミッドレンジの中でど真ん中と評されるのが、シャープのAQUOS senseシリーズだ。
11月には、同モデルの最新作となる「AQUOS sense10」が発売された。AQUOS senseシリーズは、「これ」と一言で言えるような尖った機能はないが、とにかくバランスがいいのが特徴。AQUOS sense10はチップセットにSnapdragon 7s Gen 3を搭載しており、動作は滑らか。1から240Hzまで可変するディスプレイもそれに貢献する。
また、同シリーズはカメラのセンサーサイズが比較的大きく、画質も良好。AQUOS sense10では、そのカメラ性能にさらに磨きがかかっている。とは言え、価格は6万円台前半から。ハイエンドモデルと比べると安いため、どこかに落とし穴があるのでは? と思う向きもあるだろう。実機で、その実力を検証した。
デザインは前モデルを完全踏襲、独特なデザインがAQUOSの個性
まずデザインだが、前作のAQUOS sense9と同様、全体がアルミでできている。形状やサイズ感はまったく同じ。カラーリングは変わっているものの、新しい機種になってボディがそのままという珍しい。一般的なスマホは、金属フレームに前面と背面のガラスをはめ込む形のものが多いが、AQUOS sense10は背面から側面までがひとつなぎになったバスタブ構造を採用する。
それもあって、一体感が高いデザインになっており、持ったときにガッシリとした剛性があることを感じる。一方で、背面が金属ということは電気を発生させる磁力を通しづらいことを意味する。そのため、AQUOS sense10は、ワイヤレス充電には非対応。似た構造のiPhone 17 Proシリーズが背面にガラスをはめ込んでいるのは、そのためだ。
置くだけで簡単に充電できるワイヤレス充電が利用できないのは残念だが、AQUOS sense10はバッテリーが5000mAhと大容量で、最低1Hzまで落とせるディスプレイの省電力性やチューニングのよさもあって、バッテリーが減りづらい。また、USB Type-Cを使えば、最大36Wでの充電が可能。ワイヤレス充電非対応ではあるが、致命的なシーンは少ない。
カメラ周りは独特なデザインで、2つのレンズが非対称に配置されている。人によって何に見えるかは異なるが、筆者は「天空の城のラピュタ」に登場するロボット兵のような面影があるように感じた。こうしたデザインは、miyake designの三宅一成氏によるもの。好き嫌いは分かれるかもしれないが、個性的なデザインで、一目でAQUOSシリーズと分かる。
側面には、指紋センサーと一体になった電源キーが配置されている。ハイエンドモデルでは、画面内指紋センサーを採用したモデルが多く、AQUOSシリーズでも「AQUOS R9 Pro」は超音波式の画面内指紋センサーを搭載している。その点で言えば、電源キー一体型はミッドレンジモデルの仕様だが、実際の使い勝手はむしろこちらの方が上。ある程度正確に画面の中に指を置く必要がなく、手探りでもロックを解除できるからだ。
また、インカメラによる顔認証にも対応しているため、両方を設定しておけば、すぐにロックを解除することは可能だ。ただし、顔認証はAI対応ではなく、指紋認証などに比べると精度は落ちるため、Pixelシリーズのようにパスキーの認証に使えるわけではない点には注意が必要だ。画面ロック解除以外の認証には、指紋センサーの利用が必須になる。
処理能力は高め、それを生かしたAI機能も多数
Snapdragon 7s Gen 3を採用していることもあり、処理能力は高め。ハイエンドモデルのように、3Dグラフィックスを多用したゲームがサクサク動くというわけにはいかないが、それ以外の操作で処理が遅いと感じるシーンは少ない。ブラウジングやSNSのアプリなど、基本的な操作は非常にスムーズだ。ベンチマークのスコアもまずまずの高さで、その面では費用対効果の高さを感じる。
また、処理能力を生かしたAI機能が充実しているところもおもしろい。AQUOS sense10ならではなのが、「Vocalist(ボーカリスト)」と呼ばれるAI音声機能。あらかじめ自分の声を登録しておくと、通話時にそれ以外の音をシャットアウトする。その性能は非常に高く、雑踏の中はもちろん、アナウンスが入り乱れる駅で電話しても、それが聞こえないほどだ。
Vocalistは電話アプリではなく、OS側に実装された機能になる。そのため、電話だけでなく、音声を使うサードパーティアプリにも適用される。電話では使えても、LINEには非対応だったというガッカリ感がないのはうれしい。ビデオ会議アプリにも対応しているため、外出先で参加する際にも安心だ。
電話では、「電話アシスタント」も利用できる。これは、AIに電話を代わりに出てもらう機能のこと。着信時に「代わりに聞いときます」というボタンをタップすると、相手とのやり取りをAIがして、それを録音し、結果を文字として表示してくれる。
もう1つのAIを使った機能が、カメラだ。画質を高めるような処理はこれまでの機種にも搭載されているが、AQUOS sense10でおもしろいのが、料理や紙に写り込んでしまった影を自動で消すという機能。編集ではなく、カメラ機能側にそれを搭載することで、手間なく自動で処理が終わる。実際に試したのが以下の写真だが、キレイに自分の影が消えていることが分かる。
同様に、カメラには映り込みを除去する機能も搭載されている。ガラス越しに風景を撮影したり、ケースの中に入っているものを撮ったりするときに、どうしても自分や自分の背景が写ってしまうことがある。これも、AQUOS sense10なら自動的に消すことが可能。編集いらいずで、より写真の完成度を上げてくれるというわけだ。
ミッドレンジながらカメラも高画質、独自機能も便利
そのカメラも、ミッドレンジモデルの中ではかなり健闘している画質の高さだ。特に夜景を撮ったときのバランスがよく、暗いところはしっかり締まって見えるが、ノイズは少なく、明るいところをより際立たせている。色の彩度も高い。実際にAQUOS sense10で撮影したイルミネーションの写真は以下のとおりだ。
料理も、色鮮やかに撮影することが可能だ。ただ、ほかの端末のカメラと比較すると、やや色がコッテリしすぎているきらいもあった。この辺のチューニングは、シャープが他の機種で協業しているライカの絵作りに寄せている印象を受けた。ただ、それらとの比較でもやや誇張気味に見えた。この辺はアップデートでチューニングされていくことを期待したい。
OSはAndroidの標準に近い形だが、独自機能は「AQUOSトリック」という形できちんと実装されている。その1つが、指紋センサーでのロック解除と同時にアプリを立ち上げる「Payトリガー」。これは、キャリア各社のQRコード決済アプリを想定したもの。あらかじめ登録したアプリを画面ロック解除時に、自動で起動できる。
残高があるのは前提条件だが、ロック解除後にすぐに画面を見せ、決済できるというわけだ。レジ前でもたもたとアプリを探して、後ろからのプレッシャーを感じる心配がなくなるのはうれしい。Payトリーがという名称ながら、コード決済以外のアプリも設定可能。LINEなどのメッセージアプリを登録して、すぐに新着をチェックするといった使い方もできる。
細かなところだが、スクリーンショットを簡単に取れる「Clip Now」という機能も便利だ。これを有効にしておくと、画面の右上、左上のどちらかを長押しするだけでスクリーンショットが記録される。通常だと、電源キーと音量キーの下を同時押ししなければならず、操作が少々面倒。持ち方を変えなければならないため、その際にポロっと端末を落としてしまうこともあるが、Clip Nowのような操作方法ならその心配も少なくなる。
もちろん、スマホに求められる基本性能は一通り満たしている。おサイフケータイには対応しているし、防水・防じん、耐衝撃性能も備えている。しかもOSバージョンアップは最大3回、セキュリティアップデートは発売から5年と明記されているため、安心して長く使うことが可能だ。価格は安いが、長く使えるため、コストパフォーマンスは高い。定番スマホのポジションは、健在と言えそうだ。
文/石野純也







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