若者たちを「○○世代」と括るのも古くなってきた昨今、マネジメントに苦心する読者の方も多いのではないだろうか。
アラサー平社員である筆者もまた、まだまだマネジメントされる側である一方、マネジメントする側にもなり始めてきている、“中間層の仲間入り”世代である。俗に言うゆとり世代であり、日々、「この言い方で後輩社員に伝わっただろうか…」と思いつつ、他方では上司に対して「いやそんな言われ方しても…」と腐心もしつつ、なんとか野球中継が始まる18時までに上がることだけを目標に朝から業務に励んでいる。
この記事ではプロ野球チームの秋季キャンプの様子から、仕事の場にも活かせそうな新たな「マネジメント」方法の可能性について掘り下げてみる。
「昭和のキャンプ」復活宣言
何かと締めつけの強い昨今ではなかなかお目にかかれないメッセージを打ち出した監督がいる。千葉ロッテマリーンズの新任監督・サブロー監督である。

2025年、最下位に沈んでしまったチームを立て直すべく新指揮官に就任したサブロー監督は、就任会見で「厳しい練習をして、若手が羽ばたけるチームにしたい」と抱負をのべ、直後に控えた秋季キャンプについて「昭和の(厳しい)キャンプになる」「伝説の伊東キャンプ※を超えるキャンプをできたらなと思う」と「スパルタ指導」を予告していた。
(※読売ジャイアンツが長嶋監督時代に実施していた猛練習で有名なキャンプ)
歴代、過剰ともいえる徹底的な「管理」野球でチームを強化して監督もいれば、「寛容力」を打ち出して個性豊かな選手たちをまとめ上げた監督もいる。毎年必ず選手が入れ替わる特殊な組織とあって、チームの数だけマネジメントの手法が存在し、正解というものが存在しない。その世界にあって、ハラスメントを恐れる我々一般会社員がなかなか踏み切りづらくなった「スパルタ」を標榜するチームが出てきたのである。
1年ごとに契約が更新される個人事業主の集まりであるプロ野球選手のマネジメントは一般企業とはまた異なるものであると推察するが、この時代に「スパルタ」を標榜し、どう機能させようとしているのだろうか。
ありがたいことに千葉ロッテマリーンズは公式YouTubeチャンネル上にキャンプのハイライト動画をアップロードしてくれている。今回は公式動画をもとに、サブロー式「スパルタ」チームビルディングから学べることを考えてみたい。
「地獄」のキャンプを支えた3つの“アメ”
①若手が萎縮しない空気
このキャンプを支えた原動力に、富山・松石という、参加選手の中でも特に若い部類に入る2人の期待の育成選手がいる。この2人は容赦がなく、とにかく臆さない。先輩後輩関係なく練習中も試合中も常に「ガヤ」を投げかけているのだ。
とにかく響く声で「腕動かせ!」「膝使え!」「野球は膝!」「(地獄の)伊東キャンプを超えるぞ!」と叫び、指導するコーチも練習中の選手もあまりのガヤに思わず笑みを浮かべながら厳しい練習をこなす。伊東キャンプはもちろん彼らが生まれるとうの昔に行われたキャンプではあるのだが、彼らの中では「監督が言う地獄のキャンプを超えて見せる」という気概が感じられる。これを育成から這い上がろうとしている彼らが率先しているのであるからチームの雰囲気が良くなるわけである。
動画の中では、監督がこの2人に近づき「あっちでガヤやってこい」と耳打ちしているような場面が映っていた。別の動画では2人して「監督を(ガヤで)笑わせたら勝ち」とも嬉々として発言している。こうした「ガヤ」を自由にやらせて、チーム活性化へ活かしているような空気感が、「スパルタ」キャンプを可能にしているのかもしれない。
②各コーチへの適切な権限移譲
動画を見る限り、投手陣の練習風景はやや野手陣とは異なっていた。3日目の様子では数人ずつのユニットでウエイトトレーニングに励む様子が見て取れた。確かに強度の高い練習をしているのだが、野手陣のような「地獄の振り込み」といった印象とは少し違い、それぞれが自身と向き合いながら取り組んでいるように見えた。
これについて、黒木投手コーチは「野手のバットのスイング量がすごいが、投手陣は課題をしっかりつぶしていく作業をしている」と話しており、1人ひとりごとにシーズンで出てきた課題をつぶす作業をしていることを強調していた。「しっかり厳しくする」という方針の下で各チームリーダーであるコーチと対話しながら、適切な権限移譲が出来ているというのも1つポイントなのであろう。
③さらっとはさまれる「言葉」
やはり「地獄のキャンプ」を標榜しているだけあり、野手陣を中心に選手が苦悶の表情を浮かべながらも必死に打撃や守備に励む様子が見て取れた。その中で気になったのは、各担当コーチがさしのべる言葉である。
例えば、屋外での打撃練習終えたレギュラー選手である高部が、球拾いを手伝おうとした際に新任の西岡コーチはさらっと「球拾わなくていいよ、お前は打つことが練習であって球を拾うことが練習じゃない」と声をかけ、コーチ自身が球を拾い、高部を室内練習場へ先に行かせていた。かつてのスーパースターである西岡剛がそんなことをさらっと言うのである。声をかけられた高部は気合を入れ直した面持ちで室内へ行き、練習を継続していた。
また、ある守備練習の場面では、松山コーチが「今やったら10年飯食える!」と声をかけると、選手が「いっぱい飯食える!」と元気に返し、守備練習に活気が出ていた。練習の冒頭で「元気がないやん!」とイジられていた、これまた期待の若手である上田も、練習の最後には一番大きい声を出していた。
このように、何気ない言葉の投げかけが、ただのシゴキではなく本気で自分の成長を願っているのだと選手自身に感じ取らせ、猛練習をこなす触媒となっている様子がうかがって取れた。
厳しさと主体性がかみ合えば躍進も
最終日には、キャンプ動画で何度も「(バットを振りすぎて)手の皮がなくなっちゃいますよ!」と猛練習ぶりをアピールしていた主軸候補の山本大斗が「地獄のサブローキャンプのおかげで優勝できたといえるようにこのオフシーズンも皆さん頑張りましょう」と充実の表情で最後の挨拶を行っている。

都城秋季キャンプ打ち上げ!山本大斗選手の一本締めにカメラが接近【広報カメラ】
(https://youtu.be/a2eUaAlEEH4?si=C0yRdxMApZz6DR6e)
チームの前監督である吉井理人氏は、常々「自分で考える力」の大事さを選手たちに説き、根付かせようと注力していた。時間をかけて培った「主体性」に猛練習で得た「経験と自信」が乗っかった2026年式の千葉ロッテマリーンズが躍進すれば、令和の世の中に新たなチームビルディングの成功例がまた一つ増えるかもしれない。
「厳しさ」だけでは納得できないほどたくさんの情報・価値観に触れられる現代において、千葉ロッテの目指す「昭和×令和」な“サブロー流マネジメント”に注目していきたい。
文/德田俊介
ロッテが日本でのホテル事業を拡大し日韓連携で新会社を設立、2034年までに国内で20ホテルを目指す
■連載/阿部純子のトレンド探検隊 ロッテグループは1973年に韓国でホテルロッテを設立しホテル事業に参入。韓国を中心にグローバルに事業を拡大し、現在は世界7カ国…







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