2025年のスマホ・通信業界はどんな1年だったのか? スマホ・通信業界に詳しいジャーナリストの石野純也氏に、2025年のスマホ・通信業界の振り返りと2026年の展望を聞きました!
スマホAIは「エージェント」への進化が加速
2025年は、“スマホのAI”が拡大した1年だった。と言ってもスマホで動作するAIは突如今年振ってわいたものではなく、以前から徐々に取り入れられてきたものだ。一例を挙げると、サムスン電子は「Galaxy AI」を24年に発売した「Galaxy S24」シリーズから搭載しているし、グーグルのPixelもコンピュテーショナルフォトグラフィーを早くから取り入れてきている。
アップルに目を移しても、iPhoneやiPadに搭載されるApple Intelligenceは24年に登場した新機能。1年前に発売された「iPhone 16」シリーズが、「Apple Intelligenceのために設計された」とうたわれていた。その意味で、AIのトレンドは以前から継続しながら拡大していると言えるだろう。
ただし、その中身は徐々に変わり始めている。大きいのが、エージェント的に振る舞うAIへの対応だ。メールの文面を解釈してカレンダーに登録したり、ネットを検索して必要なことをメモアプリにまとめたりと、よりスマホのAIがユーザーの代理人のように振る舞えるようになりつつある。
サムスン電子の「Galaxy S25」シリーズから対応が始まったGeminiのアプリ連携は、それを象徴する機能と言えるだろう。実際、この機種から、上記のようなことをGeminiに話しかけるだけで実行できるようになった。あくまでGeminiの機能として実装されているため、今では多くのAndroidスマホで同様のことができる。サムスン以外にも、シャオミやOPPOなどの中国メーカーが、同機能に自社アプリを対応させた。
この取り組みを発展させ、よりユーザーの行動を先回りして情報を提案してくれるのが「Pixel 10」シリーズに搭載された「マジックサジェスト」だ。Geminiのアプリ連携の場合、ユーザーが何らかの指示を出す必要があったが、マジックサジェストは、メールや電話の内容をAIが読み取り、関連するデータをメールやカレンダーなどから引き出したり、対応するアプリを提案したりする。
マジックサジェストは基本的にPixel 10シリーズに搭載されたオンデバイスのGemini Nanoで動作しており、個人情報は外部のサーバーには送らない仕様だ。共通しているのは、これまでのアプリを中心としたエコシステムを大きく変える可能性があるということ。Geminiのアプリ連携やマジックサジェストは、AIがアプリの選択を肩代わりし、目的を達成している点でエージェント的と言える。
これらに近い機能は、アップルも24年のWWDCでApple Intelligenceの目玉として発表していた。同社が「よりパーソナライズされたSiri」と呼んでいるのが、それだ。この機能も、上記のGeminiやマジックサジェストと同様、ユーザーの個人情報を学習して、アプリを横断した操作が可能になる……はずだった。
一方で、サービスはApple Intelligenceの日本語対応が始まった4月にも開始されず、WWDCや「iPhone 17」シリーズ発表時にはほぼ言及がなかった。その時期は、26年になることが明かされている。発表時にはまさか2年ごしのプロジェクトになってしまうとは思わなかったが、ユーザーの求める品質に達するにはやはり時間がかかるようだ。
実際、先に挙げたGeminiのアプリ連携機能も、実際にできることはごく一部にとどまっている。Pixel 10シリーズのマジックサジェストに至っては、ほとんど情報を提案してくれない。Android陣営が先行しているように見える一方で、その完成度は依然として低い。逆に、実用性が増し、本当にアプリを代替するようなものになれば、エージェント的なAIがスマホの“真のトレンド”になると言えそうだ。今はまだ、その助走段階と捉えることができる(徒競走に例えるとアップルはまだスタートラインにも立っていないが……)。
トレンドは「薄型化」、明暗分けたその価値
ハードウェアの面でも、今年はスマホに大きな動きがあった1年だったと総括できる。このところ、処理能力の向上やカメラの高画質化に重きが置かれていた一方で、25年はにわかに「薄型化」が注目を集めるようになった。日本では、9月にアップルが「iPhone Air」を発売したことが記憶に新しい。
グローバルでは、1月にサムスン電子が「Galaxy S25 Edge」をサプライズとして発表。発表時点では試用できる実機がなく、他のGalaxy S25シリーズより投入も遅かったが、薄型スマホに一番乗りを果たした。iPhone Airは厚さ5.6mm、Galaxy S25 Edgeは5.8mmと、いずれも5mm。実際に端末を触ってみると、その薄さや軽さには驚かされる。
ただ、Galaxy S25 EdgeやiPhone Airは、必ずしもその評価や驚きが実売にはつながっていないことが報じられている。同時期に登場したiPhoneでは、ベーシックモデルのiPhone 17やプロモデルの「iPhone 17 Pro」の方が人気は高く、後継機が登場しないのでは……とたびたび報じられている。Galaxyも同様で、薄型化だけではユーザーを引きつけなかったことがうかがえる。
もっとも、その目標値が高すぎたことは否めない。メーカー側は、そのシリーズを象徴する代表モデルと考えていたのに対し、ユーザー側はあくまで派生モデルの1つととらえていたことがうかがえる。iPhone Airについては、販売ランキングで上位に入るなど、必ずしも実売が伴っていないわけではないが、メーカー側の期待値との落差もあったようだ。
また、薄くて軽いことにプラスαの価値があれば話は別だ。同じ薄型モデルでも、フォルダブルスマホの「Galaxy Z Fold7」は発表時に大きな話題を集めた。サムスン電子ジャパンによると、日本でも非常に好評とのことで、24年に発売した「Galaxy Z Fold6」比で180%のスタートを切ったという。本体価格で25万円を超えるスマホでは、驚異的な伸びと言える。
閉じたときでも普通のスマホと変わりない薄さというのが、評価を集めたポイントだ。単に薄く、軽くするのではなく、相対的に一般的なスマホよりも厚くて重かったフォルダブルスマホをここまで薄くできた点が、ユーザーに受け入れられたと考えられる。同じ薄型化でも、方向性が違うだけでここまで評価が変わるというわけだ。
とは言え、iPhone AirもフォルダブルiPhoneの布石ではないか……という見方がある。折りたたむことを前提に、どこまで薄くできるかに挑戦したということだ。設計面でのノウハウなどは、今後に生きてくる可能性もある。19年に発売された初代「Galaxy Fold」から足かけ6年で、ついに横開きのフォルダブルスマホがメジャー化し始めたと言える。
薄型化の技術は、その飛躍の一助になったと捉えることができそうだ。もっとも、Galaxy Z Fold7はその薄さの代償として、S Penを仕様から省いてしまった。内側カメラの画質向上のため、アンダーディスプレイカメラをやめたのも賛否両論ある。サイズという問題を解消した今、フォルダブルならではの魅力をどう高めていくかは課題として残る。逆の見方をすれば、フォルダブルスマホには大きな伸びしろがある。26年以降も、このジャンルはさらに進化していきそうだ。
文/石野純也







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