アメリカではトランプ大統領が自らが強く主張する利下げ実現のため、利下げに積極的な米国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット(Kevin Allen Hassett)氏を米連邦準備制度理事会(FRB)の議長候補と紹介。今後の人事が注目されている。
一方、国内に目を向けると、日銀の植田和男総裁が2025年12月1日に行なった会見で、利上げを予感させる発言を行なったとして話題となった。
今回は、三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩氏から、そんな植田発言に関する分析リポートが屠蘇いたので、概要をお伝えする。
植田総裁は1月利上げ直前と類似のメッセージを発信
日銀の植田和男総裁は12月1日、名古屋市で地元経済団体向けに講演し、その後、会見を行なった。今回は、いくつか重要なキーワードが示されたと思われるので、以下、要点を整理してみたい(図表1)。

まず、「賃金」について、植田総裁は来年の春季労使交渉(春闘)に向けた初動のモメンタム(勢い)の確認が重要との見解を改めて示した上で、連合や経団連、経済同友会の、賃上げに関する前向きな動きを列挙した。
さらに、「本支店を通じ、企業の賃上げスタンスに関して精力的に情報収集している」ことを明示。この点を含め「利上げの是非について、適切に判断したい」と述べた。
この発言は、2025年1月の利上げ直前にみられた、氷見野良三副総裁の発言(「1月に利上げをするかどうかというところが議論の焦点」)や、植田総裁の発言(「利上げを行なうかどうか議論して判断する」)に類似している。
■円安も注視、また緩和度合いの適切な調整は政府・日銀の取り組み成功につながると明言
次に、「為替」について、植田総裁は「過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」として、「そうした動きが、予想物価上昇率の変化を通じて、基調的な物価上昇率に影響する可能性があることに留意が必要」との考えを示した。
なお、直近では、片山さつき財務相から円安をけん制する発言もあり、政府・日銀とも、一段の円安進行を警戒している点で一致していると思われる。
植田総裁はまた、最近の米国経済や関税政策を巡る「不確実性」は低下。経済・物価の中心的な見通しが「実現していく確度」は、少しずつ高まっているとの認識を示した。
また、利上げは景気にブレーキをかけるものではなく、アクセルをうまく緩めていくプロセスであるとし、遅すぎず、早すぎず、緩和の度合いを適切に調整していくことは、「政府と日銀の取り組みを最終的に成功させることにつながる」と明言した。
■植田総裁発言を受け12月利上げの予想に変更、ただ12月1日のような国内市場の反応は一時的か
三井住友DSアセットマネジメントは従来、日銀が春闘の初動のモメンタムを丁寧に見極めることを想定、25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利上げが決定される時期を2026年1月としていた。
ただ、今回の植田総裁の発言を踏まえると、その見極めには時間をかけない様子がうかがえ、円安の動きも考慮して、12月の利上げに向けた地ならしを行なったと推測される。
これらを踏まえ、利上げ時期を12月に前倒す一方、次回は2026年7月との見方を維持する。
12月1日の国内市場では、12月の利上げの織り込みが進み(図表2)、各期間の国債利回りが上昇して、ドル安・円高が進行、日経平均株価は下落した。

ただ、日銀の利上げは、政策金利を緩和的な水準からゆっくりと中立水準へ戻すことを念頭に行なっていると考えられ、長期的にみれば、国内経済や金融市場にはむしろ好ましいと思われる。
そのため12月の利上げ織り込みに起因する昨日のような国内市場の反応は一時的なものとみている。
構成/清水眞希







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