東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部の日向佑樹研究生と松島雅人教授らの研究グループはこのほど、日本医療福祉生活協同組合連合会 家庭医療学開発センター Practice-based research network(運営委員長 渡邉隆将)と共同で、高齢者の約4人に1人が在宅訪問診療の開始後に日常生活動作(ADL)の改善を経験していたことを明らかにした。
本研究の成果は、2025年11月14日Journal of General and Family Medicine誌に掲載された。
1.背景
日本では、医師による在宅訪問診療が推進されている。在宅医療を受ける患者において、日常生活動作(ADL)は、介護者の負担や患者本人の生活の質に大きく影響する。本研究では、医師主導の在宅医療におけるADL改善の発生頻度を明らかにし、関連する要因を特定することを目的とした。
2.方法
本後ろ向きコホート研究では、2013年2月1日から2016年1月31日の間に医師による在宅訪問診療を開始し、Barthel Index(BI)スコアが90以下で、65歳以上の患者を対象とした。
主要評価項目は、ベースラインからBIスコアが10点以上改善することと定義した。在宅訪問診療開始後のBIの改善を、死亡を競合リスクとした累積発生率関数を用いて解析した。BI改善に関連する要因を特定するため、原因別Cox回帰分析(cause-specific Cox regression)を実施した。
3.結果
医師による在宅訪問診療の開始後、約4分の1の患者で訪問診療開始後と比べてADLの改善を経験していた。
原因別Cox回帰分析ではMMSE-Jスコアが14未満の患者はADLが改善しにくい一方、病院から在宅医療へ移行した患者はADL改善の可能性が高いことが示された。
このグラフは、医師による在宅訪問診療を始めてからのADL(Barthel Index)改善を経験した割合を示している。赤い線はADLが改善した人の割合を、淡い赤の帯はその95%信頼区間を示している。訪問開始から1か月以内に約12%、1年以内に約27%の方で改善が見られ、多くの方が早い段階で機能を取り戻す経験をしていることがわかる。
左から、外来通院から在宅医療へ移った人、病院から退院して在宅医療を始めた人、リハビリ施設から在宅に移った人のグラフだ。赤い線(中央)は病院退院後の方の改善を示しており、最も早く多くの方がADLを改善していた。
4.今後の応用、展開
本研究の結果は、在宅訪問診療開始時のADL変化を推定する上で役立つとともに、在宅医療導入後の早期段階でケアを適切に調整する重要性を示している。
さらに、医師による在宅訪問診療という限られた資源をどのように配分するべきかという重要な課題に対して、基盤となる知見を提供するものと考えられる。今後、前向きコホート研究であるEMPOWER Japan studyの2次解析研究を進め、在宅療養高齢患者さんの実態をさらに明らかにしていく予定だ。
5.脚注、用語説明
MMSE-Jスコア: MMSE-J(Mini-Mental State Examination – Japanese version) は、高齢者の 認知機能(もの忘れ・理解力・判断力など)を評価するための検査の日本版だ。30点満点で、点数が低いほど認知機能の低下が疑われる。
出典元:慈恵大学
構成/こじへい







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